おやつを欲しがる姿がかわいくて、ついついあげてしまう…しかし、その積み重ねで肥満になる犬は少なくありません。肥満は健康に深刻な影響を及ぼす、見過ごせない問題です。愛犬の健康寿命を延ばすために知っておきたいポイントと、今日からできる対策について「VCA Japan 泉南動物病院」の横井愼一院長に伺いました。
横井 愼一 先生
地域貢献活動にも積極的で、保護猫・保護犬のためのカフェ「ネコリパブリック大阪熊取町店」の立ち上げや、NPO法人「しっぽのごえん」の設立を通じて、譲渡会やしつけ教室、市民セミナーを開催。人と動物が互いに幸せに暮らせる社会づくりに取り組んでいる。自宅では犬1匹と猫2匹、病院でも猫3匹と暮らし、なかでもヨークシャー・テリアのちくわちゃんを溺愛。
目次
犬の肥満とは?
肥満とは、どのような状態を指すのでしょうか。

私たちはBCSスコア (ボディコンディションスコア)に基づいて、肥満度を定義しています。一般的には「体重増加による活動の低下」が肥満の症状です。

飼い主が肥満度をチェックできる方法はありますか?

簡単な方法は、肋骨に触ってみることです。人間の手の甲に触れたときと同じように、ハッキリと肋骨を感じられれば心配ありません。肋骨を探さないと触れない場合は、減量を始めるサインと考えられます。

▲自分の肋骨を触りながら説明する横井先生
もう1つの目安は、1歳時点の体重です。犬の1歳は人間でいうとおよそ20歳にあたり、体ができあがるタイミング。この時の体重が一生涯の適正体重となります。ただし、1歳の時点ですでに肥満体型の場合もあり、適正体重は犬によっても異なるので、正確な体重がわからない場合は、かかりつけの病院で確認してもらいましょう。愛犬が太っていることを正しく認識することが、体重管理の第一歩です。
犬が肥満になる原因は何ですか?

大きな原因のひとつは、食べ過ぎです。犬は生後4ヶ月を過ぎると、もう肥満予備軍です。おやつをあげすぎたり、人間の食事を分け与えたりすると、知らず知らずのうちにカロリー摂取量が増えてしまいます。さらに去勢や避妊手術により基礎代謝が下がると、同じ食事量でも体重が増えやすくなります。最近では、酷暑で夏場に散歩の時間が短くなり、肥満になることが増えています。
また甲状腺機能低下症が原因で代謝が低下し、肥満になる場合もあります。これは大型犬に多い病気とされていますが、中型~小型犬でも起こることがあります。
犬はライフステージや季節によっても体重が変わりやすい
犬の体重管理をするうえで知っておきたいのが、ライフステージや季節による体重の変化です。診療現場でよく飼い主さんから「ずっと同じものを同じだけ与えているのになぜ太るんですか」という質問をいただきます。人と同じように、成長期とシニア期では基礎代謝量が変化します。また夏は散歩量も減るため太りやすくなります。 暑い時期は熱中症のリスクもあり散歩量を増やすのが難しいため、無理をせず食事管理を中心に行いましょう。一方、寒い季節は体温を維持するために多くのエネルギーを必要とするため、基礎代謝が増加します。寒さが厳しい地方の外飼いの犬は特に体重が減る傾向にあります。

肥満になると、どんな病気の発症リスクがありますか?


代表的なのは骨関節症、糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、腫瘍、膵炎、皮膚病などです。
関節の病気でいうと、小型犬では膝蓋骨脱臼が多く、ミニチュアダックスフンドやフレンチブルドッグなどの犬種では椎間板ヘルニアなど背骨の病気が多いため、体重が増えると関節や背骨の負担が増えてしまいます。
アトピー性皮膚炎の犬が肥満になると、皮膚のシワが深くなり皮膚同士がこすれやすくなることで炎症が起こりやすく、治療が難しくなることがあります。
体重増加で呼吸器や関節に負担がかかると、運動することが億劫になり、思うように遊びや散歩ができずにストレスにつながることもあります。
肥満は万病のもと
肥満は寿命に直結します。2002年に報告されたラブラドール・レトリーバーの研究では、カロリー制限を行った適正体重の個体と食べたいだけ食事を与えた肥満の個体では、寿命が1.8年もカロリー制限群(やや引き締まった体形)のほうが長かったと結論付けています。大型犬の寿命で1.8年はヒトで10年から15年の寿命に相当します。(※)
骨関節症やアトピー性皮膚炎の犬では、肥満が原因で症状悪化につながる場合があります。体重を減らすことで関節の負担が減り、皮膚病の治療やお手入れも楽になり薬の使用量を減らすことも可能です。
※出典:Effects of diet restriction on life span and age-related changes in dogs

飼い主さんはどのような経緯で来院されますか?

