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猫の目の病気|早期発見につなげるポイントや予防方法を獣医師が解説

猫の目の病気|早期発見につなげるポイントや予防方法を獣医師が解説

 
青木 進士
八ツ木の丘動物病院
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視覚は愛猫と飼い主さんにとっても大切なコミュニケーションツールの一つです。目が合うことによりお互いにオキシトシンというホルモンが放出されるという報告があります。オキシトシンは幸せを感じるホルモンです。つまり目が合うとお互いに幸せな気持ちになるという事ですね。ところが猫の目の病気は進行すれば失明することもあり、早期発見・早期治療が重要になります。飼い主さんが知っておきたい病気の種類やセルフチェックの方法、目を守る生活習慣などを八ツ木の丘動物病院の青木先生に答えていただきました。

プロフィール
青木 進士  先生

青木 進士 先生

八ツ木の丘動物病院院長。2007年に麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、工藤動物病院、青木獣医科の勤務を経て、2020年に八ツ木の丘動物病院を開業。在学中から眼科に関わる研究を行い、現在は緑内障や角膜潰瘍をはじめ、さまざまな眼科手術を行う。動物とのコミュニケーションに関わる視覚の重要性を飼い主に伝え、人と動物が互いに幸せな生活を送るために欠かせないクオリティ・オブ・ビジョン(視覚の質)の維持・向上のために啓発を続けている。
八ツ木の丘動物病院

目次

猫の目の構造と役割

猫と人間の目にはどのような違いがありますか?

目の構造図

目はカメラの構造とよく似ていて、パーツにたとえると、シャッター=まぶた、レンズカバー=角膜、絞り=虹彩、レンズ=水晶体、ピント合わせ=毛様体、フィルム=網膜、カメラのボディ=強膜、といった役割が当てはまります。

獣医師 青木 進士 先生

猫と人間の基本的な目の構造と役割はほぼ同じです。見えるしくみは、光が角膜から入って水晶体と硝子体を通り、網膜に集められて電気信号に変わり、視神経を通って脳に伝わり、画像として認識されるわけです。ただし、動物種の生態によって機能などに違いがあります。

(1)暗いところでもよく見える

眼球に対する角膜(黒目)の割合が人間は2~3割ですが、猫では光を取り込みやすいように5割を超えます。だから猫は人間と違って白目がほとんど見えませんよね。光を取り込んだあと、網膜のさらに奥にある「輝板(きばん/別名:タペタム)」という反射板が光を跳ね返すことで、もう一度網膜に光が届きます。これにより暗闇でもものが見えやすくなります。ちなみに、猫の目が夜間やフラッシュを焚いたときにキランと光るのは、輝板があるからです。

(2)ピントを合わせるのが苦手

人間は毛様体で水晶体の厚みを調節し、光の屈折率を変えて見たいものにピントを合わせるのが得意。一方、猫は水晶体によるピント合わせが苦手で、角膜に曲率をもたせることで屈折率をカバーしていると考えられます。ピント合わせは得意ではないものの、人間と同じように目がほぼ正面についている(犬は少し横)ので、立体視が得意だったり障害物を透明化(手を目の前にかざすと、手が透明になって向こう側が見える現象)する事ができます。茂みに隠れて獲物を狙うのに有利な能力です。

回答する青木先生

猫の目の病気で注意が必要な病気

猫の目の病気について教えてください。

インタビューカット

獣医師 青木 進士 先生

猫は自分で目が痛いとか痒いとか見えづらいと言ってはくれません。片目が見えなくても生活に支障がなく、両目の失明で初めて症状が現れることもあります。どうしても発見が遅れてしまいがちです。飼い主さんが異常に気づき当院を受診した段階で、すでに手遅れとなっていることも少なくありません。この機会に目の病気の種類や症状、普段気をつけることなど知り、愛猫の大切な目を守るために役立ててくださいね。

猫の目の病気

結膜炎

目のかゆみや違和感、白目の充血が起きます。原因は感染、異物、アレルギーなど様々。失明につながる角膜潰瘍やブドウ膜炎、緑内障も充血を伴うため、結膜炎だろうと軽視せず眼科検査を行うことが望ましいです。

ドライアイ

目を守る涙液やムチンの分泌が減り、角膜の表面が乾燥した状態。外傷や感染症のリスクが高まり、さまざまな目の病気を引き起こすきっかけになります。目が突出しているエキゾチックやブリティッシュショートヘア、マンチカンなどの短頭種は要注意。

