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献血ドナープロジェクトから広がる未来。犬猫の血液疾患と向き合う。腫瘍内科・吉田佳倫(ヨシダ カリン)先生

献血ドナープロジェクトから広がる未来。犬猫の血液疾患と向き合う。腫瘍内科・吉田佳倫(ヨシダ カリン)先生

 
吉田 佳倫
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター
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「ミライノ動物病院」の柴田望美先生からバトンをつないでいただいたのは、日本獣医生命科学大学付属動物医療センターで腫瘍内科を担当する吉田佳倫(ヨシダ カリン)先生です。同センターの献血ドナープロジェクトの立ち上げ時から関わり、「日本にも動物の血液バンクをつくれたら」と語ります。本記事では吉田先生に獣医師を目指したきっかけやペットの血液型を把握しておくことの大切さをうかがいました。

ミライノ動物病院 柴田 望美先生

プロフィール
吉田 佳倫先生

吉田 佳倫先生

日本獣医生命科学大学付属動物医療センター腫瘍内科勤務。麻布大学獣医学部で獣医内科学研究室(当時)に所属し血液疾患を研究。卒業後は同センターの総合診療科を経て、2022年から現在の腫瘍内科へ。骨髄検査や輸血が必要な血液疾患、抗がん剤治療を必要とする腫瘍疾患を担当する。患者である動物および飼い主と信頼関係を築き、長期にわたる治療が必要な血液疾患の闘病を支える。同センターの献血ドナープロジェクトを設立した一員であり、動物の血液バンクや安全な輸血システム確立への貢献を目標とする。

目次

愛犬の闘病を目の当たりにしたことで獣医師を志す

笑顔の吉田 佳倫先生

幼少期に動物とふれあった思い出や、獣医師になろうと思った理由を教えていただけますか?

母が動物園や水族館に連れて行ってくれたので、物心がついたころにはすでに動物好きになっていました。小学4年生のときに初めて迎えた愛犬のバーニーズ・マウンテン・ドッグの闘病を目の当たりにして、「いつか自分の手で治したい」と思ったことが獣医師を目指す原点です。小学校の卒業文集の「将来の夢」の欄には、すでに「獣医師になりたい」と書いていました。我ながら早いうちに志していたなと思います。

中学生から高校生へと進学しても夢は変わらず、生物部に入部して生き物まみれの毎日を送りながら、獣医学部のある大学を目指して勉強漬け。当時放映されていた『動物のお医者さん』のドラマにも夢中になりました。舞台になった北海道大学に憧れたけれど、当時住んでいた自宅から近い神奈川県にある麻布大学に進学しました。北海道大学は研究や、北海道という土地柄ウシやブタなどの畜産系を得意としているイメージがあったので、子どものころの夢を実現するには小動物医療を重点的に学べる麻布大学でよかったと思います。

質問に答える吉田 佳倫先生

目標にしていた獣医師への道をまっすぐに歩まれていますね。

大学6年生のときに就職活動を兼ねていろいろな一次診療の動物病院を回り、卒業後の勤め先も決まって一安心と思ったら、先輩に「どういう獣医師になりたい?」と聞かれたんです。そのときに浮かんだのが、大学にいた米国獣医専門医の先生方でした。私もいつかアメリカで学びたい気持ちがあると伝えたところ、「大学病院で研鑽を積んだほうがいい」とアドバイスをいただき、「そうか、大学病院で研修医になろう」と決意したのが、6年生の10月ごろのことでした。そこからまだ募集をしている大学病院の面接を受けたりと、進路の方向転換をしました。そんな中、運良く12月に日本獣医生命科学大学付属動物医療センターでの研修医採用が決まり、無事に進路を決めることができました。

大学病院への進路変更が、本来は翌年の2月に行われる獣医師国家試験の勉強をしなければいけない時期だったので、獣医師にはなれたものの、綱渡りのような歩みかもしれませんね(笑)。それに今ではアメリカで学ぶより、日本の獣医療のために自分ができることで貢献していきたいという思いに変わっています。

日本にはない動物の血液バンク。献血ドナープロジェクトが一歩に

質問に答える吉田 佳倫先生

立ち上げから参加された献血ドナープロジェクトについて教えてください。

家庭で飼われている愛犬・愛猫にドナーとして献血してもらい、その血液を保存して手術が必要な犬猫に輸血するプロジェクトです。立ち上げ時はもちろん、今でも様々な先生や動物愛玩看護師のみなさんのお力添えもあり、現在のプログラムを作ることができました。

現在のドナー登録数は犬が50頭、猫が40頭ほど。「将来、うちの子も輸血が必要になるかもしれないから」と感じて、献血に協力してくださる方が多いですね。ドナー登録した愛犬・愛猫には基本的に年2回の献血にご協力いただき、特典として年2回の血液検査、年1回の腹部超音波検査・胸部レントゲン検査、フードのプレゼントなどを無料で実施。ドナー登録を愛犬・愛猫の健康状態の把握にも役立てていただけたらと思っています。

日本赤十字社のような血液を集める機関が動物にはないことが意外でした。

アメリカには動物の血液バンクがあるんですが、日本にはまだありません。当院や個々の動物病院が献血ドナーの登録を行っていますが、全国的に見れば各々で献血用の愛犬・愛猫を飼ったり、手術が必要なときに緊急で呼びかけることが多い動物病院が大半ではないでしょうか。輸血に必要なドナーの頭数を確保するには、来院する患者数が多い中規模以上の動物病院でなければ難しいのが現状です。日本でも血液バンクができるように協力したいと思っています。

