【獣医師×ペットケアマネージャー対談②】プロに教わる「シニア犬の介護ハウツー」

【獣医師×ペットケアマネージャー対談②】プロに教わる「シニア犬の介護ハウツー」

  • 向後 亜希
  • 平端 弘美
      

人間と同じようにワンちゃんたちにも「高齢化」の波が押し寄せ、「健康寿命」をいかに延ばせるかが大きな関心事になっています。そこで、高齢犬の診療も多く行っている獣医師の先生と、実際の介護や老化予防を実践・アドバイスしているペットケアマネージャーのお二人による対談シリーズを企画しました。第2回では、シニア犬と長く元気に暮らすために必要となるケア・介護の具体的な方法やノウハウについて、「食事」「運動・リハビリ」「入浴」「おむつ」の4つのテーマ別に実演レクチャーも交えながらご紹介します。

前回記事をチェックしていない方はこちら!【獣医師×ペットケアマネージャー対談①】早めに備えたい「シニア犬のケアと介護」

プロフィール

向後 亜希 先生

こうご動物病院院長、獣医師。聖心女子大学心理学科を卒業後、獣医師を目指し酪農学園大学獣医学科に編入学し、卒業。埼玉県や東京都内の動物病院で勤務医や院長を経験し、2009年に東京都多摩市に「こうご動物病院」を開業。西洋医学をベースに鍼灸治療や自然療法なども取り入れた総合医療を実践している。
プロフィール

平端 弘美 先生

Japanペットケアマネージャー協会認定ペットケアマネージャー。犬好き主婦からドッグトレーナーを目指し、研鑽を積んで2014年にしつけ教室を開業。その後ペットケアの資格を取得し、多摩地域を中心にシニア犬の訪問介護・整体・リハビリなどを行う。元々こうご動物病院の患者さんでもあり、現在は同院でセミナー開催や老犬ケアを担当している。

シニア犬のケア・介護(1)「食事」

——高齢になった我が子をケアする上で、「食事の与え方」は大きなテーマの一つではないかと思います。

向後先生

ワンちゃんも高齢になると、何らかの原因で若い頃のように食べられなくなって栄養状態が悪くなり、さらに健康を害してしまうケースも少なくありません。シニア犬にとって「食べること」はやはり重要で、診察の中でも「なるべく食事は取らせるように」とお話しすることは多いです。ただ嚥下(えんげ:ものを飲み込むこと)の力が弱っている子の場合は、誤嚥性肺炎(食べものが気管や肺の方に入って起こる炎症)のリスクがあるので、食べものを飲み込みやすい形に変えるなど、注意が必要です。

平端先生

高齢になると歯が悪くなって、ものが食べづらいという子もいます。そういうときは、「フードの形状を変える」のがポイント。ドッグフードをお湯で柔らかくしたり、飲み込む力が弱っている場合はさらさらのスープ状にすると良いでしょう。最近はペット用でリキッド状になった高栄養食もあるので、上手に活用するのもいいですね。

向後先生

どんな子でも、ある程度年齢を重ねると内臓が全て元気ということは難しく、どこかしら内臓に疾患を抱えているケースも多くあります。肝臓が悪い子だったらなるべく脂肪が少ない食事だとか、腎臓が悪い子には療養のための処方食であるとか、獣医師として食事面の指導もすることはありますが、それを「どう与えるか」については飼い主さんに委ねることになります。そのときペットケアマネージャーさんや介護士さんに相談できる環境があれば、とても心強いのではないでしょうか。

平端先生

飼い主さんによくアドバイスしているのは、「食事の回数を変えてみましょう」ということ。ワンちゃんは消化機能が落ちてくると、1回に食べられる量が少なくなり、食べるスピードも遅くなります。そこで1日2回だった食事を3回に分けて、1回の食事量を減らす方法がおすすめです。ペースト状やスープ状の介護食の場合は、人間の赤ちゃんの離乳食用に市販されている製氷皿タイプの小分け容器で保存するのも良いと思います。冷凍しておいて、毎食必要な分だけ溶かして与える方法ですね。

Lecture平端先生の実演レクチャー<食事編>

ペット用にこだわらず便利なグッズを探してみる

[哺乳瓶 / ドレッシングボトル / シリコン製スプーン]
スープ状にした食事をあげるときは、人間用の哺乳瓶や100円ショップなどで売っているドレッシングボトルも使いやすい。人の赤ちゃん用のシリコン製スプーンも素材が柔らかく、熱湯消毒もできるので便利。

