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【獣医師インタビュー】動物もオーナーも、スタッフも幸せになれる動物病院であるために。

【獣医師インタビュー】動物もオーナーも、スタッフも幸せになれる動物病院であるために。

 
上野 弘道
日本動物医療センター
350HugQ
      

動物病院として「24時間の救急診療」「24時間の看護」を実現し、そこで働くスタッフにとっての「優しい働き方」をともに実現する「日本動物医療センター」。動物の声を聞き、その家族に寄り添うように、スタッフの幸せにも寄り添う本院の体制は、どのようにできあがったのか。3代目院長を務める上野弘道先生は、その道のりは「決して簡単ではなかった」と振り返ります。また、コロナ禍、緊急事態宣言下でも24時間診療を続けると決断をした上野先生。そこにあった葛藤も語っていただきました。

目次

安心できる医療を「24時間」提供すること。
その厳しさを知り、それでも実現したいと思いました。

上野先生が獣医師を目指されたきっかけ、簡単なプロフィールを教えてください。

4歳くらいのとき家にあった「どうぶつえんのおいしゃさん」という絵本を読んで、「楽しそうな仕事だなあ」と思ったのが、獣医師を目指したきっかけです。絵本の中のお医者さんは腐ってしまった亀の甲羅をアクリル板で作ってあげたり、鶴の折れてしまったくちばしを桐の木で作ってあげたり、とにかく創意工夫していて。そこにワクワクしたんです。自分自身、動物も工作も好きだったので、その両方ができる動物のお医者さんっていいなと。そこから獣医師を目指しました。
勤務医として経験を積み、日本動物医療センターに入社してしばらくは、「自分の病院を開こう」と思っていました。しかし、当時から24時間診療に挑戦していた当院で勤務するうちに、24時間「責任を持って動物を診ること」、ご家族にとって「心から安心できる医療を提供すること」の難しさを目の当たりにして、考えを変えました。これは「獣医師1人の力では到底叶えられることではないぞ」と気づいたんですね。だからこそ開業ではなく、同じ志を持ったスタッフと力を合わせて24時間確実な獣医療を届ける道を選びました。

インタビューを受けている男性

プロフィール

上野 弘道 先生

1998年、日本大学 生物資源科学部獣医学科卒。在学中に獣医師国家試験合格。2016年名古屋商科大学大学院にて経営学修士(MBA)を取得。勤務医として多くの手術を手掛けて外科的スキルを磨き、2001年に日本動物医療センターで診療を開始。獣医師、経営者としての手腕を発揮し、医療部長、副院長などを経て3代目院長へ。
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA) 外科認定医。公社)東京都獣医師会(TVMA) 業務執行理事。公社)日本動物病院協会(JAHA) 専務理事。一社)日本小動物整形外科協会(VOA Japan)副代表理事。
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日本動物医療センターの特徴とは?

本院は1969年に開業しています。初代院長は学会でドイツ・ハノーバーを訪れた際にヨーロッパの動物病院の在り方に感銘を受けて、日本動物医療センターの設立を心に決めたそうです。当時、日本の動物医療は、飼い主さんから連絡を受けて家に出向き軒先で簡単な診察を行うなど、欧米に比べて遅れていたと言います。そんな状況を変えるべく、「獣医師の地位向上」と「常に誠意ある診療を行うこと」を掲げて、地上4階・地下2階、24時間診療の動物病院を作りました。海外での視察から必要性を感じた24時間診療を実現しようとしたわけですが、日本においては前例のないこと。体制が整うまでにはたくさんの苦難があったようです。しかし、日本動物医療センターが開業する前から枕元に電話を置いて、必要とあればパジャマに白衣を着て診療にあたったという創業者にとっては「命に誠実であるために」、どうしても24時間診療は必要なことだったのだと思います。
「命は時間を待っていられないからこそ、獣医師としていつでも対応できる姿勢を持ち続けなければ」という創業者の精神は、今も私たちに受け継がれ、2004年には24時間看護を確立し、「安心して動物たちを預けられる」体制をさらに強化しました。また、近年ではご家族に寄り添う「コンシェルジュ」や動物別の待合室、診療室の設置など、ご家族の安心のための取り組みも積極的に行っています。

受付にいる女性

自分でSOSを出せない動物たちに向き合うために。
勤務医としての道を選びました。

開業という道を選ばれなかった理由は何だったのでしょうか?

確かに働き始めた当初は独立開業も考えていました。でも勤務する中で、自分が眠っている間に入院していた動物が亡くなってしまうという経験を何度もして……。これがとにかく辛かった。「何とかしたい。でも1人で開業してもまた同じことを繰り返すだろう」と。そんなときに一緒に働いていた、のちに2代目社長となる創業院長の息子から「残ってほしい」と誘いを受けて、この病院でたくさんのスタッフとともに24時間動物を守っていこうと決心したんです。

インタビューを受けている横顔の男性

24時間診療・24時間看護を実現するのは、とても難しいことだと思うのですが?

