日本獣医生命科学大学付属動物医療センターで腫瘍内科を担当する吉田佳倫先生からバトンをつないでいただいたのは、ファミリー動物病院院長・杉山大樹先生です。地域のホームドクターであり、獣医腫瘍科Ⅰ種認定医としてセカンドオピニオンによるがんの治療も行っています。専門分野を持つことの重要性やがんの早期発見のために伝えたいことをうかがいました。
杉山 大樹先生
目次
専門分野を持つことが医療全体の質を上げる

動物病院の院長を務めながら、獣医腫瘍科Ⅰ種認定医として専門診療も行っているそうですね。
父が開業したファミリー動物病院は、一般診療を行うホームドクターとしての役割もありますが、質の高い獣医療を提供するには専門診療も重要です。知識や技術を幅広く少しずつ重ねるよりも、1つの分野に突出したほうが結果的に他の分野への理解も深まります。例えばサッカーの場合でも、満遍なく平均以上の選手よりも、得意分野を持つ選手のほうが必要とされるのと同じではないでしょうか。
獣医療の中で専門分野を持つことで他の専門の先生方ともつながりができやすいんです。獣医腫瘍科Ⅰ種認定医の私は様々ながんの治療について相談されるし、当院に整形外科疾患の犬が来院した場合には整形外科の先生に紹介することもあります。治療を進めるにあたってより詳しい獣医師に相談できるネットワークがあれば、飼い主さんとわんちゃん・ねこちゃんにとっても大きなメリットになりますよね。
腫瘍科などの専門診療科は、キャリアを積んだ獣医師が担当するという印象がありました。
当院の勤務医には2年目から、消化器科や腫瘍科の認定医を目指して研修に行かせているんですよ。私が高校3年生のときに腫瘍科の獣医師を目指したこともあり、専門分野を早い時期から勉強したほうが伸びると思っています。その分野を好きであるに越したことはありませんが、生涯続けられるかどうかを考えることも必要ですね。
ただ、私が腫瘍科を目指したきっかけは意外と単純。父が主催する「六人会」という勉強会で、腫瘍の講演をしていただいた信田卓男先生の「THE 外科医」といった雰囲気がかっこよくて、自分も同じ分野を学びたいと思ったから。父の後を継ぐために麻布大学獣医学部への進学は決まっていましたが、腫瘍科の研鑽を積むことにしました。

恩師と偶然に出会ったことが現在のキャリアにつながっているんですね。
大学附属動物病院の腫瘍の症例カンファレンスに誘われて大学3年生のころから参加し始めました。机上での知識が実際の臨床症例に繋がっていることを実感し、本当の意味で獣医学に目覚め始めたころでもあります。私は学生時代、腫瘍科を専門に学んでいましたが、父が眼科診療に力を入れていましたので、将来的には腫瘍科と眼科の2つの得意分野を持つことが目標だったんです。
ただ、専門診療科を突き詰めていくと、やはり1つに選ばなければいけない。妹が眼科を専門に学び始めたこともあり、私は腫瘍科を選んだわけです。卒業後は当院で獣医師として勤務を始め、2年目には麻布大学附属動物病院腫瘍科専科研修医をスタートしました。
とにかく勉強したくて仕方がなかったから、千葉県、神奈川県、三重県を飛び回っていました。獣医師になってから10年間くらいは週休0.5日。腫瘍科の特任教員を経て、42歳の時に父から院長を受け継ぎ、今は当院での診察をメインにしています。
獣医師が成長するための勉強会で、ネットワークができた

