【獣医師インタビュー】米国獣医専門医の高度なスキルを、一次診療の「教育」のために。佐藤佳苗先生が描く未来とは?

【獣医師インタビュー】米国獣医専門医の高度なスキルを、一次診療の「教育」のために。佐藤佳苗先生が描く未来とは?

佐藤 佳苗
      

米国獣医内科学専門医の資格を持つ佐藤佳苗先生。専門医の資格を取得するには、獣医学科を卒業後、アメリカでインターン(研修医)とレジデント(専科研修医)の認定プログラムを修了し、難関の専門医試験に合格しなければなりません。資格取得後、多くの先生が高度医療などを実施する二次診療の病院に勤務することを選ぶ中、佐藤先生は地域の動物病院、一次診療の現場へ戻りました。その選択には、一体どのような理由があったのか?佐藤先生の想いや、現在の働き方についてじっくりと伺いました。

地方の動物医療を変えるさいとう動物病院・齊藤高行先生の挑戦

プロフィール

佐藤 佳苗 先生

北海道大学獣医学部卒業後、大阪の松原動物病院で獣医師として勤務。2015年、専門医を目指して渡米し、カリフォルニア大学デービス校 Hemodialysis Internship/Fellowship修了。2018年にはカナダUniversity of Saskatchewanにて全科インターンシップ修了(Rotating Internship)、2021年同大学にて米国獣医内科レジデント修了(ACVIM(SAIM))、修士課程修了(Master of Science)。Michael Powell Award of Excellence受賞(2020年)、Clinical Graduate Student of Merit受賞(2021年)。2021年9月より、再び松原動物病院において、米国獣医内科学専門医として全獣医師の内科診察の指導・サポートに当たり、セカンドオピニオンをはじめとして病院全体の内科診療の水準を高く保つことに貢献している。

憧れたのは、知識豊富で頼りになる専門医。
自力で渡米して出会った、尊敬する仲間と教育システム。

——獣医師、そして米国獣医専門医を目指されたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?

10歳の頃、瀕死の野鳥に出会って、幼いながらも、何もできない自分に憤りを感じました。そこから「私も何かできるようになりたい!」という強い思いで獣医師を目指したんです。北海道大学獣医学部に入学後は、学部内で内科を専攻。卒業後は、直接動物たちと関わることのできる臨床現場に出たいという思いで、現在勤務する松原動物病院に就職しました。
そして働き始めて2年目、「血液透析という治療法」に出会い、そこから本格的に血液透析の勉強を始めたのですが、JAHA主催の内科学のセミナーで、アメリカの専門医の先生の講義に深く感銘を受け、専門医に興味を持ちました。講義内容というよりも、先生方のとんでもない知識量や引き出しの多さ、気さくな人柄に触れ、少しでも彼らに近づきたいと憧れるようになったんです。

——憧れの専門医への道は、どうやって切り拓いたのですか?

まずはセミナー講師をしていた専門医の方が働いていたニューヨークの病院へ、一週間ほど視察に行きました。松原動物病院の井上院長に連れて行っていただいたのですが、何もかもが想像以上のレベルにあり、「やっぱりすごい!」と感動して自らも渡米することを決意しました。
そこからは、アメリカの勉強会にオンラインで参加して質問したり、シンポジウムへ行って名刺交換をしたり。8ヶ月ほどコツコツと人脈づくりに励みました。その後2ヶ月ほど、休職させてもらい、アメリカでの求職活動を経て、カリフォルニア大学デービス校で透析の仕事をさせていただけることになったのがスタートです。
ただ専門医になるには、まず現地でインターンをした後、大学のレジデントプログラムに参加しないとなりません。
Vet’s BATON Vol.6でお話しされていた佐藤雅彦先生のように、支援を受けてプログラムに参加する方法もありますが、私はタイミングが合わず、自力で受け入れ先を探しました。現地のマッチングプログラムに応募して、受け入れてくれる大学を探しながら、認定が得られるインターン先も探し、最終的にカナダの大学でインターンもレジデントも取得することができました。

——アメリカで2年間、カナダで4年間。トータル6年間、北米で得たものとは何だったのでしょう?

