「ペットのお悩み相談室」は、オーナーからの質問に獣医師が直接お答えするコーナー。毎回さまざまなオーナーゲストをお招きし、ペットの心配事をお話していただきます。
ゲストは、前編、中・愛犬編に引き続き、タレントのつるの剛士さん。今回は愛猫チャコちゃん(スコティッシュフォールド/12歳/女の子)についてのお悩みです。「肥満化やシニア期のリスクとうまく付き合っていくための秘訣は?」というつるのさんの質問に、前回同様、TRVA夜間救急動物医療センター院長の中村篤史先生にアドバイスいただきました。

つるの剛士さん
愛猫チャコちゃん
スコティッシュフォールド 12歳 女の子。以前、つるのさんが深爪したことを覚えており、今では長女にしか爪を切らせてくれない。アグが同じフロアにいるときは、家の中を歩き回らず、アグの手が届かないケージの上を定位置にして静かに過ごしている。


愛犬アグちゃん
サモエド 8歳 女の子。つるのさんから「アグオ先生」の愛称で呼ばれている。子犬の頃に1年間、訓練学校でしつけを受けており、指示には素直に従う穏やかな性格。散歩が大好きで、チャームポイントはいつも出ている舌。シベリア原産の犬種だけに夏は苦手。

中村 篤史 先生
つるのさんが聞きたい!
ペットのケアのコツ<愛猫チャコちゃん編>
12歳の愛猫チャコ。シニア期でもあり、年々太ってきているので、リスクを知っておきたいです。

前編では、チャコちゃんが運動不足で太ってしまった、というお話がありましたね。チャコちゃんの体調はいかがですか?

チャコは毎日元気そうに過ごしています。ただ、太ってきたのと、高齢になってきたことが、ちょっと心配ですね。毎日ケアしていく中で、オーナーとして気をつけるべきことがあれば、ぜひ教えてください。

太ることやシニア期についてのリスクを知っておくと、安心ですよね。オーナーさんに覚えておいてほしいチェックポイントもあるので、一つ一つお話しましょう。

今回もよろしくお願いします!
太ることのリスクについて

Q. 太ってきたことで、今後気をつけた方がいいことはありますか?
最近はチャコの体重もかなり増え、顔がふっくらしてきました。一般的に太っていると、どんなリスクがあるんでしょうか?

太っている猫さんが急にごはんを食べなくなったときには、急性肝不全を起こすリスクがあります。関節炎と糖尿病にも気をつけて。
太っている猫さんで特に注意してほしいのは、「肝リピドーシス」という病気です。これは太った猫が何かの事情でごはんを3日間ほど食べなかったときなどに、急性肝不全を引き起こす可能性がある病気の一つです。「肝リピドーシス」は、嘔吐し続けるうえに致死率も高く、猫にとって本当に恐ろしい病気なんです。

太っていて体脂肪が多いと、しばらく食べなくても大丈夫だろうという気がしますが、逆に危ないんですね。

一般的には、ごはんを食べなくなると、少しずつ体内の脂肪をエネルギーに変えていきます。ところが猫の場合は、それが急激に起こるんです。そのため体中の脂肪が一気に肝臓に集まって、短時間で脂肪肝ができあがり、肝臓の働きが完全に止まってしまいます。“太っている猫”が1、2日でも“ごはんを食べなくなった”ときは、必ず早めに受診してください。

はい、しっかり覚えておきます。太っているリスクは、他にもありますか?
(写真Instagramより)2021年3月1日の投稿

やはり太っていると関節に対する負担が心配です。特にスコティッシュフォールドは、元々関節炎を持っている子が一定数いる猫種なので気になりますね。その他に、肥満も糖尿病のリスクにもなります。糖尿病も体質が影響する部分はありますが、肥満に関するリスクの一つとして、気をつけていただくといいと思います。