ぶどう膜炎

ぶどう膜という眼内を裏打ちする血管膜の炎症です。血管が多いため炎症が起こりやすいです。ぶどう膜は虹彩、毛様体、脈絡膜からなり、黒い色素を持つことからブドウのような見た目をしているためこう呼ばれます。そこに炎症がおこると痛みによるしょぼしょぼ感やまぶしさを伴う縮瞳(瞳孔が小さくなる)が起き、重度では出血により黒目が真っ赤になることもあります。原因は感染症、腫瘍、特発性(原因不明)など様々ですが、若い猫では時に猫伝染性腹膜炎ウイルスなど命に関わる感染症が原因となる場合もあるため早期の診断、治療が求められます。

角膜炎(角膜潰瘍)

潰瘍性角膜炎は、傷や感染症などにより角膜が傷つき、強い痛みが出ます。重度では目に穴が空き、治療に時間がかかることも。猫は猫ヘルペスウイルス1型感染が潰瘍を形成する事があり、特に新生仔での初感染・発症では重症化しやすく失明のリスクもあります。短頭種は角膜の乾燥から自然に発症してしまうことがあり、日頃からの保湿が有効となります。

網膜障害

先天的な網膜の異常である網膜異形成や、高血圧による網膜剥離(高血圧性網膜症)、主に食事中のタウリン不足により起こるタウリン欠乏性網膜症などがあります。高血圧性網膜症は甲状腺疾患や慢性腎臓病を持つ高齢の猫に起こりやすいです。若くない愛猫さんが急に物にぶつかるようになった、目の奥が真っ赤に見えるなどがあったらすぐ病院へ。タウリン欠乏性網膜症は主に食事中のタウリン不足が招く病気です。猫はタウリンを体内で作れないため食事で摂る必要があります。ペットフードが発展してきた現在では見かける機会は減りましたが、嗜好性の問題からドッグフードを与えている、手作り食を与えている場合などは注意が必要です。またタウリン不足は拡張型心筋症という心臓病も起こしてしまいますので与えているフードにタウリンがしっかり添加されているか確認しましょう。

角膜分離症

乾燥や目の周りの毛などの慢性的な刺激や猫ヘルペスウイルス1型感染症によって角膜の表面に黒いかさぶたのようなものができてしまう病気です。内科的療法も可能ですが数ヶ月かかることもしばしばです。痛みを伴ったり再発を繰り返す場合は外科的な切除も検討されます。ドライアイになりやすい短頭種を中心に発症する傾向がありますので、短頭種の猫はしっかり目の保湿をしていきましょう!

新生児眼炎

生まれてから間もない免疫の弱い時期の細菌やウイルスの感染により結膜や角膜に傷がつき、治療が遅れれば傷口が癒着して視覚障害が起きます。また癒着により涙点、涙管(涙の排出路)が塞がった状態になれば涙液があふれて治療困難な涙やけの原因になります。

がん(悪性腫瘍)

まぶたや結膜に肥満細胞腫や扁平上皮がんなどが発生することがあります。悪性度が高く根治が難しい場合もあります。猫の虹彩には特に重要な虹彩メラノーマという悪性腫瘍ができる事があります。虹彩に黒いシミができ、それが広がり膨らんできます。膨らんだ状態では肺などへの転移率が約60%であったという報告もあります。同じように黒いシミを作る病気には虹彩メラノーシスという良性の病気もありますが、初期のメラノーマとの鑑別が難しいこと、メラノーシスはメラノーマへ進行する可能性もあるため経過観察が必要です。

猫の目の病気の検査と治療法

猫の目の病気の検査にはどのような種類がありますか?

インタビューカット

獣医師 青木 進士 先生

愛猫の目の異常に気づいたら、まずはかかりつけの動物病院で獣医師の診察を受けましょう。目の検査は特殊な器具を使わず見つけられる病気もありますが、診断には眼科専用器具が必要になる病気もあるため、診断が難しい場合や治療しても改善しない場合は、獣医師に眼科への紹介を相談してみてください。当院では必要に応じて下記の検査を行います。

・問診(病歴、治療歴、心当たりなど飼い主様からの情報を得る)
・外貌検査(動きに異常はないか、腫れ、充血、濁り、左右差がないかなど全体的な観察)
・対光反射(光に対する瞳孔の動き)
・眼瞼反射(瞬きできるかの確認、筋肉や神経の病気で消失)
・シルマー試験(涙の量の検査)
・角膜染色(角膜の傷や涙の質の検査)
・眼圧測定検査(緑内障やぶどう膜炎の確認)
・スリットランプ検査(眼科用顕微鏡を使った細やかな検査)
・眼底検査(網膜の検査)

