知りたい、伝えたい、麻酔の本当のところ「麻酔を正しく怖がるために」①

知りたい、伝えたい、麻酔の本当のところ「麻酔を正しく怖がるために」①

小田 彩子
さいとう動物病院 富岡総合医療センター
734HugQ
      

犬や猫などのペットを飼うオーナーにとって、避妊・去勢の手術や治療などで、麻酔にお世話になる機会は珍しくありません。しかし、麻酔への漠然とした不安をもっている方が多いことも事実です。そこで、今回は「麻酔を正しく怖がる」ために、フリーランスの獣医麻酔科専門医として活躍する小田彩子先生と、下は1歳から上は19歳まで、幅広い年齢の犬・猫と暮らすオーナーにお集まりいただき、座談会を企画。麻酔に対しての不安や心配、質問などを先生を交えてお聞きしました。

プロフィール

小田 彩子 先生

高校から渡米し、2014年にノースカロライナ州立大学獣医学部を卒業。テネシー大学で小動物臨床インターンを経てノースカロライナ州立大学に戻り、獣医麻酔科でレジデントトレーニングを受ける。2018年に「米国獣医麻酔疼痛管理専門医」の資格を取得。2019年に日本獣医師国家試験に合格し、国内でフリーランスの獣医麻酔科専門医として活動をスタート。「Veterinary Anesthesiology Consultant」(個人事業)代表。※Vet’s BATONより プロフィールを詳しく見る→
続きを見る
参加オーナー
  • 犬オーナー (アメリカン・コッカー・スパニエル) 笠井さん
  • 犬オーナー (トイプードル) 高山さん
  • 猫オーナー (ミックス) 八重樫さん
  • 猫オーナー (アビシニアン) 宮後さん

目次

麻酔とは、いつ出会う? 麻酔の種類や方法、難易度の差とは?

日本ではまだ認知度の低い動物医療の麻酔に関して、本日は麻酔科専門医の小田彩子先生にお話をお伺います。ペットのオーナーの多くは、避妊・去勢の外科手術が麻酔との最初の出会いになると思いますが、その他に麻酔を行う場合はどのようなケースがあるでしょうか。

小田先生

麻酔を施すタイミングは、大きくわけて4つあります。あげていただいた避妊・去勢のような「外科手術」、そして「痛みを伴う治療」、「検査」、「じっとしていてほしい場合」です。最後の、「じっとしていてほしい場合」は、軽度の治療から、たとえば、人工呼吸器を使うような動かないことが前提とされるものも含みます。

そうなると、麻酔を使うタイミングは意外と多いという印象です。では、麻酔のバリエーションはどうでしょうか。

小田先生

基本的には麻酔といえば全身麻酔になります。それに加えて、局所麻酔といって、痛みが発生する箇所に集中して痛み止めをうつこともありますが、全身麻酔をかけて初めてそういう処置ができます。ちなみに、麻酔をかける順番は、鎮静をかけて、麻酔を導入する導入薬をあげて、手術中には維持薬を吸入させて、維持薬をストップすると覚醒する、という流れです。導入はスムーズに行いたいので、注射薬に頼りますが、手術中の麻酔の維持は吸入がメインになります。維持を切ると、薬剤を吐き出して覚醒します。

笠井さん

麻酔には注射だけを使うのかと思っていました。

小田先生

手術にもよりますが、注射だけだと体の反応を抑制しきれず、動きが出てしまうことがあるんです。それに、覚醒が遅くなるんですね。吸入の方が、薬剤を吐き出すことで、5分から15分くらいで覚醒できます。人間も吸入に頼ることが多いですよ。

みなさんの中にも、ペットの避妊や去勢以外で麻酔を使った方もいますよね。

宮後さん

うちの猫は極度の怖がりで暴れてしまうので、病院ではちょっとした診察でも、獣医師さんには頑丈なグローブをつけて処置してもらいます。ですから、他の子では大丈夫な簡単な治療のときにも麻酔を使ったことはあります。

もともと怖がりの猫に限らず、病院で性格が変わる猫もいますから、その子の性格などで、麻酔のプランを変える、ということはあるんですか?

