「大切な愛猫の体調不良にはすぐに気づいてあげたい!」 そんなオーナーの思いとは裏腹に、猫は不調を隠してしまいがちです。そこで本企画「にゃ・ジャッジ」では、見逃してほしくない愛猫の不調のサイン、受診のタイミングについて獣医師が直接アドバイス! 今回のテーマはアイケア。オーナーの皆さんが「どうしよう!」と迷うケースについて、猫裁判長と、有識者の小山獣医師に「こう動くべし!」とジャッジしていただきます。
【注意】本企画のアドバイス(「◎様子を見てOK」、「×早めに病院へ」)は、あくまでも一般的な目安とお考えください。少しでもおかしいと感じたら、かかりつけの獣医師へ相談されることをおすすめします。
目次
小山 博美 (こやま ひろみ)先生
CASE1
「まぶたが赤い、腫れている」



まぶたの腫れだけなら
しばらく様子を見て
解説
その他に症状がなければ、1日ぐらいは様子を見て大丈夫です。症状が続いて、猫が眼をしきりに触るようだったら受診を検討しましょう。爪でひっかいて傷を作ってしまう可能性があります。
眼のしょぼつきに伴って、まぶたが腫れることもよくあります。しばらくは様子を見ましょう。

まぶたも眼も腫れていたり、
誤ってスプレーがかかってしまった場合は
病院へ
解説
まぶただけではなく、眼(角膜)が腫れている場合は要注意。結膜炎の可能性や、重篤な病気が隠れている場合もあります。また、虫よけスプレーなどを誤って噴霧してしまった場合は、接触によるアレルギーを起こす可能性があります。
特に噴霧剤が毒物の可能性がある場合は、速やかに病院で適切な処置を受けてください。
先生からのアドバイス
猫の眼の病気で最も多いのが、ヘルペスウイルスによる感染性結膜炎や角膜炎です。「室内飼いでワクチンも接種しているのに」と驚く飼い主さんも多いのですが、実は子猫の頃に感染したヘルペスウイルスが潜伏していて、体調を崩したときなどに症状として現れることがあります。たとえ1頭だけを室内で飼っていても、発症する可能性があることを知っておきましょう。
先生からのちょっとためににゃる話
病院に行く? 家で様子を見る? 迷ったときの考え方
猫にとって、病院に行くことは大きなストレスになりがちです。例えばワクチンを打った翌日に、ストレスでヘルペスの症状が表れる猫もいます。ですから、「病気は心配だけど、受診すべきか迷う」という飼い主さんの気持ちもよく分かります。飼い主さんの経験上、数日で回復するケースなら、自宅で様子を見る判断もあり得ます。もちろん、心配でたまらないときは、飼い主さん自身の安心のためにも受診するのがベストです。迷ったときは、猫のストレスと飼い主さんの安心、どちらを優先するか一度ケースごとに考えてみてください。

CASE2
「眼をしょぼしょぼしているみたい。眼を閉じがち」


すぐに症状がおさまれば
様子を見て大丈夫
解説
ゴミが入って眼がしょぼしょぼするのはよくあることです。ゴミが取れれば症状はなくなるので、気づいたら治っていた場合は病院に行かなくても大丈夫です。一晩経っても症状が続くときや、充血・目やになどの症状も見られる場合は、何かの病気が疑われます。猫がよほど病院嫌いでなければ、受診を検討しましょう。
充血や目やになど、他の症状がないかもチェック!

