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犬の食物アレルギーとは?原因や症状に加えて具体的な治療法や対策も解説【獣医師監修】

犬の食物アレルギーとは?原因や症状に加えて具体的な治療法や対策も解説【獣医師監修】

 
伊佐 桃子
ひだまり動物病院
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愛犬がかゆがっている、うんちがやわらかい、皮膚の病気が治らない……。そんなつらそうな症状が続く場合、「食物アレルギー」が潜んでいる可能性があります。「ひだまり動物病院」で皮膚科担当医を務める伊佐桃子先生に、犬の食物アレルギーの原因や治療法、飼い主さんができる対策をうかがいました。

プロフィール
獣医師 伊佐 桃子 先生

伊佐 桃子 先生

大阪府立大学獣医学科卒業後、大阪府高石市で全科を診る獣医師として勤務し、現在はひだまり動物病院で犬猫の皮膚科担当医として勤務。福井県の動物病院でも月に一度皮膚科診療を行っている(※)。皮膚科は犬猫の日常生活を把握するための飼い主への問診が重要であることから「話す科」ともいわれているため、治療を成功へ導くためのコミュニケーションにも注力している。皮膚疾患は長期間治療を行っていくことも多いため、薬をなるべく使わない治療法(減感作療法や食事療法)や、飼い主と犬猫の生活スタイルに合うオーダーメイドの治療を提案している。
※伊佐先生は2024年11月末から産休に入られています。
ひだまり動物病院

目次

犬の食物アレルギーはどんな病気?
しくみから原因を学ぶ

犬の食物アレルギーは
どのようなしくみで起きるのでしょうか。

獣医師 伊佐 桃子先生

体にはもともと免疫という、ウイルスや細菌などの異物を攻撃する働きがあります。その免疫が本来、異物として攻撃しなくても良いはずの食べ物に対して働いてしまうのが食物アレルギーです。食物アレルギーでは今までに食べたことのあるものに対してアレルギーを獲得しますが、その食べ物を口から食べた経験がなくても、空気中に舞う食べ物の粉や成分に対してもアレルギーを獲得する可能性があるともいわれています。

食物アレルギーの原因になる食べ物の種類は?

インタビューに答える伊佐先生

獣医師 伊佐 桃子先生

おもにタンパク質に反応するといわれています。タンパク質というと、鶏肉や豚肉、牛肉などをイメージされるかと思いますが、大豆やトウモロコシ、米などの穀類や野菜、果物などにも含まれているので、口に入るすべての食べ物が食物アレルギーの原因になりうると考えてもいいでしょう。日本以外の国も含むデータとはなりますが、犬では牛肉、乳製品、鶏、小麦、ラム肉が食物アレルギーの原因となることが多いという報告があります。

また、アレルギーには「交差反応」があり、例えば牛肉とラム肉は、タンパク質の構造が似ているので、牛肉アレルギーであればラム肉を与えた際にも同じように症状が出ることがあります。

犬の食物アレルギーは皮膚症状だけでなく、
消化器症状も現れる

犬の食物アレルギーの症状について詳しく教えてください。

獣医師 伊佐 桃子先生

私は皮膚科担当ということもあり、皮膚症状で来院されることが多いですが、食物アレルギーでは皮膚症状と消化器症状が出やすいです。皮膚症状だと軽度であれば外耳炎のみ起こしている、足先だけ舐めるということもあります。重度になると、食物アレルギーが引き起こすかゆみはかゆい皮膚病のベスト3に入るほどで、寝られないくらいのかゆみや、動物病院の待合室でもかゆがっていることもあります。

消化器症状では下痢がすごく多く、皮膚症状が出ている場合は70~88%が下痢、5~21%が嘔吐を併発するという報告があります。消化器症状の中でも軽度なものは飼い主さんが認識できていないこともあります。うんちを取った時に下につくくらい柔らかかったり、おならが多いという症状も消化器症状として考え、食物アレルギーを疑います。おならがくさい子で、食事を適切なものにするとくさくなくなったということもあります。

Checklist皮膚症状のチェックポイント

舐めたり引っかいたり体をこすりつけたり噛んだりするのはかゆみのサイン。よく動くところに左右対称に症状が出ることが多い。

  • □ 耳
  • □ 顔(特に目の周り、口の周り)
  • □ 足の先
  • □ 脇の下
  • □ おなか
  • □ 足の付け根
  • □ しっぽの付け根

