【獣医師インタビュー】地方の動物医療を変える「究極の一次診療病院」へ。さいとう動物病院・齊藤高行先生の挑戦

【獣医師インタビュー】地方の動物医療を変える「究極の一次診療病院」へ。さいとう動物病院・齊藤高行先生の挑戦

齊藤 高行
さいとう動物病院 富岡総合医療センター
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群馬県富岡市の「さいとう動物病院」で院長を務める齊藤高行先生は、大都市部から離れた地方に暮らす動物と飼い主さんのために、一次診療病院のあり方を変えられないかと挑戦中。長野県や栃木県からも患者さんが訪れる地域の拠点的な施設として、病院の規模・体制も充実させています。また、専門医・認定医の活動と獣医教育を支援する団体の代表も務めるなど、マルチに活躍されている先生の思いや目指すところについて、お話を伺いました。

内科の専門医・佐藤雅彦先生に聞く「二次診療」が果たす役割とは?

プロフィール

齊藤 高行 先生

群馬県富岡市出身。麻布大学で獣医学を学んだ後、動物病院での勤務を経て地元に戻り、実家の動物病院を継ぎ院長に。「地方でも大都市部と変わらぬ医療を」「動物と人の幸せな時間を支えたい」との思いから、第一線で活躍する各分野の獣医による専門外来体制や二次診療施設と同レベルの設備を備えた「さいとう動物病院 富岡総合医療センター」として2021年7月に移転・リニューアル。また病院経営のかたわら、専門医・認定医のセミナー派遣やオンラインサロンを運営する団体「LIVES(ライブス/League of International Veterinary Educational Specialists)」を立ち上げ、代表を務めている。

第一線の専門医・認定医が知識や経験を伝えられる場をつくりたい。

——獣医になられて、すぐに実家の病院で勤務を始められたのですか?

いえ、大学を卒業して国家試験に合格後、最初は埼玉県にある一般の動物病院に勤務しました。病院の経営面も学んでから実家に戻りたいという考えも持っていたんです。ただそこでは自分の力不足もあり、思うような仕事ができない日々でしたね。3年ほど勤めた後、地元に帰ってきて父が営んでいた病院を継ぎました。それが今から5年ほど前です。

——それからどのような経緯を経て、多くの専門医・認定医が所属する一般社団法人「LIVES」の活動が始まったのでしょうか?

実家の病院で勤務を始めると、この地域に私ぐらいの世代の獣医が少なかったこともあってか、比較的若い年代の飼い主さんの来院が増えたんですね。もちろん経営的にはありがたいことですが、同時に対応する症例の幅も広くなり、どうしても自分の知識やノウハウで対応しきれないところが出てくるようになりました。その部分について強い専門性を持つ先生方にコンタクトを取り、アドバイスなどをいただくようになったのが活動の発端です。

——現在は、さまざまな分野の専門医・認定医をセミナーなどに派遣する事業が「LIVES」のメインとなっていますね。

心臓内科や画像診断など各分野の第一線の先生に定期的に来ていただいて、いろいろ相談させてもらったり助言をいただいたりしている中で、経営的に助けてもらっている分こちらからも先生方に利益を還元したい、活動をサポートしたいと考えるようになりました。本当に優秀な先生方なので、その知識や経験をセミナーなどで伝えられる場を設けられればと思い、全国の病院などに講師として送り出してしまおうと。その派遣事業を運営する法人として、「LIVES」を立ち上げたわけです。

——反響はいかがでしたか?

おかげさまですごい人気になりまして。セミナーを受ける側もそうですが、専門医や認定医の先生方の間でどんどん紹介がつながるようになっていきました。アメリカの専門医の先生が来日するときに、「LIVES」のことを知っていただいていたようで、「来日に当たって自分のこともマネジメントしてほしい」と相談をもらったこともあります。そのときは、日本での滞在期間中に全国各地でセミナーをして回る行程をコーディネートしました。初年度だけで約2500人の獣医さんがセミナーに参加してくださいました。今年からはオンラインサロン「SAVES」の運営も開始し、こちらは既におよそ2000人の獣医さんの登録があります。

専門医・認定医の価値が広く知られる。それが動物や飼い主さんのメリットにつながる。

——「LIVES」の活動が専門医・認定医の間に広がっていった背景には、どんなニーズがあったと感じますか?