健康診断に「アイチェック」を加える

目の健康診断は「アイチェック」と言います。健康なときに「シルマー試験」で涙液の量と、「眼圧測定検査」で眼圧を測っておくと、いざ気になる異常があったときに健康な時と比べることができ、病気の早期発見につなげられます。かかりつけの動物病院で健康診断を受けるときに加えることをおすすめします。

 

猫の目の病気の治療法を知っておきたいのですが……。

獣医師 青木 進士 先生

代表的な治療法は、点眼薬(目薬)や内服薬による薬物療法、手術療法、生活環境の改善の3つです。早く治療を始めたほうが早く治り、手術の成功率も上がります。

薬物療法:点眼薬や眼軟膏、内服薬(病気の種類に応じて処方される)

目薬は患部に直接薬を届けられるため、非常に重要で中心的な治療法です。点眼薬は目の奥の方(硝子体や網膜)、まぶたには届きにくいため内服薬も治療に用いられることがあります。病気によって使う目薬はかわります。間違った使い方をすると効果がなかったり、場合によって病気が悪化してしまうこともありますので、お持ちの目薬もご自身の判断ではなくかかりつけの先生に相談してから使うようにしましょう。人間用の市販の点眼薬は猫に適さないものもあるので、獣医師に相談してください。

手術療法:眼瞼内反症などに対する手術

当院において猫の目で手術する機会の多い病気の一つに眼瞼内反症があります。まぶたが内側にくるっと巻き込んでしまう病気で、毛が角膜を刺激しチクチクととても痛みのある病気です。長く放置してしまうとそれが癖になり外科的に整復してあげる必要が出てきます。早期治療により手術せず治ることもありますので、早めの受診をお勧めします。そのほか角膜に穴が空いてしまい(角膜潰瘍)それを直接縫い閉じたり近くの角膜や結膜を引っ張ってきて穴を閉じる手術や、外傷や腫瘍によりダメになってしまった目を摘出する眼球摘出術があります。猫の白内障は犬と比べ比較的稀な病気で、この数年で当院での犬の白内障手術が100件とすると2件程度です。

生活環境の改善:家庭でできる目のケア、ほこりや刺激物の除去

目にはアレルゲンや汚れが付着しやすいため、洗眼を習慣にすることが望ましいです。また、特に短頭種では獣医師に乾燥を防ぐ保湿の点眼薬や眼軟膏の処方を相談してみるのもいいでしょう。乾燥する時期には加湿器を用いるのも良いかもしれません。生活空間もこまめに掃除して、清潔を保ってください。

 

もしものときのために、点眼薬をつけるコツを教えてください。

獣医師 青木 進士 先生

目の病気になってから、いきなり点眼薬や眼軟膏をつけるのは難しいと思います。まずは健康なときから、猫なで声で、褒めてごほうびを与える習慣から始めてみてください。猫なで声というのが、意外かもしれないですが、大事なポイントです。特に目の周りを中心に触られることに慣らしておきましょう。

保湿用の点眼薬は予防としても使えるので、練習も兼ねてかかりつけの動物病院に処方を頼んでみてください。点眼薬を持った状態でほめてごほうびを与える習慣も大切です。押さえつけたり寝ている時に点眼をしようとすると目薬が嫌いになってしまう事があります。気をつけましょう。冷蔵庫で保管している目薬も冷たく刺激になりますので、手で人肌程度で温めてからの点眼をお勧めします。

猫に点眼する様子点眼薬のつけ方:片手で点眼薬を持って小指で上まぶたを引っ張り、素早く垂らす。すぐにほめてごほうびを与える。ねこちゃんには少し上を向いてもらうとつけやすいです。正面ではなく、点眼瓶が見えづらい後方から点眼します。

猫に点眼する様子眼軟膏のつけ方:眼軟膏の容器から直接出し、上まぶたを引き上げてできたポケット(隙間)に入れる。眼軟膏を指に少量出してつける方法もある。

猫の目のセルフチェック方法と病気の予防

猫の目の病気を早く見つけるためにできることは?