[分量も把握できるシリンダー]
水分など液体の補給にはシリンダーも便利。目盛りがあるので分量も把握しやすい。

[紙の前掛け]
人用の紙の前掛けは、食べこぼしなどを受けるエプロンとして使える。または、トイレシートを丸く切り抜いて首からかけるだけでも簡単に代用できる。

正しい姿勢で抱えながら与えることが大事

[横から食事を与える]
ワンちゃんに対面して前から与えると嫌がる子もいるので、人が横について首を支えながら食事を与える方が良い。嚥下力が弱っている子も正しく飲み込めるように、寝たきりの子も食事のときはなるべく体を起こして、支えてあげることが大事。

[人用の介護用スプーンもおすすめ]
人用の介護用スプーンには、手の不自由な方向けに角度が付いているものがあり、ワンちゃんを抱えて後ろから食事を与えるときに食べさせやすい。

シニア犬のケア・介護(2)「運動・リハビリ」

——歩行や立ち座りの動作に異変を感じ、我が子の老いを意識し始めるケースも多いと思います。日頃の生活の中で、対策としてできることはありますか?

平端先生

まだ若いワンちゃんであれば、日々の散歩の中でも十分トレーニングが可能です。たとえば坂道での歩行はとても効果的。斜面の下側にある後ろ足で踏ん張ることで、効率良く足腰の筋肉を鍛えることができます。アップダウンもいいのですが、坂を横切るように歩くと体の右側・左側それぞれに負荷がかかってまた違う刺激を与えることができます。あとは段差の小さい階段の上り下りや、公園の落ち葉の上など少し不安定なところを歩くこともいいトレーニングになります。

向後先生

運動に関しては、若く元気なワンちゃんと高齢の子では状況がだいぶ違ってきます。
高齢犬の場合、病気などで運動量が少なくなり、筋肉量が減ることで、ますます足腰が弱くなって運動できなくなる、という悪循環が一番怖い。放っておくと、ゆくゆくは寝たきりの状態になってしまうリスクもあります。その子のできる範囲で、できるだけ筋肉を使う習慣は続けた方がいいですね。

平端先生

足腰が弱くなってしまった子の場合は、飼い主さんがサポートしながら手足を動かしてあげるだけでもトレーニングになります。身体全体をやさしくマッサージしてほぐしてから、足を1本づつ持って自転車を漕ぐ要領で、ゆっくり回してあげると良いでしょう。また、高齢犬は手足の肉球のところが凝り固まって、指がパッと開きにくくなり、立ち座りや歩くときに踏ん張りが利かなくなってしまうことがあります。その予防として肉球をもみほぐしてあげることも、飼い主さんが日常的にできるケアの1つです。

Lecture平端先生の実演レクチャー<運動・リハビリ編>

足腰を鍛えるには「越える」「くぐる」「またぐ」動きが効果的

[越える]
バーをまたがせるタイプの犬用のアジリティーグッズ。家にある突っ張り棒などで代用することもできる。ジャンプして飛び越えさせるのではなく、足を1本ずつゆっくり上げ下げしてまたがせるのがポイント。

[くぐる]
逆にバーの下をくぐらせる運動も効果的。椅子の下など、家の中に低いところがあればそこをくぐらせるのでも良い。慣れてきたらバーをさらに低くして、ほふく前進のようにひざとひじをしっかり曲げて進ませると、足腰が十分に鍛えられる。

[またぐ]
アジリティーグッズにはクッションタイプのものも。バスタオルを丸めたものをまたがせても良い。また、グッズを使わずにお座りと立ち上がる動作を繰り返すだけでもスクワット運動になる。

筋力と同時にバランス感覚のトレーニングも

[バランスボード等のトレーニングも効果的]
人間用やペット用として市販されているバランスディスクやバランスボードに乗せるトレーニングも効果的。小型犬なら4本の足で乗ってバランスが取れる子もいるが、大型犬の場合は「前足だけ」「後ろ足だけ」と乗せる足を分けても良い。

[筋力トレーニングを行い、バランス感覚を鍛える]
飼い主が足を1本持ち上げて、残りの3本足だけで立たせるなど、少し不安定な状況をつくるだけでもバランス感覚が鍛えられる。足を踏ん張るので筋力トレーニングにも。4つ数えながら持ち上げて、また4つ数えながら下ろすぐらいのゆっくりとしたスピードで行うのがポイント。

シニア犬のケア・介護(3)「入浴」

——高齢のワンちゃんのお風呂に関して、特に気をつけるべきポイントは何でしょうか?

