愛犬の眼の下の毛が赤っぽく変色してしまう「涙やけ」。涙が常に流れ出る「流涙症」という症状が原因になります。「どうぶつ眼科 EyeVet」の院長を務める⼩林⼀郎先生に、犬の涙やけを起こす流涙症の原因や治療法、飼い主さんができるケアについてうかがいました。
小林 一郎 先生
目次
犬の「涙やけ」は病気なのか?
涙が流れ出る流涙症との関係を知る
犬の「涙やけ」について教えてください。


「涙やけ」とは、流れ出た涙で眼の周りが湿った状態になり、細菌などの感染を起こして毛の色が変わってしまうことを指します。口の周りの毛が変色する「ひげやけ」と同じで、一般的に使われている言葉です。
犬の涙は上まぶたにある主涙腺と、目頭にある瞬膜腺(しゅんまくせん)の2箇所でつくられているので、もともと人より多くの涙が分泌されています。まばたきをすると2箇所から涙が分泌されて眼の表面を潤し、涙小管(るいしょうかん)→涙嚢(るいのう)→鼻涙管(びるいかん)→鼻腔(びくう)・口腔(こうくう)へと排出されます。問題がなければ眼の外に涙が大量に流れ出ることはありません。
どうして流涙症になってしまうのか気になります。


涙やけができるきっかけになるのは、涙が流れ出る「流涙症」という症状です。流涙症による涙やけができている場合、分泌量と排出のどちらかに原因があると考えていいでしょう。様々な病気やけが、先天的な問題でも涙が流れることはありますが、本記事で説明する流涙症は、涙が流れ出る状態を除き、眼や眼の周りが正常であることを前提とします。
流涙症を起こす2つの原因
- (1)涙が過剰に分泌されて流れ出る
- (2)涙の排出がうまくできない
- ※診断は難しいが、涙に油分が足りないため流れ出ることもある(マイボーム腺機能不全)。
動物病院を受診したほうがいい
流涙症のサインはありますか?

愛犬の涙やけに悩む飼い主さんは多いのですが、動物病院を受診しないことも多い。「もし自分だったら」と考えてみましょう。涙が流れ出て止まらなかったら、まずは病院に行きますよね。流涙症だと気づいたら、まずはかかりつけの動物病院を受診することが重要です。
飼い主が気づきやすい流涙症のサイン
- □涙が両目から流れ出ている
- □眼の下が涙で常に濡れている
- □涙やけ(茶色や赤っぽく毛が変色している)がある
- □目やにが多い
- □眼をかゆがる(眼の辺りをこすりつける)
- □独特のにおいがする
- □起きているときには涙がほぼ常に流れ出ている
流涙症の症例写真/パピヨン
流涙症による涙やけができやすい犬種は?

流涙症は小型犬に多く見られ、特に日本での飼育頭数が多いトイ・プードルが目立ちます。トイ・プードルの流涙症の原因の一つは、眼瞼内反症(がんけんないはんしょう:まぶたが目の内側に入り込む/逆さまつげ)です。眼がまぶたやまつげで絶えず刺激を受け、涙が過剰に分泌されて流れ出ているわけです。
鼻涙管閉塞(びるいかんへいそく)・狭窄(きょうさく:涙を排出する管が詰まる・狭くなる)により、涙の排出がうまくできないケースも。いずれも成長とともに筋肉や器官が発達し、2歳をすぎるころには自然に治る場合もあります。トイ・プードルのような成長にやや時間がかかる犬種は、診察で他の病気や問題を除外したうえで経過観察をしていくといいでしょう。
ただし、パグやシー・ズーなどの短頭種の流涙症は、マズル(口の周りから鼻先にかけての部分)が短いことによる鼻涙管の構造上の問題で涙がうまく排出されないこともあり、処置が必要な場合もあります。すべての流涙症が自然に治るわけではなく、別の問題や病気が原因になっている可能性も知っておきましょう。

