猫に多く見られる疾患の中でも、最も多いのが消化器疾患。さまざまな病気がありますが、それらの初期症状はどれも特定の原因や症状に限定されないので、見逃してしまいやすいものばかり。しかし、早めに診断を受けて、重篤な状態になる前に治療ができれば、身体への負担を最小限に抑えながら、回復に向かうことができます。そのためには、まず飼い主さんが知っておくことが大切。今回は、日本大学生物資源科学部 獣医消化器病学研究室の阪本裕美先生に、猫の消化器疾患について、その症状や治療法についてお話をうかがいました。
阪本 裕美 先生
日本大学 生物資源科学部
獣医保健看護学科 専任講師
獣医消化器病学研究室
日本大学 生物資源科学部獣医学科を卒業後、日本大学大学院獣医学研究科で獣医学を専攻し、消化器病学を中心に研究を深める。大学院修了後は、日本大学動物病院で研修医として臨床経験を積み、肝硬変症例の担当をきっかけに、確定診断と内科治療によって動物のQOLを大きく維持できることを実感。これを契機に、消化器疾患の診断・治療への専門的な関心を強める。
その後、2022年より日本大学 生物資源科学部にて専任講師を務め、獣医消化器病学研究室に所属。研究と教育の両面から、猫の消化器疾患に関する知識の深化と臨床応用に尽力している。
目次
猫の消化器の特徴と起こりやすい疾患とは?
猫の消化器は、どの部分を指しますか?また、猫と人とのちがいはありますか?


基本的には、口、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓、胆嚢を指します。
猫の唾液には、炭水化物を消化するアミラーゼがほとんど含まれていないため、口の中でデンプンの消化をすることができません。一般にキャットフードなどに含まれる穀物類は加熱され消化しやすい状態になっているため適量であれば問題ありません。炭水化物を与え過ぎてしまうと消化不良を起こしてしまいます。
猫の消化管(※)の長さは体長の4倍ほどで、人よりは短いという特徴があります。 人と一緒で猫の食道は、犬と異なり食道の一部が平滑筋という筋肉でできているため、蠕動(ぜんどう)の速度や力が犬よりもやや弱いといった特徴があります。しかし、猫=吐くのが当たり前ということではないことを知っていただけたらいいと思います。
※消化管とは
口・食道・胃・小腸・大腸・直腸・肛門の口から肛門までの管を指す。
猫の消化器と言っても種類がたくさんあるようなのですが、消化器疾患もたくさん種類があるのでしょうか?


猫の消化器疾患は、大きく分けて4つの種類があります。
- 1. 消化管の異常
口内炎、食道炎、食道狭窄(しょくどうきょうさく)、胃腸炎、毛球症、大腸炎、便秘・巨大結腸症(きょだいけっちょうしょう)、異物誤飲など - 2. 肝臓・胆嚢・膵臓の異常
胆管炎(たんかんえん)、胆管肝炎、肝リピドーシス、門脈体循環シャント(もんみゃくたいじゅんかんシャント)、膵炎など。
猫では「三臓器炎」といって胆管炎または胆管肝炎+腸炎+膵炎が併発することがあります。消化だけでなく全身に影響を及ぼすものが多い。 - 3. 感染症
ジアルジア感染症、細菌性腸クロストリジウム感染など。 細菌や寄生虫などの感染によって引き起こされる。 - 4. 腫瘍(消化器の癌)
膵臓腫瘍(すいぞうしゅよう)、肝臓腫瘍(かんぞうしゅよう)、胃腺癌(いせんがん)、直腸腺癌(ちょくちょうせんがん)など。
消化器型の腫瘍は進行が早いため、早期発見が生存率に大きく関わる。
猫の特に注意すべき、消化器疾患はありますか?