インタビューカット

青木先生の回答

失明するような怖い病気の多くは白目の充血から始まります。ところが、猫の目は角膜が大きく白目が見えづらい構造です。くりっとしたかわいらしい目をつくっている特徴が、病気の発見の遅れにつながっている可能性も。愛猫の上まぶたを持ち上げたり下まぶたを引き下げたりして、白目の状態もご家庭でチェックすることが重要です。目を擦ったり片目の瞬きが多いなどは目の痛みや不快感のサインです。日常生活の中で愛猫の目や表情、行動などに気になる点があれば記録し、早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。

眼科では「目やには口ほどに物を言う」という格言があるほど、目やには病気を見つけたり診断したりする大切な手がかりになります。飼い主さんの中には「診察してもらうのに汚れていたら申し訳ない」と拭いてしまう方もいますが、獣医師が症状を確認できるようにそのままにしてお越しください。

セルフチェックで目の病気を早期発見

猫のアイチェックのイメージ

家庭でチェックするポイントと、病気のサインを知っておきましょう。

  • □ 目やにの色や量→黄色、緑色
  • □ まぶたの状態→充血、脱毛、腫れ
  • □ 正面から光を当てて角膜(黒目)の色を確認→濁りがある、凹んでいる、ざらざらしている
  • □ 目の充血・赤み・黄疸の有無→白目や角膜の変色
  • □ 涙液の量や質→量が増えた、ベタベタと粘つく、乾いている
  • □ まばたきの頻度→片目だけ多い、目が開きづらい、瞬きができない
  • □ 目の動きの変化→左右差や違和感、動きを追わない
  • □ 瞳孔の大きさや形の変化→左右差、散大(開きっぱなし)
  • □ 猫の表情や行動の変化→光を避ける、目を細める、夕方の散歩を怖がる、物にぶつかるなど
 

猫の目の病気を予防するために日々できることが気になります。

回答する先生

猫の代表的な目の病気に猫ヘルペスウイルス1型感染による結膜炎、角膜炎があります。新しい猫が来た、お留守番の時間が急に増えたなど環境の変化によるストレスが免疫を低下させ発症を招く事があります。日々愛情を持って接してあげること、のんびり一人でくつろげる場所を提供してあげることなどが目の病気を防ぐことにもなります。健康な時のワクチン摂取も発症時の症状軽減が期待できますのでかかりつけの獣医師と相談のうえ接種を検討しても良いと思います。

結膜炎や角膜潰瘍など痛み、不快感を伴う病気が続くと、上記に記載したような眼瞼内反症を招く事があります。瞬きが多い、目を擦るなど目を機にするそぶりが出たら早めの受診を心がけましょう。

短頭種の猫は目が乾燥しやすいです。歳とともに角膜がより乾燥し角膜潰瘍や角膜分離症などが出てくることがあります。大事なのは未病で防ぐこと!乾燥肌に保湿剤を塗るように、目にも保湿作用のある点眼薬を点眼することをお勧めします。

Point涙やけのケアをするタイミングは食後がおすすめ

飼い主さんから相談が多い「涙やけ」は、涙液が出たときに拭くだけでもきれいになることも。動物は唾液と一緒に涙液を分泌されるので、食後に拭いてあげることも有効なケアの一つです。根本的に治したい場合は、複数の検査で原因を特定することから始めます。

青木先生からのメッセージ

クオリティ・オブ・ビジョン(視覚の質)を守りたい

幸せに暮らすためには、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の維持・向上が重要といわれていますよね。私たち眼科が担うのは「クオリティ・オブ・ビジョン(視覚の質)」です。動物は視覚に異常が生じても訴えることができないため、飼い主さんのセルフチェックが病気の早期発見の鍵。たとえ目の病気を発症したとしても、早く治療を始めれば、クオリティ・オブ・ビジョンを維持・向上できる可能性は高まります。「なんとなくおかしい」という小さな違和感であっても、ぜひ獣医師に相談してくださいね。

獣医師 青木 進士 先生

取材にご協力いただいた病院

栃木県 芳賀郡芳賀町
青木 進士
八ツ木の丘動物病院
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八ツ木の丘動物病院院長。2007年に麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、工藤動物病院、青木獣医科の勤務を経て、2020年に八ツ木の丘動物病院を開業。在学中から眼科に関わる研究を行い、現在は緑内障や角膜潰瘍をはじめ、さまざまな眼科手術を行う。動物とのコミュニケーションに関わる視覚の重要性を飼い主に伝え、人と動物が互いに幸せな生活を送るために欠かせないクオリティ・オブ・ビジョン(視覚の質)の維持・向上のために啓発を続けている。

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