Checklist消化器症状のチェックポイント

毎日のように見ていると「うちの犬はこれが普通」と思いがちだが、じつは不調の現れかも。

  • □ おならがくさい、回数が多い
  • □ しぶり(うんちを出そうとするが出ない、少量しか出ない)
  • □ 軟便(うんちを取った時に下につく程度でも注意が必要なことも)
  • □ 下痢(水のようなうんち)
  • □ 嘔吐

食物アレルギーを発症しやすい犬を
知っておきたいと思います。

獣医師 伊佐 桃子先生

食物アレルギーを発症しやすい犬種というのはわかっていないのですが、犬アトピー性皮膚炎(※)の犬は食物アレルギーを併発しやすいと言われており、2~3頭に1頭が食物アレルギーを併発するという報告もあるので、犬アトピー性皮膚炎の子たちは要注意ですね。

年齢でいうと、犬だと1歳未満、もしくは7歳以上で発症した(症状が初めて出た)場合は食物アレルギーを疑います。犬アトピー性皮膚炎も若いころから症状が出ますが、3歳未満で発症することが多いです。食物アレルギーでは、1歳未満で症状が出る子が4割くらいいるので、1歳未満でかゆい、さらに消化器症状も出ているという場合は、食物アレルギーを強く疑います。また、今までにずっと食べていたごはんが合わなくなってしまう子もいます。その症状が出るのがだいたい7歳くらいのことが多いので、7歳以上で急にかゆみが出た場合には、食物アレルギーや、高齢になってから発症することが多い腫瘍などを疑っていきます。

※本記事では、犬アトピー性皮膚炎はダニ、花粉、カビなどの環境アレルゲンに対するアレルギー、食物アレルギーは食べ物に対するアレルギーとしています。

犬の食物アレルギーは「除去食試験」と
「負荷試験」で診断して治療へ

犬の食物アレルギーにはどのような検査方法があるのでしょうか。

獣医師 伊佐 桃子先生

食物アレルギーを診断するには、除去食試験と負荷試験を行う必要があります。除去食試験以外の血液検査や毛髪・唾液などの検査では、食物アレルギーを「診断」することはできません。食物アレルギーを診断することはできませんが、除去食試験に使う食事を選ぶ際に、パッチテストが有用であると言われています。しかしパッチテストは犬での実施が難しく、実際に行っている動物病院は少ないと思います。

また、除去食試験に使う食事を選ぶ際に、血液検査を補助的に使用することはあります。血液検査を行って、陰性の食材から食事を選んでいくというやり方です。血液検査で陽性が出た食材でも実際に食べると問題がなかったということもあるので、血液検査結果に振り回されないようにしてほしいですね。

では、食物アレルギーの診断から治療の流れを教えてください。

インタビューに答える伊佐先生

獣医師 伊佐 桃子先生

かゆみや皮膚の異常がある場合、まずは食物アレルギーと症状が似ている病気を除外していきます。それから食物アレルギーの原因となっている食べ物を「除去食試験」と「負荷試験」のセットで特定します。

(1)食物アレルギーと似ている病気を除外する

皮膚疾患に関する図表

(2)除去食試験と負荷試験で原因を特定し、その後食べられるものを探していく

まずは除去食試験を行います。今のかゆみが食物アレルギーによって起こっているのであれば、少なくとも今食べている物の中に原因があるはずなので、それを除いた食事を食べてもらいます。除去食試験で症状が良くなった後に、以前与えていた食事や元の食事に含まれる原材料を食べて、症状が出るかどうか確認することを負荷試験といいますが、負荷試験で同じ症状が出た場合、食物アレルギーですねと診断することができます。

犬では除去食試験の期間は8週間が一般的です。基本的には除去食試験には総合栄養食のドッグフードを使用します。手作り食は栄養バランスと調理の手間を考えると、実際に行うことは少ないですね。動物病院で処方する療法食をどうしても食べてくれないグルメな子では、市販の食事で除去食試験を行うこともあります。

食物アレルギーの症状が出ない食事を見つけたあとも、負荷試験の継続をおすすめしています。いろいろな物を食べられたほうが食事の幅が広がって楽しいですよね。負荷試験は2週間行うので、2週間おきに1つの食材を試して症状の有無をチェックし、症状が出なければその食材は大丈夫と判断します。

除去食に使う食事選びのポイントは?

