一緒に暮らす小さな家族のこととなると、できるだけケアをしたくなってしまうもの。耳掃除もコミュニケーションのひとつとして、日常的にやってしまいがちですが、本来ならどのくらいのペースで、どのようにしてあげるのがよいのでしょうか。そもそも耳を触るという行為自体、犬にとってよいことなのでしょうか。
今回は、そんな素朴な疑問を解決すべく、耳の構造から、起こりやすい耳のトラブル、また家庭でできる耳のケアについて、犬と猫の皮膚科クリニックの院長であり、動物の皮膚や耳の治療に長年携わっている村山信雄先生にお話をうかがいました。
村山 信雄 先生
犬と猫の皮膚科クリニック 院長
1994年 帯広畜産大学畜産学部獣医学科卒業。根室地区農業共済組合、寺田動物病院、めむろ動物病院勤務などを経て、2012年に「犬と猫の皮膚科」を東京都に開業。
2010年 アジア獣医皮膚科専門医取得。2012年 岐阜大学連合大学院にて博士(獣医学)取得。所属学会は(一社)日本獣医皮膚科学会、アジア獣医皮膚科学会、アジア獣医皮膚科専門医協会など。犬や猫と暮らす人たちに向けて、皮膚の病気の解説を中心に、日常ケアのアドバイスなども伝えるYouTube動画を配信中。
目次
犬の耳と耳垢には、どんな特徴が?

犬の耳の構造は、人とどうちがいますか?

人の耳は、耳の入口から直線的に鼓膜に向かって伸びる横穴タイプですが、犬の耳は、耳の入口から下に向かって縦に耳の管が伸び、途中から鼓膜に向かって横穴になるL字型の構造。
耳の入口から鼓膜までが5㎝だったと仮定すると、3㎝くらいが縦、2㎝くらいが横に伸びているようなイメージです。L字型の構造なので、入口から耳の中を覗いても、奥の方を見ることは難しいと思います。
どの犬種も耳の構造自体は同じですが、犬種によって多少の個性はあります。
例えば、ミニチュアダックスフンドは、身体の大きさの割には、耳の穴が大きめ、フレンチブルドッグは、鼓膜の近くの横穴の形が少し平べったい、パグは、体重的にはフレンチブルドッグと変わりませんが耳の管は狭めです。

どんな犬でも耳垢は出ますか?

耳垢とは、鼓膜から外側に出てくる古い角質(フケ)と身体から出る脂質、汗の3つが合わさったもの。新陳代謝によるものなので量や質感は個体差がありますが、基本的には人でも犬でも、生きている限りは出るものです。
人も犬も同様なのですが、耳には「自浄作用」というものがあり、3層になっている鼓膜の一番外側でできた耳垢は、中央から外側に、そして奥から入口に向かって、自然に流れ出てくる仕組みになっています。本来であれば、耳垢は作られてもこの自浄作用によって自動的に外に出ていきます。
耳垢の質感は個体差がありますが、トイプードルやチワワ、ミニチュアダックスフンド、シーズー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ゴールデンレトリバー、フレンチブルドッグなど、多くの海外の犬種は、ベトっと油っぽい質感で黄色いものが多いですね。
犬に起こりやすい耳のトラブルとは?

耳垢を見て、耳のトラブルがわかりますか?

耳になにか炎症が起きている場合は、耳垢がやわらかくなったり水っぽくなったりすることがあります。
耳のトラブルで最も多いのは、外耳炎(鼓膜の外側で起こる炎症)。
発症直後の場合は、耳の皮膚が菌の繁殖を抑えて炎症を治そうと、油分を分泌すると考えられています。重症度が高くなると、耳垢腺と言われる汗腺から汗の量も増えるため、耳垢の水分量も増えるというわけです。
自浄作用によって外に出てくる耳垢は、ある程度の塊として外に出てきますが、耳の中に炎症などが起こっている場合は耳垢が外に流れ出にくくなることも考えられます。
耳のトラブルがある場合、犬自身が頭をよく振るとか、耳の周りをいつもより掻く(痒がる)こともあります。また、耳からにおいがする、耳の中がいつもより赤いなども、トラブルが起きているひとつのサインです。
病院を受診した方がいいタイミングはありますか?

外耳炎が発症した場合、より重症化してしまうのは鼓膜に近い横穴。症状が進んでしまうと、鼓膜が破れるリスクもあります。
耳の中の見えないところでのトラブルが起きていることもあるため、耳の異常を見つけたら、様子を見るなど時間を置かず、できるだけ早く受診することをお勧めします。
ちなみに、人の場合は耳といえば耳鼻科を受診するかと思いますが、犬の耳を診る専門は、「皮膚科」です。
日頃からかかりつけ医の先生に診てもらったり、日常のケアをお願いしたりするのはとても大切なことですが、病的な状態なのか、治療が必要なのかなど、詳細な診断を受けるためには、専門医を受診することも大事なことだと思います。
病院ではどのような検査が行われるのでしょうか?

