【獣医師インタビュー】内科の専門医・佐藤雅彦先生に聞く「二次診療」が果たす役割とは?

【獣医師インタビュー】内科の専門医・佐藤雅彦先生に聞く「二次診療」が果たす役割とは?

佐藤 雅彦
さいとう動物病院 富岡総合医療センター
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米国獣医内科学専門医の資格を持ち、「どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター」で内科主任を務める佐藤雅彦先生。世界標準のチーム医療で取り組む「二次診療」について、多くの方にもっと知ってほしいと語ります。その重要性や役割、さらに獣医先進国アメリカで得た学びや経験について、お話を伺いました。

専門医に聞く動物の「麻酔」 なぜ“正しく怖がる”べきなのか?

プロフィール

佐藤 雅彦 先生

山口県出身。2005年に岩手大学農学部獣医学科を卒業後、東京の一次診療病院での勤務を経て、2011年に東京大学大学院の獣医学専攻課程で博士号を取得。その後渡米し、日本獣医専門医奨学基金の第1期生としてコロラド州立大学で小動物内科レジデントを修了。2018年に米国獣医内科学専門医(小動物内科)の資格を取得。帰国して東京大学附属動物医療センターで特任准教授を務め、2020年にどうぶつの総合病院 専門医療&救急センターの内科主任に着任。質の高い二次診療の提供とともに、学生や研修医への臨床教育にも力を注ぐ。

「やるからには世界標準」と飛び込んだアメリカで得た経験、考え方。

——アメリカで専門医の資格を取ろうと思われたのは、どういった経緯からですか?

小さい頃から動物好きだったこともあり、獣医師になろうと思い大学に進みました。そこで入ったのが犬猫の内科系研究室で、臨床を中心に学んだんです。その中でご家族の方と直接話す機会もあったのですが、自分の勉強不足を痛感することも多く、もっと臨床を極めたいと思うようになりました。「やるからには世界標準を目指そう」という気持ちで、獣医内科学の専門医をぼんやりと目指すようになったのがその頃ですね。当時はアメリカにしかなく、ヨーロッパでもはじまったばかりの資格制度だったので、自然と意識がアメリカに向くようになりました。

——大学卒業後すぐに渡米せず、いったん一般の動物病院での勤務をご経験されています。

専門性を身に付ける前に一般的な一次診療の経験を積んでおきたいという思いがありました。また、渡米するために日本で実績を作る必要があると感じ、大学の博士課程に入り、臨床と研究に力を注ぎました。すぐに飛び込むタイプというよりは、自分がどこまで通用するのか一つずつ確認しながらやっていく、そういうタイプだったのかなと。それからアメリカに渡り、研究機関の研究員を経て、運よく大学病院でのレジデント(研修医)となり、米国獣医内科学専門医の資格を取得しました。

——アメリカで経験されたことで、印象深かったものは何ですか?

色々ありますが、1つは「エビデンスに基づいて標準化された診療を行う」ことでしょうか。獣医学も学問ですから、普段臨床で行う一つひとつの検査や治療も可能な限り科学的な根拠がベースになくてはならない。また、獣医師がみんな違う検査や治療を好き勝手に行っていては医療の質は保てません。専門医制度では、各分野において国際標準に合わせて推奨される検査や治療をきちんと提供することが重要ということを叩き込まれた気がします。獣医療も進歩していて色々高価な機械を使用した検査も可能となっていますが、「内視鏡やCTスキャンをとりあえずやってみましょう」というのはあり得ない。「それをやって何がわかるのか」を明らかにして、根拠を持った上で必要な検査を取捨選択していきます。

——とても合理的な考え方のように思います。

アメリカの教育制度についてもかなり刺激を受けました。古い日本の考え方でありがちな「知識や技術は自分で盗むもんだ!」というようなその人任せのスタンスではなくて、教育する立場にいる人が筋道を立ててノウハウをしっかり教えてくれる。その方法論も確立されているし、そうすることが教える側の責務だという認識が根付いているんです。教育の重要性を改めて認識させられました。

正確な診断と最適な治療、そのクオリティをチーム医療で保ち、高める。

——現在は二次診療の施設でお仕事をされています。改めて一次診療との違いをお聞かせいただけますか?

