ライフログでペットの健康を守る時代が、すぐそこに ①

ライフログでペットの健康を守る時代が、すぐそこに ①

  • 小川 篤志
  • 上野 弘道
  • 本間 梨絵
      

オーナーにとって、ペットの体調不良は大きな心配事です。皆さんの中には、ペットの突然の体調不良で動物病院に駆け込んだことがある方も多いのではないでしょうか。動物病院では、獣医師が丁寧な問診のもとに不調の原因を探ってくれます。実はこうした動物医療の現場において、「日常の生活記録(ライフログ)」が大いに役立つということを知っていますか?
「ライフログはどんなことに役立つの?」「それを利用すれば何ができるの?」。今回は、皆様のそんな疑問にお答えすべく、猫専用のライフログデバイスの開発にも携わる獣医師の小川篤志先生、日本動物医療センターの上野弘道先生、同センターの本間梨絵先生が集合。「ライフログ」を使った動物医療の可能性について、じっくりと語っていただきました。

プロフィール

小川 篤志 先生

日本獣医生命科学大学 獣医学部卒。獣医師。救急医療のキャリアを経て、「目の前の動物の命でなく、広く動物を助けたい」との思いで、2013年にペット保険会社へ入社。2015年より経営企画部長として多数の子会社設立・新規事業創出等に携わり、子会社のベンチャーキャピタルや海外子会社の代表取締役に就任。2020年より、猫専用の首輪型IoTデバイス「Catlog(キャトログ)」を開発する株式会社RABOに参画。
株式会社RABO
プロフィール

上野 弘道 先生

1998年、日本大学 生物資源科学部獣医学科卒。同年、獣医師国家試験合格。2001年、日本動物医療センターに入社。勤務医として多くの手術を手掛けて外科的スキルを磨く傍ら、獣医師、経営者としての手腕を発揮し、医療部長、副院長などを経て3代目院長へ。2016年名古屋商科大学大学院にて経営学修士(MBA)を取得。2022年、日本獣医生命科学大学にて博士(獣医学)を取得。同年3月、院長を後進に託し、現在は日本動物医療センターグループ代表に。公益社団法人日本動物病院協会(JAHA) 外科認定医。公社)日本獣医師会(JVMA)理事。公社)東京都獣医師会(TVMA) 業務執行理事。公社)日本動物病院協会(JAHA) 専務理事。一社)日本小動物整形外科協会(VOA Japan)副代表理事。
日本動物医療センターホームページ
プロフィール

本間 梨絵 先生

青山学院大学英米文学科卒業後、一般企業での就労経験を経て、動物愛護の先進国であるオーストラリアに渡る。現地の動物看護師育成学校を卒業後、動物病院や保護施設でのボランティア活動に携わり、人と動物たちとの絆の深さに深い感銘を受ける。帰国後、日本獣医生命科学大学獣医学科にて獣医学を学ぶ。同大学卒業後、日本動物医療センターに就職。2020年、日本動物医療センターグループ・原宿犬猫クリニック院長に就任。ISFM国際猫医学会、JSFMねこ医学会所属
原宿犬猫クリニックホームページ

はじめに……

EBM・NBMについて知ってみよう

皆さんは、「EBM」や「NBM」という言葉を聞いたことがありますか。耳慣れない言葉かもしれませんが、人間動物問わず、医療界では広く浸透している考え方です。
まず、「EBM」はEvidence Based Medicineの略で、日本では「根拠に基づく医療」と訳されます。科学的根拠(エビデンス)、専門家(医師)の経験や知識、患者の価値観の3要素を総合的に判断して治療方針を決める考え方です。
一方で「NBM」とはNarrative Based Medicineの略で、「物語と対話に基づく医療」と訳されます。患者の話(=物語)をベースにして、その人本人の背景や人間関係までをも理解し、患者の抱える問題に対して、身体的のみならず、精神・心理的、社会的にもアプローチしていこうとする考え方です。
EBMとNBMは対立する考え方ではなく、患者中心の医療実現のための両輪として機能することが期待されています。

ペットのライフログは動物医療に、どう役立つの?