愛犬の涙やけに違和感があれば
かかりつけの動物病院に相談を
流涙症の検査について知っておきたいと思います。

流涙症は様々な病気やけが、先天的な問題でも見られる症状ですが、飼い主さんが愛犬の涙やけを見て判断するのは難しいと思います。「涙が多い」「においがする」「おかしい」と違和感を覚えたら、すぐにかかりつけの動物病院を受診して眼の検査をお願いしましょう。
他に眼の病気がないことを確認したうえで、獣医師と協力しながら涙が流れ出る要因を見つけていきましょう。涙が流れ出ているときの写真とともに、時間帯や天候、出来事を記録しておくことも診断の助けになります。
流涙症に関する主な眼の検査
- フルオレセイン染色検査
涙を緑色に染めて排出の状態を確認する。排出に問題なければ鼻や口から出てくる。分泌量や排出に問題があれば、眼の周りに流れ出る(位置も診断の基準になる)。 - 鼻涙管洗浄
涙点から鼻涙管にカテーテルを通して試験的に洗浄する。奥に炎症が起きていれば、膿が大量に出ることも。閉塞・狭窄の改善にもつながる。
涙やけや流涙症は
治療しなくても問題ありませんか?


涙やけは見た目だけの問題ではありません。流涙症によって眼の周りが常に濡れている状態を放置すると、細菌やカビが繁殖して皮膚炎を起こしてしまいます。犬が感じている痛みやかゆみ、不快感を取り除くためにも、獣医師の診察を受けて必要な治療やケアを始めてくださいね。
流涙症や涙やけの治療の例
- ・細菌の感染が起きている場合は抗生物質を投与(涙やけも改善することがある)
- ・鼻涙管閉塞・狭窄であれば、鼻涙管カニュレーションによる洗浄
アイチェックで目の健康を守る
日常のケアで涙やけをきれいにできますか?

2歳未満の犬の流涙症は、成長して筋肉や器官が発達すれば自然に治るケースが大半です。動物病院で定期的な診察を受けて他の病気がないことを確認しながら、成長を待つといいでしょう。涙やけが気になる場合は、流れ出た涙を乾いたコットンでやさしく拭き取るケアが一番いいと思います。
また、トリミングサロンに相談し、涙やけで変色した部分の毛や、目やにがたまりやすい周りの毛を短く切るのも一つの方法です。汚れてしまった部分をリセットして、きれいな毛が伸びてくるのを待ちましょう。
診断が難しいのですが、マイボーム腺機能不全の可能性があるなら、上まぶたを温めたりマッサージしたりして油分の分泌をうながす方法もあります。変化がなければ別の要因が考えられるので、マッサージは一度やめて再度動物病院を受診してみましょう。薬剤で眼や眼の周りを洗う場合は要注意。「眼に入れても痛くない」とうたっているものでも、犬によっては刺激になる場合があり、逆に涙が増えてしまうこともあります。
食事を変えると涙やけや流涙症が
改善すると聞いたのですが……。

食事の内容によって涙の量が増えたり減ったりする可能性はあります。ただし、食物アレルギーが流涙症の原因になるとは医学的に証明されていません。食材を変えるだけでは流涙症のように涙が常に流れ出ている状態を改善することは難しいのではないでしょうか。まずはかかりつけの動物病院を受診してください。
眼に関するトラブルを
予防する方法を教えてください。

眼の病気の8割は遺伝が関係しているため、2歳未満で発症するケースが多いです。流涙症も若いころから見られる症状の一つです。かかりつけの動物病院に頼んで、定期的に受けている健康診断にアイチェック(目の健康診断)を加えましょう。まずは6か月・1歳・2歳(それ以降は1年に1 回程度)のタイミングで受けることをおすすめします。
小林先生からのメッセージ
「もっと早く受診すればよかった」という後悔をなくしたい
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私たちのような動物眼科専門診療の動物病院では、進行した緑内障や白内障、網膜変性症などの様々な眼の病気を抱えた犬を診察しています。すでに失明していて手の施しようがない場合もあり、飼い主さんから「もっと早く受診すればよかった」という声を聞くたびに、否定も肯定もできない心苦しい気持ちになります。 眼の病気を含めてあらゆる不調には早期発見・早期治療が最良の方法です。ちょっとした変化でも、気づいたときが動物病院を受診するタイミング。かかりつけの獣医師での対応が難しい場合は、動物眼科専門診療の動物病院に紹介を頼みましょう。 |
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取材にご協力いただいた病院
⼩林⼀郎 先生 どうぶつ眼科 EyeVet 代表、比較眼科学会獣医眼科学専門医。 ホームドクターからの紹介による、完全予約制・獣医眼科専門診療を行っている。