関節炎と糖尿病ですね。これからも、しっかり様子を見ていきたいと思います。
シニア期の猫が気をつけるべきこと

Q. 12歳になったチャコ、毎日のケアで気をつけるべきことはありますか?
高齢になった猫のオーナーとして、今後気をつけるべきケアはありますか?

猫にとって12歳頃は体のターニングポイント。関節炎と腎機能には要注意です。
ちょうど12歳頃は、猫さんの体にとって1つのターニングポイント。具体的には、12歳を過ぎた頃から、関節炎が起こりやすくなります。まずは歩くことをおっくうがるなど、変わった様子がないか気をつけて見てあげましょう。

アグがいないときは、チャコも部屋の中を歩き回るので、様子を見ておくようにします。
(写真Instagramより)2021年5月10日の投稿

もう一つの重要な変化は腎臓についてです。個体差はあるものの、全体的に10~12歳を過ぎると腎機能が落ちてくる子が増えます。知らない間にすごく重篤な腎不全だったというケースもあるので、一度病院でチェックしておくことをおすすめします。

腎臓の検査はすぐにできるのですか?

腎臓については一般的には、血液検査、尿検査、超音波検査で調べます。一般的な健康診断の項目にも入っていますし、ワクチン接種のときに一緒に検査される方も多いですよ。一度検査して健康だったら、その後は一年おきくらいのペースでいいと思うので、12歳頃から定期的にチェックしてみてください。
愛猫が12歳になる頃から気をつけること
- 1. 関節炎
関節炎が起こり始める年齢なので、歩き方の変化や歩くのを嫌がらないかなど、日ごろからチェックをしておく。
- 2. 腎機能
腎機能が低下し始める年齢なので、一度病院で検査しておくと安心。
おしっこの量や回数の変化について

Q. おしっこの回数が増えるのは、何かのサインでしょうか?
一時期、「チャコのおしっこの頻度が増えたな」と思うことがありました。今は普段の回数に戻ったのですが、どんな原因が考えられますか?

猫のおしっこの量、回数、色からは、さまざまな病気がわかります。
「猫」×「おしっこ」は、日々の健康状態をチェックするうえで、すごく重要なポイントです。猫オーナーとして、すばらしい着眼点ですね。
今回のように一時的におしっこの頻度が増えるのは、膀胱の問題だと思います。例えば、今まで一日3回くらいだったのが10回くらいになれば、膀胱炎が考えられます。その他には、尿路結石の可能性もありますね。

そうだったんですね。おしっこの量がいつもと違う場合はどうですか?

一度にするおしっこの量が増えたときは、糖尿病や腎不全の症状かもしれません。糖尿病の場合、糖分がおしっこから出ると、水分も一緒に出ていくので、喉が渇きます。すると、よく水を飲むようになり、おしっこの量も増えてくるんです。また、腎臓が悪くなった場合も、水分がおしっこからどんどん出ていくようになるので、おしっこの量が増えます。

おしっこの色からは、どんなことがわかりますか?

色の変化では、膀胱炎のときに血尿が出ることがあります。他にも、いつもより黄色いおしっこのときは、肝機能の問題が考えられ、「肝リピドーシス」の可能性もあります。また、脱水症状の場合も濃い色になりますね。

おしっこは、愛猫の体調を知る手がかりとしてとても重要な情報なんですね。

ぜひこれからも、毎日のケアの中で注目しておいてください。病院に行く際は、おしっこの量や回数、色もチェックしておくと、病気の原因が判明しやすくなると思います。
愛猫のおしっこの注目ポイント
- 1. おしっこの量(水を飲む量)が増える場合
糖尿病になっていたり、腎不全を起こしていたりする可能性あり。
- 2. おしっこの回数が増える場合
膀胱炎や尿路結石になっている可能性あり。
- 3. おしっこの色がいつもと違う場合
赤色(血尿)は膀胱炎の可能性あり。いつもより黄色い場合は「肝リピドーシス」など肝機能のトラブル、濃い色は脱水症状の可能性あり。
目ヤニの多さについて