眼の中(黒目の部分)の色が
変わっていれば(赤や白)病院へ
解説
眼の黒目の部分が赤くなっているのは出血の可能性があり、緊急性が高い状態です。できるだけ早く診察を受けてください。眼に傷がつくと、角膜が白く濁ることがあります。この場合も早めの受診をおすすめします。
眼の色が変わっていたら、出血やケガの可能性があります。
先生からのアドバイス
眼の痛みは、眼の表面、眼の中、眼の奥の3つに分類※されますが、猫に最も多いのは結膜炎や角膜炎といった眼の表面の痛みです。軽いものであれば、ゴミなどの異物が入った程度のこともありますが、いずれにしても猫が眼に不快感を感じている状態だと考えられます。眼をしょぼしょぼしているだけなら、即座に危険というケースはまずないでしょう。
※3つの分類について
眼の表面…まぶた、結膜、角膜
眼の中…ぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)、網膜
眼の奥…眼窩
先生からのちょっとためににゃる話
いざというときのために、愛猫のケアを練習しよう
病院嫌いの猫でも、緊急時は受診が必要になることもあります。普段から飼い主さん自身が目薬をさしたり、薬を飲ませたりできるようになっておくと、いざというときにスムーズに治療を進められます。
CASE3
「目やにが増えてきた!」



量が多くないなら
様子を見て大丈夫
解説
黒っぽい色をした目やにが少量出るくらいなら、病院に行かなくても大丈夫です。
猫は自分で顔を洗うので、基本的に飼い主さんが目やにを取る必要はありません。
先生からのアドバイス
もし目やにを拭き取る場合は、角膜に刺激を与えるアルコール入りのウエットティッシュは使わないようにしてください。ペット用または人間の赤ちゃん用の目やに拭きを使うか、それもない場合は水道水で洗えば大丈夫。でも一生懸命洗うと涙を全部洗い流してしまいかねません。そこまで目やにが出るようなら、診察を受けるのが良いでしょう。

眼が白濁している、
眼を痛がっている様子があれば病院へ!
解説
眼が白く濁っている、眼をしょぼしょぼして痛がっている様子がある場合は受診してください。また、目やにの量が増えて目の下まではみ出ている、目やにで眼が開かない状態になっている場合も診察が必要です。
目やにの色や量がいつもと違っていたら受診しましょう。
先生からのアドバイス
エキゾチックショートヘアやペルシャといった短頭種は、顔の構造上、眼のトラブルが起きやすい品種です。慢性的に目やにが出やすく、眼瞼内反症(がんけんないはんしょう:逆さまつげのこと)やドライアイなどの病気も発症しやすい傾向があります。日頃から眼の状態をよく観察して、症状が悪化したときは早めに受診してください。
先生からのちょっとためににゃる話
症状が出ているのは片目?それとも両目?
眼の診察をする際、片目だけの症状は基本的に眼の病気と考えますが、両目に症状が出る場合は、全身症状の一部という可能性も考えなければなりません。全身が衰弱していたり、呼吸器系の感染症、また目やに以外の症状を伴っている場合は、内臓疾患が原因のこともあります。
CASE4
「瞳孔がずっと大きいままな気がする!」



この場合は様子を見てはいけません!
気づいたら必ず病院へ!
解説
明るい場所でも瞳孔(黒目の部分)が大きいまま戻らない、瞳孔の大きさに左右差があるのは散瞳(さんどう)という状態で、眼や全身の異常が隠れている可能性があります。特に10歳を過ぎた高齢猫では、高血圧による網膜の病気が疑われます。なかには中耳炎や内耳炎などの耳の病気が影響して一時的に散瞳することがありますが、症状が続いたり、あまりに瞳孔が大きくなったりするようなら迷わず診察を受けましょう。
腎臓が悪い高齢猫は高血圧の可能性があります。できれば眼科の専門医を受診しましょう。
先生からのアドバイス
通常、猫の瞳孔は緊張時に開き、リラックス時に細くなります。明るい場所やリラックスしているときも瞳孔が開いたままなのは、光を感じられないか、瞳孔を動かす機能に異常があると考えられます。「猫の黒目がうるうるしてかわいくなった」と思っていたら、実際は網膜の病気が進行していたというケースも多いので、注意が必要です。
先生からのちょっとためににゃる話
おかしいと思ったら、昔の写真と見比べてみて
散瞳が疑われたら、スマホやアルバムにある1年前の写真と見比べてみてください。もし「やっぱり黒目が大きくなってる!」と感じたら、病院を受診することをおすすめします。散瞳は少しずつ進行し、放っておくと視力を失う原因にもなります。猫は順応性が高く、見えづらくなっても普段通りに過ごしてしまうため、飼い主さんが気づいたときにはすでに失明しているケースも少なくありません。
CASE5
「眼の色が左右で違う気がする!」