小川先生

今日は皆さんと一緒に、動物のライフログ(=生活記録)が動物医療へ与える影響や可能性についてお話しできるということで、とてもうれしいです。 僕はこの「生活記録に基づく医療」を、「LBM(Lifelog Based Medicine)」と呼んでいるんですが、これについてぜひ、皆さんの意見を伺いたいです。どうぞ宜しくお願いします。

上野先生

LBM、生活記録に基づく医療という考えは非常に面白いですね。このワードは、小川先生が考えたんですか

小川先生

はい。そこに思い至った原点はTRVA(夜間救急動物医療センター)で勤務していた頃の経験です。勤務時には「もう少し早く連れてきてくれれば」と思ったり、「数時間前に何があったか分かるだけで推測できる病気を絞り込めるのに」と何度となく歯がゆい思いをしてきました。もしも、来院する前の情報であるライフログ(=生活記録)があれば、もっと早く病気に気づくことができるし、より正確な診察を行うための材料になるんじゃないかと、ずっと思っていたんです。ところで先日、AppleのスマートウォッチのCMに驚いたんですが、ご覧になりましたか?

救急医時代の小川先生

本間先生

意識を失った人の情報が、ご本人の時計を通じて病院に通報されるものですよね。

小川先生

そうです!僕はあれをペットでもやりたいんです。やるべき、と言ってもいいかもしれません。人間は自覚症状を訴えることも、救急車を呼ぶこともできます。でも、動物はそれができません。オーナー様が異常に気づくまで、我々は動物を診療できない。つまり、動物医療は常に後手にまわっているというのが僕の基本的な考え方です。どうにかして、予防医療を発展させられないかという思いから、このLBMという考えが生まれました。

ログデータがあると、何ができるの?

小川先生

治療の効果検証をオーナー様のお話に頼ってきた、これまでの獣医療の不足点を、ログデータは上手に補完して獣医療の質を高めてくれるはずと、私は考えています。また、人間が気付くことができないような、わずかな症状のゆらぎにも気付くことができるのではないでしょうか。本間先生は、日々オーナーの皆さんと向き合っていて、同様の思いを持ったことはありませんか?

本間先生

動物は言葉を話さないので、確かに現在の動物医療では、オーナー様への問診がとても大事になります。ただ、感じ方は人それぞれですし、思い込みもありますから、100%正しい情報でないこともあるんですよね。「なんだか寝てばかりいるんです」という言葉をとっても、いつもより運動量が30%程度落ちているのか、90%くらい落ちているのかは分かりません。一番近くでペットを見ている方の言葉や目線は大事にしたいとは思うのですが、それだけでは足りないんです。ですから、普段のライフログがあると、診察の助けになると私も感じます。

上野先生

そうですよね。たとえば、12歳以上でほぼすべての猫が関節炎を患っていると言われています。診察室にステップを作って、猫に上り下りさせて、その動き方で関節炎かどうかを判断できればいいのですが、猫の場合は診察室でいつもどおりの動きを見せないケースが多いので、関節炎にはなかなか気づけないですよね。でも、もしライフログがとれていて、家での様子がそこから読み取れれば、関節炎の場合も早期発見やモニタリングが可能です。

本間先生

多飲多尿もですよね。お水をたくさん飲んで、おしっこをたくさんするこの病気においては、お水をたくさん飲むことを、オーナー様が良いことだと思ってしまうことも多いんです。もしもライフログで基準値を超える量を飲んでいると分かって、そのデータを獣医師が普段から共有できていれば「一度診察させてください」とお願いすることもできます。重篤になる前に注意喚起ができますよね。

上野先生

アラートを獣医師側から出せるのは、画期的ですね! 僕も、ライフログのデータをオーナー様と動物病院が共有できれば予防医療や先制医療ができるようになると思います。これまでは、オーナー様の「主観」で異常を発見して病院へ連れてきてもらっていましたが、ライフログがあれば、たとえオーナー様が気づかなくても深刻な状態になる前に病気に気づくことができる。予防的な手立てを打てる可能性が出てきます。

小川先生

そうなんです。問診では我々の聞く技術にもばらつきがあり、オーナー様もタイムラインに沿って正確に症状を話すことは難しい。それこそ「主観」や「気持ち」が入り込んでしまって我々が知りたい「ファクト(事実)」がブレることもしばしばあります。その中でライフログは、真実にたどり着くための鍵になってくれると考えています。

 
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