一次診療の病院で求められるのは、さまざまな症例に初期対応するための幅広い知識と技術です。一方、二次診療ではより難しい症例への対応や、正確な診断、適切な治療が求められます。そのため最新の研究成果なども踏まえ、専門知識を常にアップデートし続けなくてはなりません。日本ではこれまで専門医制度がなかったこともあり、一次診療の先生が本来二次診療で対応するような部分まで頑張ってカバーしなければいけないことも多くあったかと思います。

——それでは一次診療の先生の負担が大きくなってしまいますね。

医療というのは日進月歩なので、推奨される検査や治療は変化します。新しい検査や治療内容など全てについてアップデートすることを、予防医療も含め幅広くカバーしなければいけない一次診療の先生に求めるのは、かなり負担が大きいと思います。動物やご家族に不利益をもたらさないことが獣医師の使命である以上、一次診療と二次診療が協力し合い「一次診療で難しいことを、それぞれの分野に特化した専門医が受け持つ」というのがあるべき姿かなと思います。

——現在お勤めの病院では、どのような診療を心がけていらっしゃいますか?

私の専門は内科全般ですが、診断を行う上では画像診断科(レントゲン、超音波、CTなど各種画像検査を担当)や病理・臨床病理科(検体などを元に病気の原因等を細かく特定する)の専門医と常に意見交換しながら進めていきます。一人で全てを判断すると間違いや見逃しにつながりかねませんから。厳密で正確な診断や治療を行うには、他の分野の視点を取り入れることが重要です。麻酔をかけた検査が必要な際は麻酔科がしっかり管理してくれますし、症例によって外科や神経科、循環器科、皮膚科などとも協力します。各専門科と協力して最善の医療を提供することが二次診療施設に求められることだと思います。

——複数の分野の先生が互いに専門知識とノウハウを出し合って診療を進めるスタイルですね。

アメリカの二次診療施設ではこうしたチーム医療は常識です。各分野の専門医がディスカッションを重ね、それぞれの視点から相互にチェックできる強みがあります。その分どうしても診察時間が長くなるケースもありますが、その点はご家族にきちんとお伝えして、診断・治療のクオリティはしっかり保つように心がけています。

状況を正しく見極めた上で「次にどうするか」。根拠のある選択肢を示す。

——飼い主の方とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

専門医というと、「誰も治せない病気が治せる」といったイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな魔法みたいな医療はありません(笑)。それぞれの症例に対して「標準」とされる診断・治療を適切に行う、それが大切です。ただ、今の医学ではまだ解明されていないこともあるので、ときには未知な症例や難治性の病気に対応しなければならないこともあります。その際「ここからは未知の部分」としっかり認識していることが重要で、わかっていないことはご家族の方にも十分説明した上で、「それにどう対処するか」を相談しながら進めていきます。

——治療の方針を立てていくときは、どういったお話をされますか?

気をつけているのは、「絶対この検査や治療をしないといけない」という話し方はしないこと。必ずいくつか方向を提示して、それぞれのメリットとデメリット、そして費用的な部分も含めて全部お話しして、ご家族の方と一緒に決めていくようにしています。アメリカで臨床のトレーニングを受けていたときも同じようなことを求められました。ある専門医の先生と一緒に診察したときは、プランの費用面の違いを「バイシクル」「ホンダ」「キャデラック」と表現していましたね。日本語で言えば「松竹梅」みたいな感覚ですかね。費用などさまざまな制限がある中で、その動物とご家族にとって最善のプランを考えていくというのが重要かと思います。

——選択肢をきちんと示すことも、専門医が果たすべき役割ということですね。

特にアメリカでは「プランをしっかり立てること」を徹底されました。少し極端な例にはなりますが、たくさんの病気を抱えていて、状態もかなり悪く治る見込みがない動物がいたときに、「とりあえず点滴や酸素室にいれて様子を見る」といった対応は必ずしも良しとされません。ただ苦しんでいる状態を長引かせるのは、動物虐待であるという考え方もあります。その中で、状況をきちんとご家族に伝え、安楽死も獣医師の方から提示すべきだという認識があります。実際に選択するかどうかは別として、あくまで選択肢の1つとして、きちんと示されるべきものと位置づけられています。