小田先生

薬の選び方を変えることはあります。つい最近、かわいい顔をしたコーギーに施術しましたが、歯を見せて威嚇してくる子だったので、普通の鎮静よりちょっと強い薬を使用しました。アドレナリンが放出されていると、薬の効き目も悪くなったりするんです。ですから、麻酔そのものというよりは、鎮静の方で調整をかけることが多いですね。注射薬を入れる前に、きちんと鎮静をかけることがスムーズな麻酔の導入のためにも大事になります。

高山さん

友人の飼っていた犬が、首のリンパ腫の検査で全身麻酔をしたと聞きました。検査でも全身麻酔が必要な場合があるんですね。

小田先生

検体をとるときは、痛みを伴うので麻酔を使いますね。検査で全身麻酔をするのはよくあるパターンです。たとえ痛みを伴わなくても、動いてほしくないときに、麻酔をかけることはあります。たとえば、MRIを使う場合です。MRIは稼働中、音がかなりうるさいんです。見ているこちらも耳栓をするくらいなので、それを動物に耐えて動かずにいてというのは無理ですからね。

宮後さん

友人のチワワのオーナーが、てんかんの重篤な発作のときに麻酔をしたそうです。脳神経がダメージを受けないようにとのことだったのですが、そういう場合でも麻酔を使うんですね。

小田先生

てんかんは、脳が炎症を起こしている状態なので、放置すると脳にダメージが出るんです。抗てんかん薬が効かずに、発作が続く場合には、麻酔薬は脳の機能を抑制させますから、働きを抑えるという意味で麻酔を使いますね。

(左)笠井さん家の笠井文太朗くん(アメリカン・コッカー・スパニエル、1歳・オス)。人も犬も好きな、のんびりした子。
(右)高山さん家のジゼルちゃん(トイプードル、7歳・メス)。シニアにさしかかっても、甘えん坊の寂しがり屋さん

麻酔をかけるにあたって、難易度に差はありますか。

小田先生

年齢による難しさはありますね。シニアになってくると、他に持病があったりするので、そういう場合には気を付けることはあります。

笠井さん

体の大きさによって、対応に違いはあるでしょうか。

小田先生

体の大きさによらず、馬でも大型犬でも、たとえ小型犬でも猫でも、急激な体位変換には注意が必要です。麻酔が効いている最中に、急激な体位変換をすると、体の血の巡りが変わることに体がついていけない場合があるので、ゆっくりと行う必要があります。

宮後さん

鼻が低い子、いわゆる鼻ぺちゃと呼ばれるような犬はどうですか?何か気を使いますか。

小田先生

鼻が低い犬は息がしにくいので、普段以上に時間をかけて麻酔をかけていきます。鼻の穴が小さいと、その中の組織も短いように思いますが、実際には押し込められているだけなんです。そのせいもあって、もともと息がしにくいんですね。普段は慣れているので息はできますが、特に麻酔から覚めるときは、通常どおりに頭が働いていないので、ちゃんと息ができているかを確認するようにしています。

宮後さん

鼻が低い猫も、同じリスクがあると考えるべきでしょうか?

小田先生

同じですね。鼻ぺちゃの子のオーナーは、麻酔は気を付けなくちゃいけないということを知っている方が多く、麻酔をかけたがらない傾向があります。あまりにも鼻の穴が狭い場合は、鼻の穴を広げたり、余分な組織を切るという手術があるんですが、当然ながら麻酔は必要になるので、手術を避けてしまうんですね。その結果、慢性的な問題になることがあります。鼻ぺちゃの子たちは麻酔に関しては他の子よりもリスクが高めになるので、必要であれば若いうちに手術をしてください、というのがこちらの思いではあります。

全身麻酔に、局所麻酔。 具体的に、麻酔にはどんなリスクがある?

麻酔は、なるべくならかけたくないと思うオーナーがいる一方で、かけないと治療できないし、適切な使用だったら問題ないと考えるオーナーもいます。とはいえ、全身麻酔と聞くと不安になったりするでしょうか。

高山さん

病気を治す、痛みを和らげるためには必要なものだと思っているので、麻酔に悪い印象はありません。もし、うちの子が手術をするとなっても、麻酔を断ることはないと思います。

八重樫さん

先生が麻酔を使うと判断したのなら、それが適切なのだろうと思います。これまで麻酔をかける際に、怖いと思ったことはありませんし。

笠井さん

実は、うちの子の歯石をとるかどうかを迷ったときに、獣医師から「全身麻酔になるから、まだこの状態だったら、やらなくてもいいんじゃないか」と言われてやめたことがありました。麻酔で何かあったら怖いなと思った覚えがあります。きれいにしてあげたかったのですが。