一番大きな財産は人との出会いです。心から尊敬できる方々に出会って、一緒に仕事をさせていただいて、時には友人にもなることができて。また国ごとに常識も違うので、異なる価値観を受け入れる柔軟性も身に付きました。
さらにレジデントのコースでは、臨床医として仕事をしながら教育を受けるので、「教え方」も学ぶことができました。座学ではなく、実際の臨床現場で「一番効率のよい教え方」に触れられたことは非常にいい経験となりましたね。

“専門医だけができる”より、同じことをできる人が増えるほうが、救える動物は確実に増える。

——専門医の資格を取得した後、知識や技術を直接活かせる二次診療ではなく、一次診療の病院へ戻られたのはなぜですか?

それは、「かつての自分が求めていたような先輩」になりたいと思ったからです。新人の頃の私が求めていたような、困っている獣医師を指導できる専門医の存在が臨床現場には必要だと感じていたので、迷いはありませんでした。

——現在は、病院内でどのような役割を担っていますか?

私自身が直接診察はせず、先生方全員に対する教育・サポート役に徹しています。若手の先生には頻繁に声をかけて、抱え込まないように見守り、ベテランの先生に関しては、ちょっと悩まれているときにディスカッションで知識のやりとりをするなど、必要に応じた支援をするようにしています。
例えば、新人の先生がすぐには診断できない難しい症例を前にしていれば、問診前に注目するべきポイントをアドバイスしたり、身体検査を一緒に行ったり。若手の先生が検査結果の解釈に困っていれば、一緒に考えたり、王道の治療法について教えたり。その他、内視鏡の技術の部分でお手伝いすることなどもありますね。
専門医がそれぞれの先生を支援することで、病院全体の臨床力が向上し、それによって救うことのできる動物は確実に増えます。だからこそ、使える時間の全てを教育・サポートに注ぐようにしてきました。これにより、来院したオーナーさん、そして動物たちが、ある程度標準化された高いクオリティの医療サービスを受けられるようにしていきたいと考えています。

——専門医の立場で先生方をサポートする中で、どんなことを心がけていますか?

心がけていることは2つあります。一つは、正解がないときには理に適う選択肢を複数出して、違う意見も尊重する姿勢を崩さないこと。自分の意見が鶴の一声のようになるのは避けたいんです。主治医の先生の意思も尊重したいし、理に適っていてオーナーさんと動物にとっても正解なら、それは正解だと思うので。
もう一つは、“Look alike(よく似ていて紛らわしいの意)”と言ったりもしますが、単純そうな病気に見えて、実は他の原因が複合していることもあります。そういった際には、私が先に気づいたら伝えるようにしています。例えば、足を引きずっていた場合、実は骨など整形の問題ではなく、免疫の病気だったとか。嘔吐の原因が単純にお腹の風邪ではなく、心臓の周りに水が溜まったことだったとか。獣医師でも気づきにくい病気が、症状の奥に潜んでいることもあるので、違和感に気づいたときには全員で共有するようにしています。

——北米から日本の現場へ戻って教育する中で、日本の獣医業界について気づいたことはありますか?

日本と比べると、北米は一次診療と二次診療のすみ分けがはっきりしています。ワクチンやシンプルな症例は一次診療で、複雑でCTなど特殊な機器が必要な場合は二次診療に紹介する、というシステムがしっかりと構築されているんです。一方、日本は二次診療の施設数が少ないため、一次診療と二次診療があいまいなところが北米とは異なります。「一次診療施設間のレベルの差」でいえば、北米が一次診療に徹しているのに対し、日本は二次診療までやろうとしている点で、日本のほうが個々の差は大きいように感じます。
これにより何が起きるかというと、大学卒業後どの病院で働くかによって、その後の受けられる教育のレベルも種類も違い、育っていく獣医師の力量に大きな差が出てくるわけです。結果、施設および獣医師ごとに提供できる医療レベルに差が出てしまっているのが、日本の現状ではないでしょうか。北米のようにすみ分けるのが正解かどうかは、まだ私にはわかりません。ただ獣医師のレベルが不均衡でオーナーさんにとってその差がわかりにくい……。ちょっとややこしい状態なのかなとは感じています。

教育・サポートした先生の「わかった!」がやりがいに。
その結果、動物が元気になってくれるのがうれしい。

——サポート役として専門医の資格を活かす今の仕事に、どのようなやりがいを感じていますか?

