知りたい、伝えたい、麻酔の本当のところ「麻酔を正しく怖がるために」②

知りたい、伝えたい、麻酔の本当のところ「麻酔を正しく怖がるために」②

小田 彩子
さいとう動物病院 富岡総合医療センター
734HugQ
      

目次

大切なことは、獣医師の指示に従うこと、自己判断はしてほしくない

「全身麻酔は怖いから、局所麻酔でお願いします」と言われて、麻酔のプランを変えたことはこれまであるのでしょうか。

小田先生

それはありません。もし麻酔のプランを変更するとなると、そもそも、その処置をやるかやらないか、という選択になってしまいます。麻酔をかけずに深い鎮静をかけることで、局所麻酔でもできなくはないのですが、処置ができるほど深く鎮静をかけることは、それはそれでリスクを伴うこともあります。また、心理的に、全身麻酔じゃないから安全だと思ってしまうのも間違いです。しかし、そういうオーナーの心理面もケアをしていかないといけないでしょうね。もちろん、麻酔をかけなくていいならかけない方がいいのですが、処置が必要であれば、麻酔をかける方が安全なこともあると、理解してもらいたいです。

笠井さん

麻酔に関して、オーナーが気を付けること、やれることはもしかして少ないですか?

小田先生

オーナーができることとしては、獣医師の指示に従うことです。たとえば、「この薬をあげておいてね」と言われたら、忘れずにあげるなどですね。たまに、「容体がよくなったから薬をあげなくなった」というオーナーがいるので、自己判断はしてほしくないです。
それと、麻酔をかける前段階として、そもそも病院に来たがらない犬や猫への対応も考えたいところです。日本ではあまり知られていないのですが、事前に不安を和らげる薬をあげて連れてくる、という手段をとられることがアメリカではあります。
犬や猫にとっても、ストレスが出にくいし、オーナーもいろいろな気遣いが不要になりますから、全員にとってハッピーなんです。私もうちの猫を病院へ連れて行くときは使っています。薬をあげるのはかわいそうという気持ちもわかりますが、動物たちは、病院へ行くことも、麻酔をかけて処置することも、人間が善意でやっているとはわかってくれません。ですから、不安を和らげる薬で、本人が何も知らない間に、すべて終わっているということは、誰にとってもハッピーかもしれないなと思います。

事前にやれることとして、お薬をあげて不安を和らげる、というのはひとつの選択肢かもしれませんね。では、麻酔から覚めた後はいかがでしょうか。何かできることはありますか。

高山さん

うちの犬は、歯周病の治療で、抜歯の手術のときに全身麻酔を経験しました。「シニアだから、麻酔後の様子を見るために1日入院させた方がいい」と言われて、お預けしたことがあります。そのときに、麻酔はリスクがあるんだと感じて、少し不安になりました。すぐ帰れるかどうかの判断は、その子の様子次第なのでしょうか。

小田先生

処置内容にもよりますね。それから、手術が終わる時間も関係してきます。夕方の16時頃でもまだ麻酔から覚め切っていない状態で自宅に帰しては、夜間に何かあったらどうしようとオーナーが不安になるんじゃないかと入院を選んだり、自分の目で見ておきたいというこだわりがある獣医師も入院を選ぶ場合があります。他にも、高齢の場合は、麻酔からの覚め方もゆっくりになって、動きがいつもより鈍いとか、食べる元気もあまりないとなると、オーナーが心配しますから入院を選んだりしますね。いずれにせよ、オーナーが不安になってほしくないので、私も入院を薦めたいです。でも、病院で見ておいてもらうのは悪い選択肢ではありません。なによりオーナーが安心できますから。

笠井さん

家に帰ってくると、それだけでテンションがあがって無理に動いたりすることもありますよね。

小田先生

そういう子もいるんですよ。手術をすることで、もともとあった痛みがなくなって動きたがる子もいるし、病院から解放されて動きたがる子もいます。オーナーが連れて帰って、私たちが求める安静という状態にしておいてくれるかはわからないので、入院していってほしいですね。とにかく、麻酔後は安静にして、処方された薬をあげておけば、それ以上に手厚くする必要はありません。

麻酔は、どう怖がるのが正解? 正しい怖がり方を教えてほしい

笠井さん

麻酔はどうしても怖いイメージがあるので、オーナーとしての正しい怖がり方を教わりたいです。

小田先生

麻酔科医が見ていても、残念ながらリスクはゼロにはなりませんから、怖がることはいいんです。わからないことは獣医師に質問してもらって、少しでも不安の解消につながるようなコミュニケーションを重ねてほしいです。
ただし、怖がり過ぎるのは、麻酔科医として困ることがあります。麻酔をするときに、アレルギーのような反応が出る可能性もあるので、こういう薬はあげないでほしいといった情報は必要なのですが、開腹するときなどの大変な手術のときに、怖いがゆえに「強い鎮痛薬をあげないでください」と言われたりします。それは手術をする以上はできないことです。それと「私の子に何かあったら訴えるわよ」などという言葉を、怖さから口にしてしまうケースです。獣医師に余計なストレスが増えるだけで逆効果になってしまいます。不安がっていただいてかまいませんが、信用してほしいんです。信用できないのであれば、セカンドオピニオンも視野に入れていいと個人的には思います。