血液の病気の治療には、飼い主との信頼関係が重要

質問に答える吉田 佳倫先生

犬猫の血液疾患の治療についてもうかがいたいと思います。

以前から免疫が関連した血液疾患を治療することが多かったので、今後も注力したい分野です。手術で完治する病気ではないため、薬の種類や相性を調整しながら治療を行いますが、完治することが難しい場合もあります。たとえば薬の効果が出にくい子は、どう頑張っても貧血が改善しないことも。難しさにやりがいを感じる反面、やりきれない思いを感じるときもありますね。

最初は総合診療科に所属していたのですが、大学時代に研究していた血液疾患を担当するようになりました。血液の腫瘍であるリンパ腫や肥満細胞腫を診るうちに、腫瘍内科の先生と一緒に治療を進める機会が増えて、総合診療科から腫瘍内科にシフトしたわけです。血液疾患は患者さんを長期にわたって診察するため、飼い主さんとも密接に関わることが多いですね。信頼していただける主治医になれるよう心がけています。

私が獣医師を目指すきっかけになった愛犬のバーニーズ・マウンテン・ドッグは、腫瘍が多い犬種なんです。「病気を自分の手で治したい」という原点を忘れないために、腫瘍を治療するのは自分にとっても大事なことだと感じています。

質問に答える吉田 佳倫先生

もしもの時に備える。愛犬・愛猫の血液型を知ることの重要性

最後に、犬猫の飼い主さんに伝えたいことをうかがえますか?

愛犬・愛猫に輸血が必要になったときに備えて、血液型を把握しておきましょう。健康診断などの際に行う血液検査で追加で調べられることが多いので、主治医に相談してみてください。猫は人間の「ABO式」に似ている「AB式」の血液型で、9割近くがA型、残り1割がB型とAB型です。

一方、犬の血液型は「DEA式」で表され、現在わかっているだけでも13種類。犬の場合、犬種による傾向も知られています。たとえば「DEA1.1プラス」はゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーに多く、「DEA1.1マイナス」はドーベルマンやジャーマン・シェパード・ドッグに多いとされています。ただし、例外もあるため、あくまで参考程度に考えておきましょう。もし「DEA1.1マイナス」の可能性が高い犬種を飼っている場合は、同じ犬種の知り合いを作るなど、いざという時の備えをしておくと安心です。いずれにしても、事前に知っておくだけでも心づもりができるのではないでしょうか。

献血ドナーになるには体重や年齢などの条件がありますが、興味をもってくださった方はぜひお問い合わせください。愛犬・愛猫が当てはまる場合は、協力していただけたらうれしく思います。

※日本獣医生命科学大学付属動物医療センターの献血ドナーについて詳しくこちら
https://www.nvlu.ac.jp/amedical/topics/002.html/

ミライノ動物病院・柴田望美先生のバトンの回答

質問をする柴田先生柴田先生

Q1.学生時代から血液疾患の研究をされていましたが、興味を持ったきっかけを教えてください。

質問に答える吉田 佳倫先生吉田先生

所属していた獣医内科学研究室(当時)の恩師である土屋亮先生が血液疾患を研究されていたからです。血液は全身を巡っているので、検査でいろいろなことがわかります。データ(血液検査の結果)を見ながら身体の状態を考えるのが面白いと感じ、血液疾患にだんだん興味を持ち始めました。

質問をする柴田先生柴田先生

Q2.教育病院(獣医学部の学生を教育する立場)に従事しようと思った経緯を教えてください。

質問に答える吉田 佳倫先生吉田先生

研修医としてがむしゃらに働いて3年間が経ったころに、教育病院の専任獣医師のお誘いをいただいたことがきっかけです。当時はまれな求人だったのですが、正直なところ休みたいと思っていたくらいで断るつもりでした。でも、当時日本獣医生命科学大学で獣医保健看護学科准教授(現在は東京農工大学 獣医臨床腫瘍学研究室 准教授)であった呰上(アザカミ)大吾先生に相談したら「声をかけてもらったのに断るとは何事か」と(笑)。そこで素直にお引き受けすることにしました。

質問をする柴田先生柴田先生

Q3.今後の獣医療において挑戦してみたいことはありますか。

質問に答える吉田 佳倫先生吉田先生

アメリカのような動物の血液バンク(血液供給機関)が、日本にもできるように手助けしたいと考えています。献血だけでなく、輸血を安全に行うためのシステムの確立にも協力することが目標です。

ファミリー動物病院 杉山 大樹先生へのバトン

Q1. 日々の忙しさの中で、自分らしさを取り戻す“リフレッシュ法”があれば教えてください。
Q2. もし獣医師以外の職業に就くとしたら、どんな道を選びたいですか?
Q3. 診療や飼い主さんとの関わりの中で、最も大切にしている“信念”は何ですか?

日本獣医生命科学大学付属動物医療センター

東京都 武蔵野市
吉田 佳倫
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター
0HugQ

日本獣医生命科学大学付属動物医療センター腫瘍内科勤務。麻布大学獣医学部で獣医内科学研究室(当時)に所属し血液疾患を研究。卒業後は同センターの総合診療科を経て、2022年から現在の腫瘍内科へ。骨髄検査や輸血が必要な血液疾患、抗がん剤治療を必要とする腫瘍疾患を担当する。患者である動物および飼い主と信頼関係を築き、長期にわたる治療が必要な血液疾患の闘病を支える。同センターの献血ドナープロジェクトを設立した一員であり、動物の血液バンクや安全な輸血システム確立への貢献を目標とする。

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