アイデックスラボラトリーズの臨床病理医、秋山奈緒先生からバトンをつないでいただいたのは、草加市谷塚上町にある「ミライノ動物病院」の柴田望美先生です。頼れる町の動物病院を目指し、わんちゃん猫ちゃんはもちろん、飼い主さんにも寄り添った診療を行っている柴田先生に、これまでの歩みや大切にされている想い、得意分野である歯のケアについてもお話を伺いました。

柴田 望美先生
目次
二次診療も経験したのは、一次診療を極めたいから
まずは、柴田先生が獣医を目指したきっかけなどを教えていただけますでしょうか?
もともと家族が動物好きで、私が生まれた時にはすでに家族の中にわんちゃんがいたんです。動物がいる身近な環境で育ったので自然と生き物が大好きになって、わんちゃんに限らずハムスターや昆虫もかわいがっていました。ちなみに今は、わんちゃんと猫さんと一緒に暮らしています。
獣医という存在に憧れを持ったのは、小学校に入るか入らないかという年齢だったと思います。当時、一緒に暮らしていたマルチーズが病気になってしまって、母と動物病院へ一緒に行っていた時に、獣医さんが私たち家族のことも気遣って闘病生活のアドバイスをしてくださったり、気持ちにも寄り添ってくださっている姿が、幼い私にとっても印象深かったのだと思います。もちろん、獣医という職への道は簡単ではないとわかっていましたが、目標が明確だったからこそ勉強を頑張ろう! と中学高校とこつこつ頑張ることができました。
「猫さん」という呼び方がいいですね!そして、そんなに幼い頃に獣医になると決めていたというのはすごいですね。その後は、どのような道を歩んでいらしたのでしょうか?
わんちゃんは幼少期から一緒にいた身近な存在なので「わんちゃん」と呼んでいて、猫さんは大人になって飼い始めたので敬意や親しみも込めて「猫さん」と呼んでいます。大学を卒業して最初に勤めたのは、今と同じ一次診療の病院でした。予防診療にも力を入れていましたし、ターミナルケア(終末期医療)まで丁寧に診ていて、院長先生が動物たちにも飼い主さんにも寄り添っていたのでとても勉強になりましたし、そういう姿にとても影響を受けていると思います。また、院長先生が歯科の専門医だったので、ここで歯科の重要性やおもしろさを学ぶことができました。最初で勤めた病院での経験や気づきが、当院で力を入れているデンタルケアにも繋がっています。
東京大学付属動物医療センターにも勤めていらっしゃいますよね。一次診療の病院とはまた少し異なる医療機関だと思うのですが、どのような想いがあったのでしょうか?
一次診療の現場で動物たちと向き合っていると、最新の医療機器がないと治療ができなかったり、高度医療が必要な患者さんに出会います。そういう場合は、大学病院など二次診療の施設への紹介が必要ですが、一次診療として大切なのは患者さんごとに適切な診療科を判断し、適切なタイミングで紹介をする判断力だと思います。その精度をあげるためには、二次診療の現場であらためて勉強する必要があると思ったので、東京大学付属動物医療センターで2年間勤務しました。その間に海外経験もある先生から最新の医療や技術を学ばせていただいたり、一次診療で扱うことができないようなさまざまなケースの高度医療に触れ、症状や経過などをもとに自信を持って適切な判断をすることができるようになりました。
いつでも気軽に来れる、安心できる場でありたい
二次診療を経験して、あらためて一次診療に戻っていらしたんですね?