私の場合は、まず両耳を触って、においを確認します。
そして、手持ちの耳鏡を使って耳の穴を見てから、内視鏡で奥の方まで見るようにしています。最初の診断で内視鏡で見るのは、飼い主の方にも状態を共有するためでもあります。
重症化の可能性がある場合や鼓膜の奥まで確認する必要がある場合は、大きな病院でCTやMRIを撮ることもあります。この時は麻酔をかけて行います。
麻酔に抵抗がある方も多いと思いますが、鼓膜の内側でのトラブルは頻繁でなくても起こりうることなので、少しでも中耳や内耳でのトラブルの可能性がある場合は、この検査がとても重要です。
私は、①今起こっている状態、②1年経過したときの状態、③年齢を重ねたときの状態という 3つの期間を意識して治療を考えています。それは、今の状態だけを解決しても、将来的な解決にならなければ意味がないからです。また、長期的な治療を考える時には、気温や湿度の状態も加味して、どの時期にどう対処していくと良いのかなども含めて、治療の計画を立てるようにしています。
家庭でできる、適切な耳のケアとは?

定期的に耳掃除はした方がいいですか?

これは、ずばり!「しないほうがいい!」 です。
その理由は、耳掃除をすることで自浄作用を妨げてしまったり、耳の中に傷がついて炎症が起こったりするリスクがあるためです。
自浄作用で表に出てきた耳垢が、耳の入口に溜まっているようであれば、それを拭ってあげるだけで十分だと思います。そして、その際に耳垢の色や質感がどうか、いつもとどう違うのかなどを見ていくとよいと思います。
家庭でできる耳のケアはありますか?

耳の入口はひだひだになっているのですが、そこが最も脂の分泌が多く、脂や耳垢が溜まってしまいます。そのため、耳の中はきれいでも、ここだけに痒みを感じる子もいます。
そういう場合は、犬の耳用洗浄液でコットンを湿らせ、溜まった油分や耳垢をやさしく拭き取ってあげるとよいと思います。水をお勧めしない理由は、水だと油分を弾いてしまうため。耳用洗浄液は、動物病院で扱いがあると思うので、かかりつけの病院に一度相談してみてください。
拭き取るのも極力やさしく、必要以上にやりすぎないように注意しましょう。
耳は、とてもセンシティブな部位です。人でも触られるのが嫌だったり緊張を伴ったりしますよね。犬も同じなので、どうしても触らなくてはいけないときは、前後でおやつをあげるなどして、耳を触られることをポジティブだと感じさせるとスムーズだと思います。
村山信雄先生からのメッセージ
耳や耳垢を見ても、その特徴は犬種によってさまざま。それは、もともと犬という動物が、目的をもって進化してきた長い歴史と関係があります。例えば、狩りに行く犬は耳が垂れていますし、牧羊犬のように音を拾わなくてはならない犬は耳が大きめ。プードルは水の中でお仕事する犬だったので、耳の中の毛が多かったり水を弾くために脂が多かったりします。昨今、日本では小型犬や超小型犬が人気ですが、小さくなると形の特徴など特徴的なところが自ずと強調されます。
耳のケアに限ったことではないのですが、大切なわんちゃんが犬種的にどういうルーツを持ち、どのような特徴を備えているのかを調べてみると、理解できるところは多くなります。なにか体質や弱点が見えてきたら、それはその子の個性として理解してあげるのも大切なこと。
中には、海外のルーツを持つ犬種で高温多湿の日本の気候が合わないケースもあるでしょう。でも、その子の個性を知ってあげることで心づもりができますし、うまく付き合っていく方法や対策を考えることができるようになります。そういうところは、獣医師を頼っていただけるとよいと思います。

取材にご協力いただいた病院
犬と猫の皮膚科クリニック 院長。1994年 帯広畜産大学畜産学部獣医学科卒業。根室地区農業共済組合、寺田動物病院、めむろ動物病院勤務などを経て、2012年に「犬と猫の皮膚科」を東京都に開業。2010年 アジア獣医皮膚科専門医取得。2012年 岐阜大学連合大学院にて博士(獣医学)取得。所属学会は(一社)日本獣医皮膚科学会、アジア獣医皮膚科学会、アジア獣医皮膚科専門医協会など。犬や猫と暮らす人たちに向けて、皮膚の病気の解説を中心に、日常ケアのアドバイスなども伝えるYouTube動画を配信中。