大半は肥満が原因で肢を痛めたり、犬アトピー性皮膚炎の症状が出たりと、何らかのトラブルが出てきた時点で来院されます。またフレンチブルドッグのような短頭種では、呼吸困難で来院されることも多いです。肥満度が高くても愛犬の肥満に気づいている飼い主さんは少なく、長毛に覆われて体のラインが見えにくい犬種では肉付きがわかりづらく、短頭種のように頭が大きく体つきがしっかりした犬種ではなんとなく体のバランスがとれているように見えてしまうのでなおさらです。加えて、飼い主さん自身が「ぽっちゃりしていてかわいい」と感じてしまうこともあり、気づかないうちに肥満が進行してしまうのです。
こうした場合、病気の治療と同時に減量指導を必ず行います。
適正体重をアドバイスしてくれる動物病院を選ぼう
犬の肥満が増えている背景には、獣医師の「啓蒙不足」もあると考えています。今は肥満犬を厳しく指導しているこの私も、以前は飼い主さんに「この子は太っている」と伝えるのが失礼なことに思えて、なかなか強く減量を薦めることができませんでした。愛犬の肥満度を客観的にチェックしてくれる場所は、動物病院しかありません。
「うちの子、太ってる?」と思ったら、遠慮なく相談してください。体重管理までしっかりアドバイスしてくれる獣医師のいる病院を選ぶことが、愛犬の健康を守る大切な一歩になります。

獣医師は頼れる減量指導のパートナー
病院での減量指導について教えてください。

犬の減量指導は、れっきとした医療行為です。人間のダイエットも自己流だとうまくいかないように、獣医師という伴走者がいてこそ成功できるもの。減量の第一歩は、まず現在食べている量を正確に把握することです。「レコーディングダイエット」のような形で、何をどれだけ食べているかを把握し、減量のプランを決めていきます。
減量指導の流れ
- STEP1:BCSスコアを見ながら犬の体に触れ、肥満の状態を確認する
- STEP2:おやつを含めた1日の食事量を把握する
- STEP3:運動量や生活環境をヒアリングし、病気の有無を確認。療法食の選択や給与量を決め、アドバイスを行う
- STEP4:2週間毎を目安に、次回来院時の目標体重を設定。自宅で週に一度体重を測りながら通院を続ける
療法食とはどんなものですか?


病気に配慮した栄養設計のフードで、獣医師の指示で処方します。減量用の療法食は低カロリーで栄養のバランスがしっかりとれるので、減量中でも食事の量を減らさずにすみます。
おやつについてもよく質問を受けますが、おやつは犬のためというより、飼い主さんが「喜ぶ顔を見たい」と思ってあげることが多いです。ご家族みんながそれぞれおやつを与えていると、過剰なカロリーで犬が太ってしまいます。
減量中は1日分の療法食をあらかじめ計量しておき、その中からおやつ用として取り分けるのもおすすめです。減量中でも減量用のおやつもあるので、おやつを完全にやめる必要はなく、カロリーや量を調整しながら与えることが大切です。
減量成功のカギは「家族みんな」で取り組むこと
獣医師のサポートがあっても、実際に減量を行うのは飼い主さんです。しっかり食事管理をしているのに、家族の誰かが内緒でおやつをあげてしまっていた…そんなケースはよくあります。だからこそ家族間で肥満における病気の発症リスクを共有し、協力してもらうことが減量成功のカギになります。

減量用の療法食を食べてくれない場合はどうすれば良いですか?

療法食をおいしく食べてくれる子も多いですが、もし口に合わない場合も心配いりません。食事内容を変えなくても、食事量を調整し長期間かけてしっかり体重管理をすれば減量は可能です。犬の減量は短期間で結果を出すものではなく、無理のないペースで続けるものです。その子の好みやご家族のライフスタイルに合わせて、マイペースで取り組める方法を獣医師と一緒に探していきましょう。
通院の頻度や、期間の目安について教えてください。

2週間に一度のペースで来院をお願いしています。減量のモチベーションを維持し、2週間後の目標体重を達成した喜びを獣医師と共有することで、次回への励みにもなります。もし1ヶ月に1回しか来院できないという場合は、必ず自宅で体重を測って記録してもらいます。1週間で1~2%の減量を目標とします。体重が変わらない、増えてしまったという場合は、減量プランの調整も行います。
体重の考え方
5kgの肥満の小型犬が理想体重の4kgを目指すとしましょう。ご家族はたった1kgの減量と思うかもしれませんが、5kgの犬が4kgになるということは、人に換算すると60kgの人が48kgになったのと同じ感覚です。つまり犬が100g痩せたということは、人でいうと1.2kg痩せたのと同様です。
減量の目安は1週間で1%~2%です。2週間毎に目標体重を設定するため、ご家族はその間に食事制限や遊びを頑張って、意気込んで体重測定に臨まれます。
あれだけ頑張ったのに、たったの100gしか痩せてない!とがっかりされるのですが、「60kgの人が1.2kg痩せたのと同じです。順調ですよ!」とお話しすると、モチベーションも維持でき引き続き減量プログラムに取り組めます。
この感覚をいつも念頭に置いて、日常的に体重を計測することはとても大切です。
また、減量をしていないのにも関わらず体重が減少している時は病気の可能性もあります。
特に、中高齢の犬で気を付けないといけないのは、糖尿病、腎臓病など。これらの病気は体重が減少します。病気の早期発見においても、体重測定はとても重要なのです。