猫に多く見られ、注意すべき疾患は2つあります。
- 1つ目は、毛球症です。
グルーミングなどで飲み込んだ毛が、胃や腸などの消化管の中で毛玉になって溜まってしまう病気。本来は、便として出るのが一番よいのですが、加齢や病気によって消化器の機能が低下し、自力で出すことができない場合、腸閉塞の原因になるリスクがあります。
予防策としては、こまめなブラッシングをしたり、一緒に遊ぶことでストレスを軽減したり、また食物繊維が豊富なケアフードを与えるのもよいと言われています。 - 2つ目は、肝リピドーシスです。
肝臓に過剰に脂肪が蓄積することで、肝機能が低下する病気。食欲不振が続くと、体内の脂肪をエネルギー源にしようとするため、その過程で肝臓に脂肪が蓄積してしまいます。肥満の猫は、特にそのリスクが高く、数日の食欲不振でも重篤な状態になる可能性があるため、注意が必要です。予防策としては、できるだけ肥満にならないように、適切な食事と運動を促し、管理してあげるとよいと言われています。
特に知っておいてほしい病気「消化器型リンパ腫」
胃や腸などの消化管に発生するリンパ腫の一種です。猫のリンパ腫の中で最も発生頻度が高い場所と言われています。リンパ球という白血球の一種が癌化する病気です。猫の場合、10歳以上のシニア期で発生することが多いと言われています。症状としては、下痢、嘔吐、体重減少、食欲不振などで、特異なものではないため、胃腸炎との区別が困難です。予防策はないので、病院でもらった薬で一時的に回復しても繰り返してしまう場合は、できるだけ早めに再診してもらうことをおすすめします。
原因が不明な病気であるが故に、対策が難しいので元気な時に健康診断を受けておき、不調がおきた際に比べられるようにしておくことも大切です。
猫の消化器疾患が原因で起こる症状とは?
猫の消化器疾患が原因で起こる症状には、どのようなものがありますか?


- ①消化管による主な症状
下痢、便秘、軟便、しぶり、頻繁な排便、便に粘液や血液が混じる、体重減少、食欲増進、食欲不振
※太字のものは、猫に特に出やすい症状です。 - ② 肝臓、胆嚢、膵臓による主な症状
多飲多尿、黄疸、腹部膨満、腹痛、発熱 - 猫は、慢性膵炎の場合、食欲不振以外の症状が出ないことが多いです。
どの症状も特定の原因や病気に限定されないものなので、重篤な病気が隠れていてもわかりにくい傾向にあります。
病院に連れて行ったほうがよいサインやタイミングはありますか?


消化器疾患の症状は、少し体調を崩してしまった時にも起こる特定の原因や症状に限定されないものばかりなので、見逃してしまうケースも少なくありません。その中でも消化器疾患を疑い、病院によく診てもらうべきサインは、「症状が続いている」「症状を繰り返してしまう」のふたつ。
調子が悪くなった時に、処方してもらった整腸剤や制吐剤を飲んで、一旦、症状が落ち着いても、また繰り返してしまうとか、薬が効かなくなってきたときには要注意。再度、かかりつけの先生に診てもらうことをおすすめします。
その際、先生にわかりやすく状況を伝えるために、体調を崩した日付と共に便の具合や食欲など、その時の状況などをメモに残しておくとよいと思います。また、来客があったとか、普段と違うことが起こったとか、グルーミングに行ったとか、子どもが遊びに来て普段よりいっぱい遊んだとか、そういう情報もストレス状況を知る大切な手がかりになります。 飼い主さんにしかわからない状況や様子が、診断の重要なヒントになることもありますよ。
早期発見のために受けるべき検査や
家庭でできる対策とは?
猫の消化器疾患の疑いがある場合、受けたほうがよい検査はありますか?


消化器疾患が疑われる場合の検査には、このようなものがあります。
- ・一般問診・触診
- ・便検査
- ・血液検査
- ・X線検査(レントゲン)
- ・内視鏡検査
- ・CT検査
まずは、触診によってリンパ節が腫れていないか、しこりがないかを確認することは、とても大切です。その後、便検査、血液検査、X線検査をするのは一般的だと思いますが、ぜひお伝えしたいのは、腹部超音波検査の重要性です。
消化器疾患の場合、血液検査には異常が反映されないこともしばしば。消化管は5層構造になっているので、その層の乱れやしこり、リンパ節の腫れなどは超音波検査でしか見つけることができません。
超音波検査は、CT検査や内視鏡など、さらなる検査が必要かどうかを精査するためにも重要です。もし、先生に勧められたら、ぜひ受けていただけたらと思います。
猫の消化器疾患の場合、どのような治療方法がありますか?