獣医師 伊佐 桃子先生

除去食試験では今までにその子が食べたことのないタンパク質でできた食事を使用したいので、問診票を使って今まで食べたことのある食事だけでなく、おやつや予防薬、歯磨きガム、おもちゃなどについても聞き取り、ここから新奇タンパク(今までに口にしたことのないタンパク)の食事を選んでいきます。

薬やサプリメントにも、風味をつけたり美味しくするために牛肉や大豆などが使われていることもあるので注意する必要があります。加水分解された原材料もありますが、例えば鶏の加水分解物であればそれは鶏のタンパクと考えて、除去食試験には新奇タンパクを優先することが多いです。

病院で使っている問診票

ダウンロード用QRコード

問診票についてはこちら

【株式会社EDUWARD Press制作 雑誌「as ※現、動物看護」付録】

除去食試験期間中の注意点はありますか?

獣医師 伊佐 桃子先生

除去食試験中は決められた食事とお水以外は与えないことですね。前述したように、歯磨きガムや予防薬、薬やサプリメント、野菜や果物、おもちゃなどでも症状が出る可能性があるので注意してください。ただ、除去食試験に使用している食事に使われている原材料であれば、トッピングとして使用できるので、それは獣医師に相談してください。もし除去食試験期間中にうっかり別のものをあげてしまったときは、食べてしまったものと、その後の皮膚やうんちの状態を記録しておき、再診の時に獣医師に伝えてください。

食物アレルギーを薬で治療する方法はありますか?

獣医師 伊佐 桃子先生

その子の症状が食物アレルギーだけで起こっているのであれば、原因となる食材を除いた食事に変えれば症状がおさまるので、除去食試験と負荷試験で食べられるものを見つけて増やしていくのが治療になります。ただし、食物アレルギーの犬では犬アトピー性皮膚炎も併発していることも多いので、その場合には飲み薬や注射、外用薬などを使います。その場合は症状、犬の性格、飼い主さんの生活スタイルによってオーダーメイドの治療を行います。

インタビューに答える伊佐先生

犬の食物アレルギーに対して
飼い主が愛犬のためにできることをアドバイス

飼い主さんが自宅でチェックするポイントを教えてください。

獣医師 伊佐 桃子先生

新しい食材を与えた際には、症状の再発の有無を確認する

新しい食材を与える際には、以前症状が出たところに同じ症状が出ないかどうか定期的に確認してください。症状が出た時のことを考えて、症状をおさえる薬が手元にある状態で、午前中に与えてみる方が安心ですね。また、市販されているものは記載されている原材料以外の成分も混入している可能性があるので、与える際は注意してください。

アレルギーを起こすとわかっていても、
愛犬が大好きな食材があります。与えても良いですか?

獣医師 伊佐 桃子先生

食物アレルギーとわかっていても記念日くらいは……という気持ちはわかります。私からお勧めするわけではありませんが、その食材を与えた時に出る症状が軽度なのであれば、症状をおさえる薬が手元にあるのを確認した上で、ほんの少しなら良いですよ、ということも正直あります。


犬の食物アレルギーについて
伊佐先生からのメッセージ

飼い主の希望に応じた治療を提案できる皮膚科に相談しよう

私が皮膚科で師事している先生の言葉なのですが、「皮膚病の治療に正解はない」という言葉をいつも心がけています。その犬の皮膚病の治療としてはベストなものだったとしても、費用や考え方、犬の性格などによって、それがご家族にフィットしないこともあるので、その子その子に合わせたオーダーメイドの治療ができるよう心がけています。もし今動物病院に通院されていて、「治療がうまくいかない」「薬を減らしたい」「費用を抑えたい」「犬が投薬を嫌がる」と思われた時は、皮膚科が得意な獣医師に頼ってみるというのも選択肢に入れてくださいね。

食物アレルギーはごはんさえコントロールできればQOL(生活の質)が上がるので、ご家族が愛犬のために頑張れる病気です。今回の記事が悩んでいる飼い主さんのお役に立てば嬉しいなと思います。

獣医師 伊佐 桃子先生

取材にご協力いただいた病院

大阪府 高槻市
伊佐 桃子
ひだまり動物病院
0HugQ

大阪府立大学獣医学科卒業後、大阪府高石市で全科を診る獣医師として勤務し、現在はひだまり動物病院で犬猫の皮膚科担当医として勤務。福井県の動物病院でも月に一度皮膚科診療を行っている(※)。皮膚科は犬猫の日常生活を把握するための飼い主への問診が重要であることから「話す科」ともいわれているため、治療を成功へ導くためのコミュニケーションにも注力している。皮膚疾患は長期間治療を行っていくことも多いため、薬をなるべく使わない治療法(減感作療法や食事療法)や、飼い主と犬猫の生活スタイルに合うオーダーメイドの治療を提案している。※伊佐先生は2024年11月末から産休に入られています。

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