宮後さん

うちの猫は19歳と高齢ですが、病院にはあまり行っていないんです。次に体調を崩して病院へ連れて行くときは、病気が治ることと、麻酔をかける危険度を比較して悩むと思うんです。そういうときの考え方の指針があれば教えてください。

小田先生

第一に考えてあげたいのは、猫のQOL(Quality of life)です。つまり、猫はどうすることが幸せなのか、何がその子にとって一番幸せかが大事になるでしょうね。あとは、処置をしたときにどのくらい良くなるかを現状と比べて、良くなるのであれば手術を選択するのもオーナーとしてはひとつの考え方です。逆に、知らない人に囲まれる病院よりも家で過ごす時間を長くしてあげたいというのも、たとえそれがその子にとって苦しい選択であっても、ひとつの考え方です。人間はなぜ病院にいるかはわかりますが、動物はなぜ病院にいるのかわかりませんから。もし、病院に行くこと自体がストレスならば、往診というオプションも増えているので、考えてもいいかもしれません。

麻酔が必要な場合は、避妊や去勢の手術を除くと、重篤な状況が多いので、オーナーも精神的に参っていることが多いと思います。そういうときに、麻酔科医の先生に説明を受けたいでしょうか。冷静に話を聞ける状態でなくても、みなさんは説明を聞きたいですか。

小田先生

私からも、それに関して質問したいのですが、麻酔の際に、獣医師からどんな説明をされたでしょうか。あまり説明もなく、「麻酔をしますよ、手術をしますよ、だからここにサインしてください」という感じでしたか。

八重樫さん

前の子のときは、いざ手術となると、頭が真っ白になってしまいました。契約書にサインはしましたが、麻酔についての説明はほとんど覚えていません。でも、どういう状況下でも、リスクがあるならば、説明は聞きたいですね。

笠井さん

私も、お話を聞かせてもらえると安心します。避妊・去勢で一度は病院にお世話になるので、そのときに、麻酔のこと、そのリスクなどの話を聞いておくと、いざ重篤な場面でも慌てないかもしれません。

小田先生

確かにそのタイミングでお話しするのはいいかもしれないですね。

笠井さん

それに、麻酔についてのパンフレットをもらったことがありません。もしあれば、病院の待ち時間は長いこともあるので、その間に目を通すことができます。オーナーとしては、簡単な処置だったら目の前で見たいと思うくらいなので、麻酔についてもできるだけ何が行われているかの詳細を知りたいです。

小田先生

今回、座談会でみなさんとお話ししたいと思ったのも、あるときガラス張りの歯科処置室をオーナーがずっと見ていて、この方は今何が起こっているかわかっていないんだろうなと感じたことがきっかけなんです。そういう場面に遭遇すると、麻酔科医としては、オープンでクリアな説明をしていない部分があるんじゃないかと思わされます。麻酔をかけたときに、どういう段階で何が起こるのかを把握していないオーナーは多いので、今後は積極的に情報を提供していきたいです。何が起こるかわかれば、多少は不安も緩和されますよね。それに、もっと情報を開示して、オーナーが知識を増やせば、獣医師も、もっと勉強しなくちゃ!と奮起しますから、お互いにとってメリットがありますよね。
最後に、私からもお聞きしたいのが、手術後、何日くらい経って元気になったと思われましたか。麻酔をかけた後は普段と違うと思うので、普通の生活に戻るのに何日くらいかかったでしょうか。

高山さん

退院して戻ってくると、普通に食事してくれて、ジャンプしていたくらいなので、すぐに元気になりました。

笠井さん

去勢の際には、手術の翌日までは痛そうにしていました。でも、麻酔ではなくて、施術が痛かったのかなという印象です。麻酔は、歩いてご飯を食べた時点で大丈夫そうだなと思えました。

宮後さん

尿路結石でカテーテルの手術を受けたときには、翌日はふらふらとして帰ってきました。シニアで、普段からふらついているので、麻酔のせいなのかどうかは定かではありませんでしたが、すぐに普通に戻りました。

八重樫さん

前の子は避妊の際に、当日に帰ってきましたが、ふらふらしていて、そのまま寝落ちしたりもしていました。翌日には足どりも普通に戻って、もう大丈夫だなと思いました。

小田先生

そうであればよかったです。すぐに回復できたかどうか、予後を見ることがあまりなかったので、ちょっと心配だったものですから。でも、麻酔の何が不安なのかを聞きたかったので、今日の座談会は本当にためになりました。みなさんのお話を参考にして、麻酔に対する不安払しょくのために、できるところから取り組んでいきたいですね。

参加してくださったみなさんも、この座談会で、これまで知らなかった麻酔の知識が増えたのではないかと思います。これからも、麻酔と出会う場面はあるかと思いますが、獣医師とも話し合いながら、ペットの幸福を第一に考えていきましょう。本日は長い時間、本当にありがとうございました。

 
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