猫の白内障は犬と比較して、そこまで多くはありませんが、まったくない病気でもありません。そして、進行すると視覚が障害されるほか、さまざまなリスクもある病気です。今回は、「横浜どうぶつ眼科」の梅田裕祥院長に、猫の白内障について、その症状や治療法についてお話をうかがいました。

梅田 裕祥 先生
横浜どうぶつ眼科
目次
「白内障」とは、どのような病気?
白内障とは、どのような病気ですか?

眼の水晶体という部分が濁ってしまう病気です。白内障は、進行していく病気で、混濁の程度によっては視覚に影響を及ぼします。最終的には黒目の部分が白くなってしまいますが、ここまで進行すると視覚が障害されていることが多いです。
病気は、どのように進行していきますか?

水晶体の濁りの程度によって、「初発白内障」→「未熟白内障」→「成熟白内障」→「過熟白内障」の4段階で進行していきます。初発白内障は、水晶体の白濁15%以下の状態を指しますが、ここまではまだ視覚があります。そこから進行すると、混濁が水晶体全体に広がり、成熟白内障と呼ばれる状態になります。成熟白内障の段階では、視覚が障害されていきます。(明るさは感じている状態)
白内障と似ている症状の病気、間違いやすい病気はありますか?

水晶体の真ん中には核という部分があります。ゆで卵の黄身の部分を想像していただけると近いと思います。その核が、6、7歳くらいになると老化によって硬くなってビー玉のように見えることがあります。これを「核硬化」と言います。この状態になると、眼の真ん中が青白く見えるので、白内障を疑う方がいらっしゃいます。しかし、核硬化の場合は光を通しているので視覚が障害されているわけではありませんので、特別な治療をする必要はありません。
注意が必要なケースと視覚以外のリスクとは?
白内障の発症には、どのようなケースがあるのでしょうか?

犬によく見られる「遺伝性」は猫だと稀で、「老齢性」による白内障は17歳以上の猫にリスクがありますが進行は非常に遅いことがほとんどです。 お母さんのお腹の中で眼が発達しきれず生まれてしまったケースでは、「先天性」の異常による白内障を疑うケースがありますが、犬に比べると猫は総じて白内障になることは少ないと思います。
ただ、猫で比較的多いのは、体の病気や外傷をきっかけに眼に炎症が起きて、そこから白内障が発症するケースです。しかしながら、猫の眼の病気で多く見られる結膜炎から白内障になることはありませんし、犬では多く見られる糖尿病から白内障になるというケースも、猫にはほとんどありません。
白内障は進行すると、視覚が障害される以外に、どのようなリスクがあるのでしょうか?

猫は白内障自体の症例が少ないのですが、一般的には進行すると眼の中で炎症を起こしてしまいます。水晶体はビニールのような膜で覆われていますが、病気が進行すると、水晶体の中の水分が膨張し、膜からその水分が滲み出してしまいます。水晶体内の水分は、生まれた時から膜に覆われていて、水晶体の外に出ることがないので、病気をきっかけに水晶体の外に出ることで、体が水晶体中の水分を異物だと認識して、免疫反応で攻撃してしまうのです。この炎症によって、緑内障や網膜剥離を引き起こすリスクが高くなります。白内障だけではなく、そこから合併症に繋がる危険性があるところが、この病気の注意すべき点です。
特に重要な合併症
①緑内障
視神経が圧迫・障害されることで、視野の一部や欠けたり狭くなったりする病気。進行すると、視覚が障害されることもある。
②網膜剥離
眼球の内側にある網膜が、本来の位置から剥がれてしまうことによって、視覚異常を引き起こす病気。進行すると、視覚を障害されることもある。
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白内障を治す方法とそのベストなタイミングは?
白内障は、どのように治療するのでしょうか?

基基本的には、適切な時期に手術をするしか治療法はありません。
手術の内容も使う機材も、人の白内障手術と変わりません。水晶体の真ん中を切り抜いて中身を取り除き、代わりに猫用の眼内レンズ(人工レンズ)を入れて、内側から固定します。
手術をするのにベストなタイミングはいつでしょうか?

視覚障害が出始めた成熟白内障の段階で、炎症がまだ起きていないタイミングが望ましいです。手術をしても5%~10%の合併症のリスクは残りますが、手術をしたほうが眼を守る確率が高いという結果が出ているので、未熟白内障までの段階で病状を把握し、進行を観察しながら適切な時期に手術をするのがベターです。
人の白内障では眼が見えている状態で早めに手術する傾向にありますが、猫の場合は視覚がある状態で合併症のリスクを背負わせるよりも、視覚障害が出て手術をする流れのほうが良いと思います。
予防や早期発見のために、家庭でできることはある?
早期発見のためにできることはありますか?

白内障は水晶体の奥の方でなることが多いので、初期段階にご家庭で気づくことは難しいと思います。ひとつのシグナルとしては、眼をよく瞑っていたり、しょぼしょぼさせていたりする場合、眼の中で炎症が起きている可能性が高いでしょう。その場合は、早めに一度、病院で診てもらってください。動物病院でも、眼科が得意な先生ならより詳しく診てもらえると思います。
また、眼科が得意な先生でしたら、眼の病気のリスクをよく知っていると思うので、キャットドッグの中に眼科項目を入れているケースも多いと思います。検診内容を確認したり選ぶときの基準のひとつにしたりするのも良いのではないでしょうか。
猫の白内障について
梅田先生からのメッセージ
猫は犬に比べると、白内障にはなりづらいと思います。 しかし、身体の感染症が原因で眼内炎症が起き、そこから白内障や緑内障、網膜剥離に繋がってしまうケースも少なくありません。
まずは眼に限らず、身体の異常にできるだけ早く気づくことが大切です。
猫は身体の不調を表に出さないポーカーフェイスなところがありますから、特に不調を感じていなくても定期検診を受けるようにしたり、ご飯を食べているかどうかなどを日頃からチェックしたりすると良いと思います。
取材にご協力いただいた病院
横浜どうぶつ眼科 院長。獣医眼科学専門医(比較眼科学会)。酪農学園大学獣医学科を卒業後、都内の眼科専門動物病院で経験を積む。ACVO(アメリカ獣医眼科学専門医会)主催のBasic Science Course修了、順天堂大学大学院医学研究科を修了し、医学博士(医学)を取得。卒業後、都内眼科専門動物病院に勤務しながら、比較眼科学会理事、日本獣医眼科カンファランス(JVOC)役員、順天堂大学医学部眼科学講座の非常勤講師としても活動中。動物とご家族の気持ちに寄り添いながら、高度な専門医療を提供することを大切にしている。自宅では4歳のミディアムプードルと、5歳・6歳の雑種猫2匹と暮らし、動物たちとの日々も大切にしている。