平端先生

シニア犬にとって「入浴はかなり負担がかかるもの」ということをまず理解する必要があります。お風呂場に長くいるだけでも疲れてしまうので、時間をかけて全身を洗うのはおすすめできません。何日かに分けて、「今日は顔周りだけ」「足だけ」「お尻だけ」と部分洗いをするのが良いでしょう。

向後先生

特に基礎疾患のある子については入浴も無理をさせず、できる範囲で行うのが基本です。高齢で心臓が悪いと、ドライヤーの熱風が強く当たることもリスクになるので注意が必要です。

平端先生

浴室の湯気を吸い込むことは、ワンちゃんにとっては息苦しく、心臓や気管が狭くなっている子は呼吸器に負担がかかります。寒い時期だと、良かれと思って換気扇も止めて浴室を湯気で暖かくすることもあるかと思いますが、それが犬にとってはかえって良くない。入浴時は換気扇を回したり窓を開けたりして、手早く済ませることが大事です。また、部分洗いであればお風呂場ではなく、リビングなどでたらいにお湯をためて拭き洗いするのが原則になります。

Lecture平端先生の実演レクチャー<入浴編>

お湯をためて拭き洗いをする際のポイント

お湯をくみ置きするのに便利なのが、食器洗い用の樹脂製のたらい。熱いお湯を入れても平気で、折りたたみできるので持ち運びや収納にも便利。

手袋や軍手をした手をお湯にひたし、そのまま撫でるように体を洗うと、マッサージも一緒にできるのでおすすめ。肩周りや首などこりやすいところを重点的にほぐすと良い。

お湯で濡らしたタオルで体を拭きながら、腰や脚部の関節に巻いてじっくり温めるのも効果的。血行を良くして痛みの緩和につながる。

入浴時に役立つ「ひと工夫」アイデア

たらいにお湯をくみ置きするときにハーブを入れると、リラックス効果や精神の鎮静、皮膚の抗菌などが期待できる。市販されているハーブティーのティーバッグなどでもOK。ワンちゃんの足だけをお湯に入れて足湯にしても良い。全身の血行促進につながる。

タオル以外に、柔らかいスポンジを洗う場所によって使い分けるのも良い。目の周りや耳の中など、細かく繊細なところには人のメーク用のスポンジが使いやすい。

洗い終わったあとは吸水性の良いバスマットや、水泳用に市販されている吸水・速乾性の高いタオルなどで体を乾かしてあげる。もしドライヤーを使う場合は直接ワンちゃんに向けないこと。たらいなどを使い、跳ね返りの優しい風を当てると負担を軽減できる。

シニア犬のケア・介護(4)「おむつ」

——高齢のワンちゃんの飼い主さんにとっては、排泄のケアも気になる点ではないでしょうか。

向後先生

高齢犬になると、排泄がうまくできなくなるケースも多くあります。何らかの病気が原因で泌尿器系のトラブルを起こし、おしっこが我慢できなくて粗相をしてしまう場合もあります。また反対に、おしっこがしたくても自力では出せないという子もいる。排尿は1日に最低でも1回はさせた方が良く、自宅で圧迫排尿などの方法もありますが、リスクもあるので一度かかりつけの病院に相談をされるのが良いでしょう。

平端先生

ワンちゃんにおむつをはかせたくても、嫌がって苦労しているという飼い主さんも多いと思います。これは慣れもあるので、若いうちから服を着せたり、愛犬の体に何か身につけさせる習慣を持つこともおすすめしています。

向後先生

それからマッサージや日頃のスキンシップを通じて、人に体を触られることに慣れさせておくことも大事ですね。これは介護だけではなく、何か大きな病気をしたときに病院でスムーズに治療ができるかどうかにも関わってくることです。できれば子犬の頃から、「どこを触っても嫌がらないワンちゃんにしましょう」と飼い主さんにはお伝えするようにしています。

Lecture平端先生の実演レクチャー<おむつ編>

場合によっては人用のおむつを転用

人用に市販されているおむつには、「吸収ポリマーが全面に入っている(ペット用は前側だけのものも多い)」「しっぽの穴を好きなところに開けられる」といったメリットがある。ペット用のおむつは元々の穴の位置や大きさがその子のしっぽに合わない場合もあるので、人用のものを改良して使うのもおすすめ。

人用のおむつに、しっぽの位置に合わせて穴を開ける。その際、三角の形に切り込みを入れるのがポイントで、断面からポリマーが出てこないようにサージカルテープなどで覆う。三角だとワンちゃんのしっぽに触れる断面が少ないので、擦れてかぶれるのを防ぐことができる。

簡易的なマナーベルトをおむつの代用にすることもできる。トイレシートを下腹部に巻き付けてテープで留めるだけ。サージカルテープや不織布テープなど、粘着力が弱めのものだとワンちゃんの毛にくっついても痛くない。

【獣医師×ペットケアマネージャー対談】最終回の第3回では、ワンちゃんのケア・介護に関して、犬種やサイズによる違い、犬の認知症ケア、飼い主が一人暮らしのケースなど、特に気になるトピックをピックアップして対処法や役に立つポイントなどをご紹介します。

こうご動物病院 東京都多摩市落合3丁目14-1

【獣医師×ペットケアマネージャー対談①】早めに備えたい「シニア犬のケアと介護」

【獣医師×ペットケアマネージャー対談③】シニア犬の介護「こんなときどうする?」

 
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