おすすめの運動プランはありますか?

減量の話をすると、日々のフードを減らすもしくは減量用のフードに変更することよりも、運動さえすれば痩せることができると考えがちです。しかし、ヒトと同様、肥満の犬が運動で大きくエネルギー消費をするのは現実的ではありません。
肥満状態の犬を無理に運動させると関節、循環器や呼吸器に負担がかかります。まずは食事管理で体重を減らすことが先決です。
体重減少に合わせて散歩で少しだけ遠くまで行ってみたり、好きな遊びを取り入れたりと、性格や好みに合わせて無理のない範囲で運動を取り入れると、自然と活動的になっていきます。犬は適正体重になれば普通に動く子も多く、もともと散歩が嫌いだと飼い主さんは思っていたのに、実は散歩が大好きで、元気に遠くまで散歩するようになったというケースも少なくありません。
早食い防止フードボウルや知育トイもおすすめ
早食いを防ぐフードボウルや知育トイなども減量に役立ちます。ノーズワークなどの遊びも取り入れて、楽しみながら減量プログラムを成功させましょう。


減量を成功させ、リバウンドを防ぐポイント
減量でよくある失敗は何ですか?

病院で指導を受けながら行えば、基本的に大きな失敗はありません。しかし、自己流で進めると犬を危険な状態にしてしまうこともあります。減量指導はれっきとした医療行為。獣医師のアドバイスに沿って進めることが大切です。
よくある失敗の1つは、すでに適正体重まで減量できているのに「もっと痩せさせなければ」と思い込み、必要以上に痩せさせてしまうケースです。反対に、減量用の療法食だからといって好きなだけあげてしまうのもNGです。どんな食事でも、食べ過ぎれば体重は増えてしまいます。
こうした失敗を防ぐポイントは、獣医師と一緒に減量を進めること。そして、犬の適正体重をきちんと把握することです。そうすれば、リバウンド予防にもつながります。

減量を達成した後のご飯はどうすれば良い?

通常のフードに戻す場合は、療法食と1日のエネルギー量が同じになるよう量を調節します。減量後に長期的に与えても問題ないように作られた療法食であれば、そのまま続けても良いでしょう。減量後も2週間に一度の体重測定を習慣にし、獣医師に相談しながら、ベストな方法を見つけましょう。
横井先生からのメッセージ
犬の体重管理について
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肥満は動物たちのQOL(生活の質)を下げるばかりか、骨関節症、呼吸器疾患、糖尿病などさまざまな疾病の引き金となり、医療費を増加させます。獣医師の役割は、家族の一員である動物たちを健康で長生きさせることです。飼い主さんが愛犬の適正体重を意識し管理することで、犬はより健やかな毎日を過ごすことができるでしょう。体重管理は、健康寿命を延ばすための最も大切な取り組みのひとつです。ぜひ一度、かかりつけの病院で適正体重かどうかを尋ねてみてください。この記事が、大切な愛犬と過ごす楽しい時間をより長く持つことに役立てば幸いです。 |
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取材にご協力いただいた病院
VCA Japan 泉南動物病院 院長。日本獣医臨床学フォーラム幹事。日本獣医皮膚学会認定医であり、理事も務める。北里大学獣医学部卒業後、30年以上にわたり犬や猫の診療に従事。皮膚科・耳科・肥満を中心に幅広い診療を行う。年齢に応じた健康診断や老齢期の生活の質(QOL)の向上、がん終末期の緩和ケア、介護ケアにも力を入れている。<br /> 地域貢献活動にも積極的で、保護猫・保護犬のためのカフェ「ネコリパブリック大阪熊取町店」の立ち上げや、NPO法人「しっぽのごえん」の設立を通じて、譲渡会やしつけ教室、市民セミナーを開催。人と動物が互いに幸せに暮らせる社会づくりに取り組んでいる。自宅では犬1匹と猫2匹、病院でも犬1匹と猫2匹と暮らし、なかでもヨークシャー・テリアのちくわちゃんを溺愛。

