腎臓病を患う猫はとても多く、ガンに次いで猫の死因にあげられる疾患です。そこで今回は、すべての猫オーナーさんが心配な猫の腎臓病について、その症状や治療法、気をつけるべき食事や療法食のお悩みまで、獣医師の布川先生に解説&アドバイスいただきます!

布川 智範 先生
・日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅱ種
・一般社団法人犬・猫の呼吸器臨床研究会
知っておきたい猫の腎臓病。
ずばり教えて、布川先生!


猫といえば「腎臓病」というイメージがあります。
腎臓病とは、どんな病気なんですか?

腎臓病は、腎臓機能に何らかの障害がある病気の総称で、大きく「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」の2つに分けられます。
「急性腎臓病」は、感染症や誤食などによって数時間から数日のうちに急激に腎機能が低下する状態のこと。「慢性腎臓病」は何かしらの基礎疾患によって腎臓へのダメージが蓄積し、腎機能の低下が3ヶ月以上見られる状態を指します。
「急性腎臓病」は救急治療によって回復する余地はありますが、急激なダメージを受けたことで慢性腎臓病に至るケースも少なくありません。

改めて怖い病気ですね……。
猫は腎臓が悪くなると、体にどんな影響がありますか?

腎臓の機能が低下すると、血液中の不要な老廃物をろ過して尿として排出できなくなり、体の中に毒素が溜まって「嘔吐・下痢」「食欲不振」「尿毒症による発作」といった症状が出ます。
また体に必要な水分を保てず脱水状態になるため、腎臓病の初期症状として「多飲多尿(飲水量・尿量が増える)」が見られるようになります。さらに、赤血球の減少による貧血、血圧の上昇、カルシウム・リンの代謝異常も、慢性腎臓病によって発症しやすくなります。
腎臓病の症状
- ●急性腎臓病:尿が作れないためおしっこの量が減少~出ない、嘔吐、脱水、下痢、痙攣など緊急性の症状
- ●慢性腎臓病:多飲多尿、食欲低下、嘔吐、体重減少、貧血による元気低下などの症状

腎臓病を早期発見するために、
私たちがチェックできる腎臓病のサインはありますか?

慢性腎臓病の症状には「嘔吐」や「食欲不振」があげられますが、特にチェックしてほしいのは「1日の飲水量」「おしっこの量・回数」「日々の体重」。腎機能が低下すると尿の濃縮力が低下し、水を飲む量とおしっこの量・回数が増加。どんどん水分が抜けていくので、そのぶん体重も減少します。
また慢性腎臓病の猫は膀胱炎を併発していることもあるため、おしっこの量や回数を見られるスマートトイレや、尿の状態で色が変わる猫砂などを活用してみるのもいいかもしれません。体重については、可能ならベビースケールなどで記録し、1ヶ月に5~10%が減少すると危険信号と覚えておいてください。
慢性腎臓病のサイン
- 1日の飲水量が増える
- おしっこの量・回数が増える
- 体重が減る
ニャるほど!深掘アドバイス その1
危険な飲水量の目安は、「体重kg×60cc」
猫の多飲症状の目安は体重×60cc」。例えば、3kg程度の子なら目安は180cc。飲水量をチェックする際は、決まったボトルや計量カップを利用すると、愛猫が1日にどれくらいの量の水を飲んでいるかがひと目でわかります。

もし愛猫が慢性腎臓病になってしまったら……。
どんな治療方法があるのでしょうか?

一度ダメージを受けた腎臓を再生することは難しいため、いかに腎臓の負担を減らし、腎機能を温存できるか?それが慢性腎臓病の治療になります。そのため慢性腎臓病の治療は、腎臓に負担をかける「たんぱく質」「リン」を制限する療法食が基本。療法食を続けた子は、続けなかった子に比べて、およそ2倍近く長生きできる研究データもあり、顕著な効果が期待できる治療方法です。さらに、比較的早いステージであれば腎臓の血行を改善して進行を遅らせるお薬もあります。高血圧や尿蛋白はそれぞれ腎臓病を悪化させる要因となるため、これらをお薬で抑えていく必要もあります。
ニャるほど!深掘アドバイス その2
元気なうちからお薬に慣れる習慣を!
食欲がない場合、慢性腎臓病の食事療法は点滴などで体内のバランスを整え、療法食を食べられる状態まで引き上げることからはじまります。その上で、腎臓を保護する薬も継続して服用できると、より進行を遅らせることができます。腎臓病に限らず、日頃からサプリメントなどでお薬を飲むトレーニングをしておくことは、とても大切です。とはいえ、嫌がる猫に薬を飲ませるのは大変なので、どうしても投薬が難しい場合は、飼い主さんもストレスなく、その子にベストな治療法を獣医師と一緒に考えていけるといいですね。

愛猫のために、少しでもリスクを下げたいです。
慢性腎臓病はどうすれば予防できますか?

まずは、日頃の食事について気にかけてあげることが大事だと思います。「たんぱく質」「リン」の過剰な摂取は、慢性腎臓病にかかる要因の1つ。高たんぱくな肉類やリンが含まれる乳製品を頻繁に与えないよう気をつけること。また、塩分が多く含まれている人間の食べ物は与えないことが大切です。
また、猫に多い尿路結石、尿管結石は腎臓病リスクが高くなるので、若い猫でも泌尿器疾患のある場合は定期的な検査が重要です。
今回は、すべての猫オーナーさんが知っておきたい猫の腎臓病の基礎知識を教えていただきました。次回の食事編では、慢性腎臓病の愛猫の療法食にまつわるオーナーさんのお悩み&質問に布川先生がお答えします!