専門医や認定医の先生方は、自分が学んできたことを全国の獣医さんや学生たちに伝えていきたいという思いをとても強く持っています。しかし、ご自身の仕事も忙しい中で、セミナーを開くための細々とした調整業務までこなすのは現実的ではありません。また、そうした業務をサポートする事業者もこれまで国内にはあまりなかったことから、「LIVES」の活動を評価していただいたのではないかと思います。

——「教育」に対する思いや情熱は、これまで「Vet’s BATON」にご登場いただいた先生方も語られていました。

特にアメリカで学んだり、専門医の資格を取られたりした先生方は、共通して教育の重要性への思いが強いですよね。自分の得た知識やノウハウを「伝えたい」「教えたい」という意志はあるものの、日本にはまだ確立された教育のシステムがなかったり、発信に適した方法がなかったりして、そこで模索されている先生がとても多い。そうした姿を目の当たりにして、「こんなにすごい先生たちにもやっぱり悩みはあるんだな」というのが意外というか、ある意味衝撃でした。

——「LIVES」の活動にはそうした課題を解決したいという側面もあるのでしょうか?

そうですね。専門医の先生同士が集まる場というのも多くはないので、「LIVES」が情報交換・共有の場にもなれればと思っています。やっぱり集合した方が発信力も強くなりますし、「LIVES」を一つのきっかけにして、国内でもっと専門医の認知が広がっていけばと考えています。

——一般の飼い主さんでも、「獣医の中に専門医と呼ばれるスペシャリストがいる」と知っている方は少ないのではないでしょうか。

もっと専門医が国内での発信や活動をしやすくするためには、獣医などプロの側だけでなく飼い主さんにもその存在を知っていただくことがとても重要です。専門医の必要性や価値に対する理解が進めば、その高度な医療を求めるニーズが生まれます。すると「ニーズの受け皿をちゃんと整備しよう」という議論が業界で進むことになる。専門医の立ち位置が変わって動きやすくなるきっかけになるでしょうし、一次診療・二次診療の循環も機能して医療のレベルも向上するはずです。そしてそれは、何より動物や飼い主さんにとって大きなメリットになると考えています。

地方でも都市部と同じ医療を提供する、世界ともつながる。そんな拠点病院を目指して。

——地方の動物医療の現場が抱える課題については、どう感じていますか?

二次診療施設が圧倒的に少ないのが大きな課題だと思います。より高度な治療や難しい症例に対応できる病院が大都市部にしかないので、アクセスするのに相当大きなハードルができてしまう。地方の動物病院は獣医さんが1人で開業しているところも多いので、診断や治療について「これでいいのかな」と判断に迷う状況に直面してもすぐに相談もできません。獣医にとって地方はある意味で孤独な環境と言えます。

——大都市部なら受けられたかもしれない医療が受けられない、という状況も生まれてしまいます。

本当はもっと適切な処置ができたかもしれないとか、最悪のケースでは助けられるのに助からない命が出てくる恐れもある。それはとても辛いことですし、やっぱり改善が必要な課題です。こうした問題意識は全国の他の地方にもあって、ある程度の設備と体制を整えた地域の拠点となる施設が各地に生まれています。「LIVES」でもそうした病院と協力し、専門医や認定医を各地に派遣するシステムの整備も進めようと考えています。

——さいとう動物病院も2021年7月に移転し、富岡総合医療センターとしてリニューアルしました。

さまざまな検査や手術に対応できる設備・機器を入れて、二次診療施設と比べても遜色のない規模とスペックを備えています。血液検査の機器も最新のものを2台用意することでお待たせする時間が大きく短縮できました。心臓のエコー検査装置も臓器の動きを3次元動画として記録できるものや食道を介して体の内側から撮れるものなど、いずれも精密な画像診断に対応できる設備を導入しています。他にも骨折などを最小侵襲(体にかかる負担を最小限に抑える)で手術できる機器など、今までは東京方面に行かないと受けられなかった検査や治療がこの富岡で可能になります。

手術室には内視鏡やエコーなども2セットを完備し、2床同時並行の手術にも対応。

——専門医・認定医の先生とも、さらに連携しやすくなるのではないでしょうか?