——厳しい判断をご家族からは言い出しづらいという側面もあります。

「安楽死もきちんと提示してくれてありがとう」と感謝されるご家族の方は、日本でもアメリカでもいらっしゃいましたし、なかなかご家族の口からは言い出しづらいということもあるかと思います。安楽死に関しては賛否あっていいと思いますが、少なくともプロフェッショナルとして現在動物が置かれている状況を適切に伝え、「次にどうするか」のプランをきちんとご家族と話し合うことがとても重要だと考えています。

専門医や二次診療の存在は、動物およびご家族ファーストの医療を形にする上でも重要。

——日本の獣医業界が抱える課題について考えをお聞かせください。

小動物内科の分野に関していえば、今アジアで専門医制度を作る動きが進んでいるものの、まだその制度が確立・浸透していないのは大きな課題です。そのため一次診療から二次診療への紹介やセカンドオピニオンを積極的に活用するという意識が、まだ完全に根付いていないのではないでしょうか。現状では一次診療の先生にかかる負担も大きくなる一方なので、ある段階からは二次診療の施設を頼れる、専門医の意見が聞ける、治療を引き継げる、そうした環境が全国でもっと整うといいのかなと思います。

——飼い主さんにとっても、獣医師の中に専門医がいることや、セカンドオピニオンを活用できることは、「まだまだ知らない情報」かもしれません。

私たちのような二次診療の施設があることも知ってほしいですし、幅広く意見を聞いた上でその子にとって何がベストかを考えることの重要性も、もっと認識が広がってほしいですね。セカンドオピニオンに関しても、動物およびご家族ファーストで考えればごく当たり前のことですから、もっと活用してもらうのがいいかと思います。

——最後にご自身の今後の展望をお聞かせください。

専門医の大きな仕事の1つは、後進を育てること。今の職場でも次の世代を担う獣医師教育にも力を入れています。それから、まだまだ診断や治療が難しい病気で苦しんでいる動物を少しでも減らせるよう、臨床研究にも力を入れたいと考えています。

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター(VSEC) 埼玉県川口市石神815

獣医麻酔疼痛管理専門医・小田彩子先生からのバトンへの回答

小田先生

Q1. 獣医師の教育について、日本とアメリカで感じる違いはどんなところですか?

佐藤先生

臨床教育の進め方に大きな違いを感じました。アメリカでは1つの大学や施設に専門医が1人じゃなく複数在籍していて、それぞれがさらに複数の大学や研究機関での経験を持っています。だから知識やノウハウに偏りが少なく、人によって、または施設によって、バラバラの考え方ややり方を指導されるということが少ない。一方日本ではまだ大学間などでの異動や交流も少ないように感じ、教育の質が担保されづらい部分もあるかと思います。また、今はだいぶ減ったのかもしれませんが、日本では教わるというより「見て盗む、覚える」といった考えがある一方、アメリカは質を担保した標準的な医療を教えるシステムが確立されているところがすごいなと思いました。

小田先生

Q2. 先生と同じく海外を目指す後進の学生や獣医師に、何をアドバイスしたいですか?

佐藤先生

技術的なアドバイスはあまりないんです(笑)。自分も含め、周りで海外の経験がある人も本当に多種多様な経歴を経ているので、「必ずこれをしなきゃダメ」というものは特にありません。それよりも、その人が「挑戦したい」と思う気持ちが大事で、そう思ったなら飛び込んでみる、その勇気の方が重要です。あと、英語については行けばなんとかなるというのが実感ですね。逆にどれだけ準備していても、現地に行ったら結局最初は苦労します。「行かなきゃ何もはじまらない」という部分が大きいのかなと思います。

さいとう動物病院・齊藤高行院長へのバトン

Q1. ご実家の動物病院を継ぐことは、もともと考えていたことでしたか?
Q2. 一次診療に取り組みながらLIVES(日本の獣医師の臨床力を国際レベルまで高めることを目的とした一般社団法人)の活動を始めたきっかけは何ですか?
Q3. 院長として、またLIVESの代表として、今後の目標をお聞かせください。

 
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