相手が「なるほど!わかった!」と言ってくれたときは、とてもやりがいを感じます。何かにつまずいて先生方の学びがストップしてしまうのはもったいないですよね。日々、説明して「すっきりした?」、「はい、すっきりしました」、「よし!それじゃ診察行ってらっしゃい!」という感じになれたらベストです。だからこそ、より納得してもらえるように、同じ話でも相手に合わせて説明や質問の仕方は変えたりしています。

——オーナーさんとの関係で、やりがいを感じることはありましたか。

今は直接の診察はしていませんが、相談を受けた症例の子が元気になってくれたときは、素直にうれしいですよね。また私たち獣医師は、病気に対してオーナーさんと同じ気持ちで治療に立ち向かっています。だからこそ、オーナーさんが「対獣医師」ではなく、「対病気」として同じ目線に立って心を開いてくれたときはうれしいです。ご家族や動物にまつわる大切な話をしてくれたときなどは、とてもやりがいを感じますね。

今後は、北米で学んできた透析治療を日本で進めていきたい。

——日本に戻ってまだ2ヶ月。今後日本で挑戦してみたいことはありますか?

「血液保存用の冷凍庫」(左)「遠心分離装置」(右)

これまで学んできた透析治療についても、今後は治療環境をしっかりと整えていきたいと考えています。そして必要なときに備えて、血液を集めて保管しておく血液バンクシステムも構築していこうとしているところです。
透析を学びたいと思っている獣医師の方がいたら喜んで伝えていきますし、知識の出し惜しみはせず、どんどん広げていきたいです。自分の知識を伝えることで、透析の治療ができる人が増えるなら、一人でやっていくよりもよほど効率がいいと思います。
※2021年10月26日現在

——最後にオーナーさんにメッセージをお願いします。

私をはじめ多くの獣医師は、オーナーさんと動物と同じ目線に立って、チームで病気に立ち向かう姿勢でいるので、私たちを同じ仲間だと思って来院していただけるとうれしいです。
また何かおかしな様子があって来院するときは、ぜひ動画を撮ってきてください。診察室ではその様子を見せない場合もありますし、口頭の説明よりも正確に診断することができることもあります。加えて、普段からお世話をされている方が心配に思うことを包み隠さずお話しいただくことが、最善の治療への近道だと思っています。ぜひ、思いのままにお話ししてください。

最後に、皆様にお願いがあります。実は今現在、日本には動物用の血液バンクのようなネットワークが整備されていません。そのため、各病院や地域で供血(血液を分けてくれる)してくれる動物を募集して血液を確保しているような状況です。輸血して初めて助かる命もたくさんあるのですが、輸血用の血液が確保できず命を救えないことも……。もし募集を見かけたら、供血協力について少しだけ考えてみていただけるとうれしいです。当病院でも供血ワンちゃん、猫ちゃんの協力を得て血液を集めていますが、まだまだその確保量は十分とは程遠いものがあります。もし協力してくださる方は病院までご連絡いただけると幸いです。

松原動物病院

さいとう動物病院・齊藤高行先生のバトンへの回答

齊藤先生

Q1. 専門医資格を取得した後、さまざまな選択肢があったと思いますが、なぜ日本に帰ってこようと思われたのでしょうか?

佐藤先生

最初に私が専門医の方に感銘を受けたとき、何とか日本で専門知識を学べないかと考えたんです。しかし日本にはレジデントの制度がなかったので渡米を選択することに。もし当時、身近で指導してくれる専門医がいたら、私はそこで指導をお願いしていたと思います。そういった思いもあって、資格取得後には日本に戻り、一次診療の現場で当時の私と同じような思い、悩みを抱いている獣医師の役に立ちたいと考えました。

齊藤先生

Q2. 今後、米国獣医内科学専門医として、日本でやっていきたいと思われていることはありますか?

佐藤先生

先に述べた透析治療の環境を整えることと並行して、「血漿交換」という治療も進めていきたいです。血液中の血球を除いた部分をドナーの血液と入れ替えることで、主に免疫介在性の病気の原因を取り除くのに有効な治療です。世界ではすでに広がっていますが、私が知る限り、日本ではまだ本格的に行われていません。日本には動物の献血のシステムがないので、輸血用の血液が足りず、スタート地点にすら立てていないのが現状です。

東京大学附属動物医療センター・茂木朋貴先生へのバトン

Q1. 抗菌薬の適正な使われ方について、オーナー様側で知っておいてもらいたいことはありますか?
Q2. さまざまな研究にも取り組んでおられますが、特にこれから力を入れようとしているものはありますか?(話せる範囲で構いません、オーナー様にも例えば治験などで知ってもらいたいことや集めている症例などがあるなら伺いたいです)

 
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