治療は病気によっても異なりますが、内科治療としては、症状を抑える適切な薬を処方することが一般的です。誤飲による消化器症状で異物を取り除く必要がある場合は、内視鏡か開腹手術によって摘出します。消化器型リンパ腫の場合は、抗がん剤治療が中心ですが、腸閉塞などを起こしてしまった場合は、外科手術を行うこともあります。
しかし、消化器疾患の改善にとても大切なのは、食事。疾患に合わせた適切な食事を選んであげることで、症状がよくなることはあります。猫に多い大腸性の下痢は、繊維を多く含むごはんを与えることで改善に向かうことがあります。病院の先生はもちろん、愛玩動物看護師(※)さんは、ライフステージや病気によって、どんな食事が相応しいかを勉強していますので、相談にのってもらうのがよいと思います。
人だと調子が悪い時は食事を控えることで消化管を休めるという考え方もありますが、猫はそうではありません。食事が長く取れないと、腸内細菌のバランスが乱れ、腸の粘膜の萎縮によって栄養が吸収できなくなってしまう場合もありますし、猫の場合には絶食が続くと肝リピドーシスという病気になり、重篤な状態を招いてしまう危険性があります。
吐いてしまう場合など、食べさせることが難しい場合もあると思いますが、先生や愛玩動物看護師さんは、そういう時のテクニックもよく知っていますから、ぜひ気軽に相談してみてください。
※愛玩動物看護師とは 愛玩動物の健康管理や治療をサポートする専門職で、2022年に国家資格化した職業です。
日頃から家庭でできる対策方法や、予防のために心がけておくべきことはありますか?


猫は、肉食性でタンパク質や脂質が主な栄養源なので、お肉や魚を中心に、高タンパク・低炭水化物の食事がベター。ライフステージに合った総合栄養食を選んで、規則正しくあげることを心がけていただけたらと思います。「消化器ケア」などの表記があるフードは、胃腸への刺激が少なくなるように配慮されているので、健やかな働きをサポートしてくれる可能性があります。コミュニケーションとしての間食は、適正な量であればよいと思いますので、あげすぎにならないようにだけ気をつけましょう。
また、猫は飲水量が少なくなりがちなので、しっかりお水を飲ませることも大切です。
まずは、新鮮な水を常に用意してあげましょう。その他に複数の場所に水を置く、動く水が好きな場合はウォーターファウンテンなどを用意するなど、水が飲みやすい環境を整えてあげるとよいですね。
あとは、適度な運動も必要なので、猫じゃらしで遊んであげたり上下運動できるようなものを用意したり、お家で体を動かせるようにしてあげるといいですね。
また、誤飲したり怪我をしたりしないような、安全な生活環境を整えてあげることも大切です。加えて、猫はストレスが疾患に繋がってしまうケースも少なくないので、普段と異なることが続いていないかなど、気をつけてあげるとよいと思います。
食事について詳しく知りたい方はこちら
猫ちゃんに食事を楽しんでもらうために!オーナーが知っておきたい“ごはんの教科書”。
猫の消化器疾患について
阪本先生からのメッセージ
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消化器の不調はよくあることなので、病院に行くかどうか迷ってしまうと思います。症状からは重篤な状況にあることがわからない場合も多いので、一歩踏み込んだ検査が必要かどうか、飼い主さんでは判断が難しいこともあると思います。 そういう時に重要な手がかりになるのは、健康な時の様子やデータです。よい状態がわかっているからこそ、「いつもとちがう」を発見しやすくなります。ぜひ、普段の状態を先生に見せておくという意味でも、健康な時は1年に1回、なにか病気が見つかった後は3ヶ月に1回の健康診断を受けていただけたらと思います。その際に、特に気になる症状がなかったとしても、腹部超音波検査は受けておくとよいと思います。 また、普段から猫ちゃんの様子を丁寧に見ていると、ちょっとした変化にも気づくことができると思います。そのちょっとした違和感を流してしまわずに、日付や症状をメモに残し、早めにかかりつけの先生に相談していただけたらと思います。 |
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取材にご協力いただいた病院
日本大学 生物資源科学部獣医学科を卒業後、日本大学大学院獣医学研究科で獣医学を専攻し、消化器病学を中心に研究を深める。大学院修了後は、日本大学動物病院で研修医として臨床経験を積み、肝硬変症例の担当をきっかけに、確定診断と内科治療によって動物のQOLを大きく維持できることを実感。これを契機に、消化器疾患の診断・治療への専門的な関心を強める。その後、2022年より日本大学 生物資源科学部にて専任講師を務め、獣医消化器病学研究室に所属。研究と教育の両面から、犬猫の消化器疾患に関する知識の深化と臨床応用に尽力している。