Q. 目ヤニはどうして出るのですか?涙焼けができるので、見ていてかわいそうです
チャコの目ヤニに長年悩んでいます。涙焼けができるのもかわいそうで、時々病院に連れて行っているんですが、そもそもどうして目ヤニは出るんですか?

幼い頃に暴露されたウイルスが、繰り返し目ヤニを起こすことがあります。目ヤニの色やまぶたの状態に気をつけておきましょう。
目ヤニは生理現象で出ることもありますが、ウイルスが原因の場合も多いです。子猫の頃に暴露されたウイルスが体内に残り、疲れたり体調が悪くなったりしたときに、繰り返し目ヤニが出てきます。人間でいうヘルペスのようなもので、チャコちゃんのように、子猫の頃からずっと出てる子が多いですね。チャコちゃんの目ヤニは何色ですか?
(写真Instagramより)2018年12月4日の投稿

乾いて茶色になっています。最初は透明かもしれません。

透明の目ヤニで、茶色っぽく残るのであれば心配いりません。もし、目ヤニが緑色になっていたり、目が半開きになっていたりしたら、ブドウ膜や角膜に炎症が起きている可能性があるので、早めに受診しましょう。

なるほど、これからも目ヤニの状態をチェックしつつ、うまく付き合っていきたいと思います!
動物を飼い始めるときに、命について子どもたちと話し合うのが、つるの家スタイル

つるのさんのお子さんたちは、チャコちゃんやアグちゃんと、とても仲良しですよね。子どもたちにとってチャコちゃんやアグちゃんはどのような存在でしょうか?

ペットには「命」の大切さを教えてもらっていると思います。歴代の子たちを看取った際も本当に辛くて、そのときはみんなで泣きました。でも、そこから生きることの尊さと死ぬことについて、哲学のようなものを子どもたちはたくさん学んでいると思いますね。

大切な存在だからこそ、お子さんたちにまっすぐに伝わるんですね。
(左:写真Instagramより)2019年2月11日の投稿/(右:写真Instagramより)2022年1月4日の投稿

つるの家では動物を飼う前に、必ず寿命について子どもたちと話し合います。「限られた命だから、一緒にいる間は一生懸命かわいがって、楽しい思い出をたくさん作ろうね」と。それで今、子どもたちはチャコのこともアグのことも全力で愛していますね。

どうしても、犬や猫は人より寿命が短いですからね。

そうなんですよ。その中で、僕はお別れの日が来ても泣き崩れずに家族を支えられるよう、一線を引いて接するようにしています。と言いつつ、きっと誰よりも泣いてしまうんですけど!でも、「みんなと過ごしたこの子たちは幸せだったと思うよ」と伝えてあげて、子どもたちがペットとの楽しい時間をそのまま心に残せるよう、傍で支えられる父親でいたいと思っています。

つるのさんは、精神的にも一家の大黒柱ですね。これからも、チャコちゃん、アグちゃんとお子さんたちとの暮らしを、みんなで楽しんでくださいね。
チャコちゃんのこともアグちゃんのことも、そしてお子さんたちのことも、とても愛おしそうに話してくださった、つるの剛士さん。日ごろから常に、相手をよく見て、察して、寄り添っているつるのさんの姿が、自然と目に浮かんできました。
チャコちゃんの大好きな動物用のおやつをつるのさんが食べてみたというお話もあり、その徹底した寄り添いぶりに、中村先生が思わず「さすがですね!」と唸る場面も。
「オーナーさんの気づきがペットにとっても何より重要。いつもと様子が違うときは、いつでも獣医さんに相談してくださいね」と、中村先生は笑顔でつるのさんを見送りました。
これにて、全3回でお届けした「つるの剛士さんのお悩み相談室」はおしまいです。次回の「お悩み相談室」がオープンする日も、どうぞお楽しみに!