設備面が整うことで、各分野の第一線の先生方に来ていただく専門外来の体制ももっと充実できると考えています。国内だけでなく海外にいる先生とも連携できるよう、診察室にリモート対応のモニターも設置しました。たとえば富岡とアメリカで同じ電子カルテを同時に見ながら遠隔診療を進める、といったことが可能になります。これを今後すべての診察室に導入する予定で、地方にいても専門医に直接診てもらえる体制がつくれたらと思っています。

診察室は院内に7部屋。海外の専門医もリアルタイムでつないで診察に入ってもらえるよう、モニターを2台ずつ全室に設置する予定。

我が子のことで困ったら最初に頼れる場所、動物と人の幸せな時間を支える「究極の一次診療病院」へ。

——飼い主さんとのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

大事にしているのはホスピタリティですね。飼い主さんに一番近いところで接するのが私たちの仕事の根幹です。二次診療もカバーできるような設備や体制を整えていますが、それを求めて来院される方ばかりではありません。その方、そのご家族に寄り添った診療を第一に心がけ、でも状況によっては高度な医療も含めたあらゆる手段を提供できる。そういう「究極の一次診療病院」を目指したいと思っています。

——この仕事をやっていて良かったと思う瞬間や、印象的に残っているエピソードはありますか?

ゴールデンレトリバーで末期のがんを患っていた子の診療をしたことがありました。往診のためにお家に行かせてもらっていて、ご家族にとても愛されているのが伝わってくる子だったんですが、快復は叶わずある日の朝息を引き取ってしまいました。後日、飼い主だったお母様と娘さんにたまたまお会いしたときに、もう半年ぐらい経っていたのですが涙を流してお礼を言ってもらったのがすごく印象に残っていて。ご家族がその子のために一生懸命になっているなら、こっちも同じくらいの熱量で診療に当たりたいという思いでやっていて、その気持ちが届いたんだと嬉しくなりました。

——最後に、病院を今後どんな場所にしていきたいか、目標をお聞かせください。

飼い主さんが一番不安に思われているのは、「自分の子に最適な医療を受けさせたいが、どこに行ったらいいのかわからない」ということ。特に地方ではこうした悩みは大きいと思います。そうした方にとって安心材料になる場所、我が子のことで何か困ったら最初に「行こう、頼ってみよう」と思える場所を目指したいですね。そのためにできることには全部対応しようと、病院ではトリミングやしつけ教室のサービスも提供しています。地方も都市部と同じように、動物を飼いやすい場所にする。そして「動物と人の幸せな時間」をつくっていく。それが目標です。

さいとう動物病院 富岡総合医療センター 群馬県富岡市富岡3058-1

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 内科主任・佐藤雅彦先生からのバトンへの回答

佐藤先生

Q1. ご実家の動物病院を継ぐことは、もともと考えていたことでしたか?

齊藤先生

最初から実家の病院を継ぐことを目標に、獣医を目指しました。理屈じゃなく感覚として故郷・富岡が好き、という思いがあり、仕事をするならこの場所でやりたいとも思っていました。富岡でいい病院をつくれたら、というのが小さいころからの夢でしたね。

佐藤先生

Q2. 院長として、また「LIVES」の代表として、今後の目標をお聞かせください。

齊藤先生

院長としては、「世界の先生ともつながる地方の一次診療の病院」という形をつくっていければと考えています。そういうモデルができれば、全国各地で悩みや孤独を抱えている獣医さんたちの状況を変える、一つの可能性になれると思っています。
「LIVES」の代表としては、若い人材がもっとチャンスをつかんでいける、そのきっかけづくりを進めていきたいですね。今、アメリカの大学で活躍されている先生と連携して、日本の優秀な人材をその方の研究室に直接送り出す仕組みを整えようとしています。これができれば画期的ですし、私たちがずっとやりたかったことでもある。他にも学生向けのセミナーや、専門医と学生が交流できる機会の提供なども今後充実させたいですね。「LIVES」は教育に関して「どこまでもやる存在」でありたいと思っています。

松原動物病院 内科主任(米国獣医内科専門医)・佐藤佳苗先生へのバトン

Q1. アメリカで専門医資格を取得後、そのまま残る道もあったかと思いますが、なぜ日本に帰ってこようと思われたのでしょうか?
Q2. 米国獣医内科専門医として、今後日本でやっていきたいこと、展望などを教えてください。

 
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