そうですね。獣医師1人だと絶対に実現できませんし、獣医師、看護師などのチーム力があってこその体制です。私が働き始めた当時も診療は24時間行っていて、何かあればすぐ対応できるようにしていましたが、次第にそれだけでは「自分でSOSを出せない動物を救うにはまだ足りない」と感じるようになっていったんです。例えば、アラートが鳴ってから駆けつけても、すでに遅かったということが幾度もあり……。とはいえ、眠らずにいれば体がもたない。その解決策として2004年にスタートしたのが、看護師が昼夜逆転で勤務する24時間看護でした。現在では、獣医師も看護師も日中勤務、夜間勤務の交代制を採用。日中勤務から夜間勤務へ移行する際も、スタッフがしっかりと休息を取ってから夜間勤務へ移れるよう体制を整えています。 担当スタッフが無理なく夜間も動物に寄り添い、動物たちの目となり耳となって状況を確認してくれることで、獣医師もしっかりと診療を行える体制になっています。

「24時間看護・診療」を実現するために。
必要なのは、無理のない勤務体制とチーム医療の確立でした。

スタッフの皆さんはどのような働き方で、「24時間看護」を可能にしているのですか?

夜勤があるので大変そうと思われがちですが、2007年頃から体制を整えて、できるかぎり獣医師にも看護師にも負担の少ないシフトを作りました。紆余曲折いろいろな方法にチャレンジして、行きついたのが「1ヶ月夜勤、その後5連休、その後の3ヶ月は夜勤なし」というスタイルです。人間の体は2週間でリズムが変わるということを踏まえて、最初は6週間のローテーションとしていたんですが、スタッフから「少し長い」という意見が出たので4週間になりました。週1回で夜勤をするスタイルより、この1ヶ月まるごと夜勤の方が体も慣れてくるので楽なんだそうです。また、夜勤月の後には5日間の連休があるので、その間で昼夜逆転生活をもとに戻し、気持ちをリフレッシュできるようにしています。

インタビューを受けている男性

ホワイト企業認定を受けていますが、勤務体制を整えるきっかけなどがあったのですか?

ホワイト企業認定を取得しようと思って、制度を整えたわけではないんです。これからは私のように開業ではなく、勤務医を選ぶ獣医師も増えていくだろうし、職場そのものを修業の場ではなく、自分を磨く大切な場所、時間にしてほしいという思いがあって。スタッフみんなが一度きりの人生の中で、生きがい、働きがいを感じられるように体制づくりに力を入れてきました。そうした流れの中で、ホワイト企業認定を「試しに受けてみよう」と診断を受けたら、本当に認定されたという感じなんです。

ただでさえ、獣医師という職業は気が休まるタイミングのない職業です。重篤な子を担当していると1日中その子のことを考えますし、入院している複数の子たちを常に心配している。それに加えて、勤務体制が体を酷使するものであれば、当然、心身ともにボロボロになってしまいます。
そうならないために、私たちは「助け合いの職場」を行動指針にし、スタッフ同士が助け合いながら長く働きやすい職場を実現してきました。制度としては、長期休暇制度や週40時間勤務、週4日勤務スタイル、時短勤務など様々な働き方を選択できるようにするなど、多様な制度を取り入れています。もちろん育休産休制度もありますし、男性の獣医師も普通に育休を取得していますね。とはいえ、これらの運用がうまくいっているのは、スタッフのみんなの協力のおかげなんです。

ホワイト企業認定書※ホワイト企業認定:一般財団法人日本次世代企業普及機構が行う、 “次世代に残すべき素晴らしい企業”をホワイト企業認定によって取り組みを評価・表彰する制度。

勤務体制を整えることで、オーナーの皆さんにはどのような効果があるのでしょう?

動物たちは「愛玩用のペット」だった時代から、「生涯のパートナー」として時代とともに、変化してきました。その中で、やはり「24時間大切な家族に寄り添ってくれる病院」へのニーズは高まっていると感じています。だからこそ、24時間体制をこれからもしっかりと維持し続けていきたいと考えています。そこで重要になってくるのが、いつでも獣医師が最適な医療を提供するための勤務体制と、それを支えるチーム医療。担当医師に縛られず、チームで情報を共有して、「○○ちゃんのことは、このチームのメンバーであれば把握しています」という状況を作っていることが重要です。現在院内には3つのチームがあり、それぞれの担当ご家族がいます。これを充実させることで、適切な医療を常に提供できる環境を整え、ご家族の皆さんにより安心感をもってもらえたらと思っています。まだまだ至らない点はたくさんあるのですが、いい部分を積み重ねて10年後に「あの頃の私たちはまだまだ未熟だったね」と笑って振り返ることができるような、そんなチーム、病院を作っていきたいですね。