はい、その後も一次診療の動物病院に勤めていたのですが、そのくらいのタイミングで同じく獣医師をしていたパートナーと結婚をしました。結婚当初はまだ開業はしていなかったのですが、日常的に医師としてあるべき姿や医療に対する考えなどをすり合わせる機会が多かったんです。得意な分野や技術は異なるのですが、地域に寄り添った一次診療医院を作りたいという気持ちは一致していたので次第に開業を考えるようになって、2023年の12月にミライノ動物病院を開院しました。ちなみに、MILAINOというロゴには、Mに猫さん、LAにはわんちゃん、Oには人が隠れているんですよ。
ほんとですね!こちらの医院の特徴のひとつに、キャットフレンドリークリニックのゴールド認証を取得されているというのがありますよね。
はい、キャット・フレンドリー・クリニックとは、猫の飼い主さんが動物病院を選ぶ際の‟道しるべ“となるよう、国際猫医学会「ISFM」によって確立された猫にやさしい病院の国際基準です。ゴールド認証はその中の最高ランク認証で、これを取得するには約100項目にも及ぶ国際基準をクリアしなければなりません。とても大変なことではあるのですが、やるならゴールドを目指したいと思って、この建物の設計段階から組み込んでいきました。わかりやすいところだと、猫さん専用の診療室を用意していて、お部屋のサイズはあえて狭くしていますし、猫さんが落ち着く匂いを漂わせたり、スプレーを用意したりもしています。当院で見ているのは、わんちゃんと猫さんになりますが、全く別の生き物でそれぞれに繊細さがあるので、ストレスを最小限にできるように、飼い主さんも安心して預けられるように空間作りも含めて考えています。
ちなみに、わんちゃんの診療室は、サイズが大きめの子もいるので広めのお部屋を用意しています。わんちゃん、特に子どものパピーさんに対しては、病院に対する苦手意識をなるべく持たないように、ワクチンや爪切りの時におやつをあげながら処置したり、飼い主さんに側にいていただいたり、個々の性格を判断したうえで気を配るようにしています。わんちゃんも猫さんも、なるべく嫌がらずに気軽に来ることができる場所になったらいいなと思っているんです。
年中無休で、夜間診療や救急医療も受け付けていますよね。いつでも診てもらうことができる医院があると知っているだけで、飼い主さんも安心ですね。
病院が休診日を設けることは、決して悪いことではありません。でも、いつも通っている病院がお休みの日や診療時間外に具合が悪くなってしまうケースもありますから、そういう時に開いている病院があるというのは、地域にとって大切なことかなと思っています。夜間診療に関しても、開業前に夫と話し合い、意見が一致していた点でもあります。
私は今も、わんちゃん猫さんの両方と暮らしていますし、子どもの頃から換算すると飼い主歴の方が長いくらい。だから、わんちゃんや猫さんを家族として認識しているみなさんのお気持ちは、きっと理解できていると思います。
柴田先生が動物と暮らしているからこそ、理解できる気持ちがあるのでしょうね。そのほかにも、柴田先生が診療の中で大切にされていることはありますか?
どこかに不調を抱えている状態だけでなく、普段の健康な状態も知っているのが、かかりつけ医だと思っています。当院では定期的な健康診断もお勧めしているのですが、検診できてくださった時は、なにが好きかとかどういう性格なのかとか、その子の生活や飼い主さんとの関係性なども含めて詳しくヒアリングするようにしています。それは、検診の中で病気や経過観察が必要な部分を見つけた時に、お聞きしていた中から原因や対策が見えてくることがあるからです。また、治療が必要になった際には、一方的に方針を押し付けるのではなく、ご家族に相談して、納得するベストな対処を一緒に考えるように心がけています。病気だけでなくその子を見るように、またご家族にも寄り添うように意識しています。
健康寿命を伸ばすために重要な歯のホームケア
先ほども少しお話しに出ていましたが、柴田先生は歯科診療にも力をいれていらっしゃいますよね。普段はどのようなケアやアドバイスをされていらっしゃるのでしょうか?
人と同じように動物にとっても口腔内の環境が大切であることは、昔よりは認知されてきたと思います。しかし、それでも歯磨きをはじめとするホームケアはまだまだ浸透していないというのが現状です。当院では、健康診断を含めて来てくださった患者さんには、みなさんお口の中の診察をしています。そして、現状をお伝えしたり治療の提案や必要な治療を行っていますが、特に歯周病などのお口のトラブルは病院で治療した後もホームケアがとても大切なため、飼い主さんに歯磨きの方法をお教えしたり、その子の状態や性格を診て、個々にホームケアを指導しています。
歯磨きのやり方もそうですが、お口に触られることも苦手という子も多いのではないかと思います。なにかアドバイスはありますか?