この場合は様子を見てはいけません!
気づいたら必ず病院へ!
解説
生まれつきのオッドアイを除き、左右で眼の色が違う場合は病気の可能性があります。赤みがあるときに疑われるのは、虹彩(瞳の周りの色がついた部分)に炎症が起こるぶどう膜炎です。猫は充血すると、黄色い眼がオレンジっぽくなったり、青い眼がくすんだりして見えます。また黒っぽいシミが出たら要注意。良性の色素沈着(メラノーシス)の場合もありますが、長期的には虹彩メラノーマという悪性腫瘍に進行することがあります。猫の白目は人間と異なり見づらいため、気づきにくいので異変に気づいた場合は早めに病院へ行きましょう。
左右の眼の色の違いや、赤いシミは緊急性が高いサインです。
先生からのアドバイス
虹彩メラノーマは、猫の虹彩にできる腫瘍で最も多く、小さなシミからゆるやかに進行していきます。悪性の可能性が高くなると転移のリスクがあり、抗がん剤が効かないため眼球摘出が必要です。飼い主さんにとってはとても辛い選択ですが、猫は五感に優れているので、眼を失っても案外普段通りの生活を送れるものです。ハンデがあるので生活面での配慮は必要ですが、音の鳴るおもちゃを使うなどの工夫をすれば、十分遊びも楽しめるでしょう。
先生からのちょっとためににゃる話
猫オーナーが知っておきたい「眼の腫瘍」
猫の虹彩にできる腫瘍には、以下の3つがあります。
①虹彩メラノーマ:高齢猫に多く、ゆるやかに進行する
②未分化肉腫:若い猫でも発症することがある
③リンパ腫:進行が早く、腫瘍の位置により胸水や腹水など全身に影響を及ぼすことがある
リンパ腫と一部の肉腫には抗がん剤が効きますが、猫の体に大きな負担をかける治療です。そのため、眼だけに腫瘍がある場合は眼球摘出を選択することもあります。そうすることで猫を抗がん剤治療から解放し、普段通りの生活を送ることができます。
小山先生からのメッセージ
猫の眼は、体の中で神経や血管の状態を直接見ることのできる唯一の組織です。内臓の異常は外からは見えにくいですが、眼はささいな変化でも気づきやすく、異変をいち早く発見できます。また散瞳や虹彩メラノーマなど、徐々に進行する病気もあるので、日々の姿を写真で記録しておくことをおすすめします。
「1ヶ月前は?1年前はどうでしたか?」と聞かれたときに、写真があると経過がよく分かり、診断の大きな助けになります。瞳孔の大きさや瞳の色が分かりやすいよう、明るい場所で正面から顔のアップを撮影してください。両目と片目ずつの写真があるとベストです。
「にゃ・ジャッジ アイケア編」はいかがだったでしょうか。網膜や虹彩の病気は、ゆるやかに進行していきますが、日頃からよく観察していれば、小さな変化にも気づきやすく、早めの対応が可能です。少しでも「あれ?」と思ったら、病院で診察を受けると安心です。 では、次回の「にゃ・ジャッジ」もぜひお楽しみに!
取材にご協力いただいた病院
ネオベッツVRセンター 大阪府大阪市東成区東小橋2丁目10-11

大阪府立大学獣医学科卒業。南大阪動物医療センターなどでの勤務を経て、アメリカ・オハイオ州立大学で2年間眼科診療を研修。帰国後はネオベッツで眼科診療を開始し、現在はネオベッツVRセンターで犬猫の眼科を担当。比較眼科学会獣医眼科学専門医として、学会活動や後進の育成にも取り組んでいる。