ダイバーシティの思いがこもったトイレサイン上野先生こだわりのダイバーシティ&インクルージョンの思いがこもった「トイレサイン」。訪れるすべての人にとって、等しく安心・快適であるようにというメッセージが表れています。

コロナ禍でも守り続けた「24時間体制」。
今後は動物の健やかな毎日をサポートする存在になりたい。

2020年、コロナ禍においても24時間体制を崩さずにこられたのですね。

2020年3月以降は、院長としてどのような運営をしていくか、本当に悩みました。緊急事態宣言が発令された4月以降の診療体制をどうするか、「24時間体制が当院としての使命であり責務」であるからこそ難しい判断を迫られましたね。ただ当時NYのアニマルメディカルセンターは、あの感染拡大の中でも継続をしていたんです。そのことに勇気をもらい、私も継続を決めました。とはいえスタッフに危険が及んではいけないので、スタッフの健康状態を確認し、基礎疾患を持っている人は優先的に休めるようにしました。そのうえで、自主的に休みたいスタッフも休んでOKというノーワークノーペイのルールを設定。4月上旬、全員に生活資金を支給し、「この病院に集まる動物やご家族を守るために24時間体制を維持しつつ、全員無事に乗り切ろう」と宣言しました。
結果、ここまでスタッフから感染者を出すことなく、24時間体制を完遂。スタッフ全員がそれぞれに努力を重ねてくれたからだと感謝しています。「どんなときも医療を必要としている動物たちを置き去りにはしない。夜1人ぼっちにしない」それが私たちの合言葉だと実感した2020年でしたね。

インタビューを受けている笑顔の男性

最後に、オーナーの皆さんへのメッセージをお願いします。

これからも24時間体制で、真摯に動物たちに向き合い、医療を提供していきたいと考えています。ご家族の不安を取り除き、安心していただくことも私たちの大きな役割です。大切な動物が健康に、ご家族と長く楽しく暮らしていけるよう、スタッフ全員でサポートをしていきたいと考えています。そのためにもスタッフの労働環境を整え、働きやすい病院を目指します。そして、病院に関わるすべての動物たち、人々の幸せを追求していきたいと思います。また、動物病院は今後、救急や問題が起こったときにだけいく場所ではなく、病気にならないためにも通う場所になっていきたいと考えています。獣医師がこまめに健康状態や肥満、口内環境をチェックし、健康でいられるためのアドバイスをする方が、動物にとってもご家族にとっても幸せであるはず。ご家族の皆さんには、「この子の健康は私が守るぞ」という気持ちで、ぜひ、そのために動物病院を使ってほしい。そういう時代が来てほしいと思っています。

動物病院外観日本動物医療センターグループ本院 東京都渋谷区本町6-22-3

サーカス動物病院・豊田先生からのバトンへの回答

豊田先生

Q1. 動物を救い続けるために、何が業界に必要だと思いますか。

上野先生

動物病院の基本的な機能である動物を救うこと。その救ってほしいという要望の背景にある本質的な欲求への洞察をし続けることが業界に必要なことなのではないかと思っています。主人公はご家族と動物ですので、そのニーズへの探求をし続けることが結果的に救い続けることに繋がると私は思っています。

豊田先生

Q2. 従業員を笑顔にするためにどんなことをされていますか?

上野先生

従業員満足度調査を半期ごとと従業員エンゲージメント調査を四半期ごとに行うほか、オンライン目安箱を作って、役職や経験年数に関係なく気軽に院長を中心とした執行役員まで発案を出せる環境を作っています。それを真摯に受け止め執行役員で話しあって、現場に落とし込んでいます。時短勤務やワークシェアリングなどで多様な働き方を実現したことで、皆が働きやすくなったと感じています。

豊田先生

Q3. 「臨床医のときの幸せ・最大のハッピー」と「経営のときの最大のハッピー」を教えてください。

上野先生

臨床医と経営は、両方好きでやっているので、どちらにも幸せがあるかなと。最大となると、臨床医のときには、最大限の力を発揮して「大満足の手術となった」「あの子が退院した!」というその時々に大きな幸せに浸れますね。経営は常に未来を向いて「こういう組織にしたい」と妄想するので、夢を見続けられる幸せがあります。最大ハッピーは、仕事を引退するときに当院史上最高に素晴らしい病院になっていたときに感じる予定です!

TRVA夜間救急動物医療センター・中村先生へのバトン

Q1. 救急医療現場で活躍しつつ、業界への教育・啓発活動も積極的。そのモチベーションはどこからきているんですか?
Q2. 40歳を超えても今なお大変精力的にご活躍されていますが、体力維持の秘訣はありますか?
Q3. 動物病院業界にどうなっていってもらいたいのか、思い描いている世界を聞かせてください!

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