小田先生

それがジレンマなんですよ。高齢で歯がぼろぼろになっていて、他の疾患もあるという子を診たことがありました。もっと早いうちからきれいにしてあげたらよかったのにと思う反面、オーナーとしては、麻酔のリスクを考えると迷いますよね。歯でいうと、特に小型犬は汚れやすいので、定期的にきれいにしておいた方がいいですよ。一度の麻酔時間も短く済むし、処置の難しさも違ってきますから。

笠井さん

歯の問題は難しいですね。小型犬でも、何回も麻酔をかけても大丈夫なのでしょうか?

小田先生

短い間でたくさん麻酔をかけるのではなく、何年間に1回くらいでしたら、特に大きな問題にはなりません。それよりも、年をとって疾患が出てきたときの方が気を付けることが多くなってしまいます。ちなみに、猫も歯石はできますが、歯茎の問題の方が多いですね。実は、うちの猫には、私が麻酔をかけて処置します。猫も、1回もやらないというよりは、歯のケアはやった方がいいですね。でも、犬の方が、歯のケアはやらなくてはいけないことです。

全身麻酔だからリスクが高い、局所麻酔はリスクが低い、というようなリスクの差はありますか。

小田先生

全身麻酔は意識をなくすことになりますから、リスクを伴います。局所麻酔は神経を麻痺させるので、意識をなくさないという意味では、局所麻酔の方が安全ではあります。でも、全身麻酔をして、局所麻酔もする、ということが動物では圧倒的に多いのです。つまり、局所麻酔は疼痛の管理をするもので、全身麻酔とセットだと考えた方がいいでしょう。たとえば、犬の場合、皮膚に脂肪の塊ができることがあります。それを切除するとなると、局所麻酔だけでやろうと思えばできますが、犬本人にはわかってもらえないので全身麻酔をかけます。そうした実情は、オーナーに理解してもらうのが難しいですね。

宮後さん

全身麻酔が危険というのは、漠然とはイメージはできますが、具体的に、どういう状態になることが危険なのでしょうか。

小田先生

端的に言うと、麻酔が深くなり過ぎれば呼吸が止まって心臓が止まります。つまり、深くかけ過ぎると死に至る可能性があるということです。麻酔は、脳だけではなくて体全体の機能を抑制するので、呼吸をしていても十分でなかったり、心臓が動いていても血圧がすごく低くなったりする場合があります。そこをサポートしないといけないんですね。例えば、心臓が悪い子は、どんな薬をあげても、なかなか血圧が安定してくれなかったりするので、いろいろなリスクを伴うものです。

宮後さん

心臓が止まるということは、麻酔で眠ったようになって、そのまま目が覚めないということですよね。

小田先生

最悪の場合はそうです。私が担当した中でも、疾患がまったくなく、予想もしなかった子が亡くなったこともあります。亡くなった原因がわからないのが麻酔の怖いところです。 私は職業柄、麻酔に問題があったと聞くと、何を見ていなかったのかなと思うんです。たとえば、麻酔の過程で何かをし忘れたとか、開いているはずの麻酔器の弁が閉まってしまっていたとか、どこに「穴」があったのかなと。人為的なミスも含めて、リスクを背負っているのが麻酔です。

笠井さん

小型犬で、麻酔をかけたら戻ってこなかったという話も聞きました。麻酔の深度の問題だったのかもしれませんね。

小田先生

そうかもしれません。もともとの状態が安定していない子は、麻酔に耐えにくい状態なので、残念な結果になることもありますが、健康で、獣医師がきちんと見ていれば、問題は起こりにくいですよ。

(左)宮後さん家のジミィ・ボーイくん(アビシニアン、19歳・オス)。怖がりのご長寿猫。健康状態はいたって良好。
(右)八重樫さん家のHALくん(ミックス、1歳・オス)。保護猫でまだ人馴れしていないのに、頭を撫でられるのは大好き。

 
  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

記事制作にご協力頂いた方

「いいね♡」を押すとブログを書いた動物病院にHugQポイントが贈られます。
会員登録をしてあなたの「いいね♡」を動物病院に届けてください!

「ブックマーク」機能の利用には会員登録が必要です。