はい、お口を触れることが苦手な子も多いですし、とっても難しいですよね。歯磨きはぜひやっていただきたいのですが、飼い主さんとわんちゃん猫さんの関係性を崩さずにできるようになるのが一番。無理矢理ではなく、できることから慣れていただくのがよいので、苦手意識をなくすトレーニングとしてお口をめくったり触ったりすることからはじめてみるとよいですよ、とお伝えしています。もちろん、歯周病などでお口が痛くて歯磨きができない場合もありますので、その場合は無理せず、まずは一度かかりつけ医に相談してみて下さい。
お口のケアはパピーさんの頃からやっていただけるとベストですが、歳を重ねてからでも遅くはありません。多数の歯を抜歯した子でも、飼い主さんが歯磨きを頑張ってくださって、残りの歯をきれいな状態で維持されているケースもあります。また、当院では人の歯医者さんで使っているものと変わらないきちんとした機器を導入して、レントゲンで歯茎に隠れた部分も含めて口腔内を確認し、麻酔をした上でスケーリング(歯石除去)も行なっていきます。ケアをしてあげればお口の中はきれいになりますし、毎日のホームケアをこつこつと続けていけば、健康寿命を伸ばすことにも繋がりますよ。
最後に、ミライノ動物病院の今後の展望や目指す方向性について、具体的なビジョンがあれば教えていただけますか?
一緒に暮らすわんちゃんや猫さんのこととなると、些細なことでも心配になってしまいますよね。我が子同然ですから、そうなるのも無理はありません。私も飼い主としてそういう気持ちは何度となく経験しているので、よくわかります。「こんなことで病院に行ってもいいのかな?」と思うこともあると思いますが、気にせずに頼っていただけたらと思います。症状が軽いうちに気づいてあげることで、早期治療につながるケースも多くあります。今は獣医療も進化して昔に比べたら寿命も伸びていますから、できるだけ元気な状態で1日でも長く一緒にいられるように、ケアやアドバイスをしていけたらいいなと思っています。私はかかりつけ医として気軽に頼ってもらえる存在でありたいですし、ミライノ動物病院が来やすい場所であれたらいいなと思っています。
臨床病理医・秋山奈緒先生のバトンの回答
秋山先生
Q.開業を意識しはじめたのはいつくらいからですか?
柴田先生
開業を本格的に意識したのは、開院の3年前くらいでしょうか。ひとりで開業することは全く考えていなかったのですが、夫とふたりでならいい病院が開業できるような気がして、少しずつ計画を進めていきました。おかげさまで2年目に入り、通ってくださる患者さんもついてくださって、とてもありがたいです。
秋山先生
Q.これから力を入れていきたい分野はありますか?
柴田先生
やってみたいと思っているのは、歯磨き教室です。当院にはわんちゃん猫さんの歯磨きケアができる動物看護師が何人もいますので、彼女たちに指導をお願いするのもいいなと思っています。歯磨きに苦戦している飼い主さんも多くいらっしゃいますので、ここで一緒に練習しながら習慣にしていただけたらいいですね。
日本獣医生命科学大学・吉田先生へのバトン
Q1.学生時代から血液疾患の研究をされていましたが、興味を持ったきっかけを教えてください。
Q2.教育機関に従事しようと思った経緯を教えてください。
Q3.今後の獣医療において挑戦してみたいことはありますか。
ミライノ動物病院(埼玉県草加市)副院長。麻布大学卒業後、一次診療に特化した動物病院で臨床経験を積み、歯科診療やターミナルケアをはじめとする幅広い分野に従事。さらに、東京大学附属動物医療センターにて二次診療の現場を経験し、症例に応じた適切な診療判断力を磨く。2023年12月にミライノ動物病院を開院し、犬猫に優しい設計と診療を実現するため、キャットフレンドリークリニックのゴールド認証を取得。口腔ケアにも力を入れており、ホームケア指導や高度な歯科機器を導入し、健康寿命を支える診療に注力している。常に飼い主と動物に寄り添うことを信条に、地域に根ざしたかかりつけ医を目指している。