慢性腎臓病はさまざまな合併症を招く病気です。その一つが赤血球の産生を促進するホルモンが不足して貧血になる「腎性貧血」です。放置すれば命に関わるため、早期発見・早期治療が重要です。今回の「猫の腎臓病【治療編】」では、平野先生に腎性貧血の診断に必要な検査や治療法、飼い主ができるケアを解説します。
平野 太陽 先生
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目次
慢性腎臓病の猫が発症しやすい
腎性貧血の早期発見・早期治療に尽くす
愛猫が「腎性貧血」と診断されました。
慢性腎臓病の合併症らしいのですが……。

腎性貧血は慢性腎臓病に由来する合併症です。腎臓は赤血球の産生を促進するホルモン「エリスロポエチン」を分泌していますが、慢性腎臓病が進行すると「エリスロポエチン」の分泌量が減り、赤血球の産生量が減って貧血になってしまいます。慢性腎臓病の猫が発症する割合は32~65%(参考値)※といわれ、注意が必要な合併症です。ただし、貧血はさまざまな病気で起きるうえ、原因によって治療法が変わります。
※Elliott J, Barber PJ(1998):Feline chronic renal failure:clinical finding in 80 cases diagnosed between 1992 and 1995. J Small Anim Pract. 39 78-85
知っておきたい貧血の種類と原因
- ・腎性貧血(エリスロポエチンの不足)
- ・鉄欠乏性貧血(鉄の不足)
- ・消化管内の出血による貧血(たとえば胃腸障害)
- ・慢性炎症による赤血球の産生の低下による貧血(たとえば口内炎)
- ・頻回な採血による貧血
慢性腎臓病だから腎性貧血とは
限らないのでしょうか。

そもそも血液検査でBUNとクレアチニン(Cre)の数値が上がっているから単に慢性腎臓病、と診断されているケースが多いのではないでしょうか。同じように数値が上昇する病気には尿管結石、腎臓がん、リンパ腫などがあり、治療がまったく異なります。猫だから、高齢だから、数値が上昇しているから……という先入観ではなく、尿検査や超音波検査などの必要な検査を行ってはじめて慢性腎臓病という診断ができると考えています。
貧血も同様で、慢性腎臓病の猫が貧血だから腎性貧血だと決めつけず、起きている原因を探る必要があります。血液検査でわかるのは結果だけ。なぜ起こっているのかという原因は、超音波検査などの画像検査や、細胞を病変部から採取して病理診断で突き詰めていかないとわかりません。

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深掘アドバイス
血液検査のしすぎが貧血を招く
慢性腎臓病の猫の飼い主さんの中には、BUNとクレアチニンの数値が気になって毎週のように血液検査を希望する方もいます。しかし2kg台までやせた猫から頻繁に採血したら、貧血が悪化してしまいますよね。当院での再診頻度は、ステージ1~2が3カ月に1回、ステージ3が2カ月の1回、ステージ4は1カ月に1回を目安にしています。慢性腎臓病は腎臓の機能が日に日に低下していく病気で、今日より明日のほうが確実に機能は低下します。
血液検査の結果は重要な情報ですが、その数値だけで状態のすべてが決まるわけではありません。愛猫が元気に過ごしているのであれば、検査結果の変化だけにとらわれず、日常の様子とあわせて見ていただきたいと思います。

腎性貧血の猫で
血圧測定が重要な理由

慢性腎臓病の猫では、血圧測定も重要な評価項目の一つです。高血圧は慢性腎臓病の進行に関連することが知られており、その背景に内分泌疾患などが関与している場合もあります。また、慢性腎臓病に心疾患を併発しているケースもあるため、合併症の有無を把握することは適切な治療計画を立てる上で重要であると考えています。ただし、院内では緊張の影響で血圧が高く測定されることがあるため、当院では必要に応じて複数回の測定結果を参考にしながら評価します。
腎性貧血と確定したら
どのような治療をすることになりますか?

腎性貧血はエリスロポエチンを用いた投薬療法が基本です。また同時に鉄剤の投与を検討する場合もあります。血液中の鉄濃度も計測できるので、主治医の先生と相談の上実施してください。
血液検査の結果だけで治療方針が決まるわけではありません。点滴など治療の必要性については、脱水の程度や全身状態なども含めて総合的に評価することが重要です。慢性腎臓病は長期的な管理が必要な疾患であるため、無理なく治療を継続できる方法を主治医と相談しながら検討していくのがよいと考えています。

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慢性腎臓病や腎性貧血に詳しい先生の探し方は?

慢性腎臓病を含む泌尿器疾患について専門的な相談を希望する場合は、かかりつけの先生に相談し、腎泌尿器認定医などの専門的な知識を有する獣医師を紹介してもらう方法があります。認定医資格の有無は、相談先を検討する際の一つの目安になるでしょう。
動物病院に連れていくとストレスになりそう。
猫ちゃんが落ち着いて受診するための工夫は?

猫は環境の変化や知らない場所に強いストレスを感じることがあります。そのため、受診時にはできるだけ落ち着いた環境を整えることが大切です。診察前に飼い主さんがリラックスして接したり、普段から使い慣れたキャリーを使用したりすることで、猫が安心しやすくなる場合があります。また、猫によっては飼い主さんが近くにいることで落ち着いて検査を受けられることもあります。対応は病院によって異なるため、付き添いの可否などについて事前に相談してみるとよいでしょう。近年は、猫のストレス軽減に配慮して、待合室や診察室の環境づくりに力を入れている動物病院も増えています。受診に不安がある場合は、どのような配慮を行っているのかを事前に確認してみるのも一つの方法です。
闘病を支えるための心がまえを教えてください。

慢性腎臓病や腎性貧血は、長期的に付き合っていくことの多い病気です。そのため、治療だけでなく、愛猫と飼い主さんの生活の質(QOL)を考えながら向き合っていくことが大切です。その中で特に注意したいのが脱水ですが、脱水は慢性腎臓病や腎性貧血を悪化させるトリガーになるので、いつでも水分補給ができるように水入れを複数個置いてください。陶器製の浅めのうつわや自動給水器を好むといわれています。その他、治療や日常ケアについて悩みがある場合は、主治医と相談しながら、その子に合った方法を見つけていくことが大切です。


平野先生からのメッセージ
慢性腎臓病や腎性貧血と上手に付き合うために
慢性腎臓病は根治が難しい疾患ですが、診断や治療の考え方は整理されており、病状に応じてさまざまな管理方法が検討されています。大切なのは、主治医と相談しながらその子に合った治療を継続していくことです。治療を続ける中では、検査結果の変化に不安を感じることもあるかもしれません。しかし、検査値だけでなく、食欲や活動性、生活の質(QOL)なども含めて総合的に評価することが重要です。私は、飼い主さんが一人で悩みを抱え込まず、気になることは主治医に相談しながら愛猫との時間を大切に過ごしていただきたいと思っています。