杉山先生のように専門分野を持つホームドクターの存在は、飼い主さんにとって心強いと思います。
私は一般診療も行っていますが、その分野でもっとうまく治療ができる先生がいれば積極的に紹介しています。自分が不得意な分野を一生懸命診るよりも、その道の専門医に頼んだほうが質の良い医療を受けられますから。自分が専門性を持っていると自負しているので、他の診療科の先生も信頼しています。
飼い主さんがわんちゃん・ねこちゃんのためにセカンドオピニオンを受けたいと思いながら言い出せず、黙って転院してしまうことがありますが、主治医からカルテが共有されなければ、転院先では今までの治療の経過がわかりません。ホームドクターとして、飼い主さんが気軽に相談できる関係も大切にしています。
現在の専門診療科のネットワークをどのようにつくられたのでしょうか?
最初は父が開いていた「六人会」という勉強会がきっかけですが、だんだんジェネレーションギャップを感じるようになったんですよね。そこで同年代の先生と計画し、「六人会」の青年部という意味を込めて2011年に「六青会」を立ち上げました。若い世代がもっと成長していかなければいけない、講演を聞く側ではなく登壇する側にならなければいけない、と思ったことも理由です。
学会に行くたびに若手の獣医師に「一緒に勉強会をしよう」と声をかけて、眼科、整形外科、麻酔科、皮膚科……と賛同する仲間がどんどん増え、先日には51回目(※記事公開時点)を開催できました。いつも30~40人が参加してくれて、私のネットワークは六青会を通じて広がったんです。今は愛玩動物看護師や獣医学部の学生も参加しているんですよ。

獣医療に関わる幅広い方々が集まっているんですね。
腫瘍に特化した「犬猫しこり委員会」という勉強会も始めました。開始した理由は、関西地方で開催している「がんオタ」という勉強会に参加したときに内容の濃さに驚き、これは負けていられないと思い、「西のがんオタに対抗して、東にも腫瘍の勉強会を立ち上げる」と意気込んだからです。年2回の日本獣医がん学会の前日に、「犬猫しこり委員会VSがんオタ」というコラボレーションの勉強会も開いています。
「六青会」、「犬猫しこり委員会」を立ち上げた中心メンバーである私たちが40代になったので、参加しづらいと思っている若手の先生もいるんじゃないかと思うんです。この委員会は、症例の発表の場なので、獣医師になって1年目、2年目の先生方も登壇しています。このインタビューを読んでくれた獣医師の方はぜひ参加してほしいですね。みんなで集まってワイワイと楽しみながら学びましょう。
ライフワークは腫瘍の早期発見・早期治療の実現
動物の健康を守るために取り組んでいきたいことを教えてください。
腫瘍科の立場から言うと、一番やりたいことは腫瘍の早期発見・早期治療の実現です。ライフワークとも言えますね。ホームドクターとして健康診断を徹底するよう飼い主さんに伝えたい、と思っています。動物は人より歳を重ねるのが早いので、7歳までは年1回、8歳以降は最低でも年2回の健康診断をおすすめします。
わんちゃん・ねこちゃんの健康診断を毎年受けているという飼い主さんでも、血液検査しか実施していないこともありますが、当院ではエコーやレントゲンなどの画像診断を必須としています。当院は猫にやさしい動物病院を目指して猫専用病棟を設け、国際猫医学会認定キャットフレンドリークリニックのゴールドレベルを取得しています。
キャットフレンドリーな診察室
腫瘍の早期発見のために、飼い主さんに伝えておきたいことをうかがえますか。
しこりを見つけたら、必ずかかりつけの動物病院を受診してください。「ちょっと気になるけど大丈夫かな?」と思ってはいけません。飼い主さんが気づいた時点で重病のサインと思ったほうがいい。小さなことでも気にせず獣医師に相談することがわんちゃん・ねこちゃんのためになります。私たち獣医師と飼い主さんが協力して動物の健康を守っていきましょう。
ファミリー動物病院・杉山大樹先生のバトンの回答
吉田先生
Q1.もし獣医師以外の職業に就くとしたら、どんな道を選びたいですか?
杉山先生
人が集まる場を提供するのが好きだから、沖縄県で素泊まり宿をやりたいですね。ウォーターサーバーに入れた泡盛を自由に飲みながら、初めて会った人とも仲良く賑やかに夜を過ごしたい。
吉田先生
Q2.日々の忙しさの中で、自分らしさを取り戻すリフレッシュ法があれば教えてください。
杉山先生
夏は釣り、ダイビング、素潜り。冬はスキーのバックカントリー。もともと多趣味なので、週休0.5日のときでも隙間時間に全力でリフレッシュしていました。オン・オフの切り替えは得意です。
吉田先生
Q3.飼い主さんとの関わりや動物を診療する際に、最も大切にしている信念は何ですか?
杉山先生
当たり前のようですが、飼い主さんとわんちゃん・ねこちゃんにとってベストな方法を考えること。私が治療をするべきなのか、他の専門診療科の先生に頼むべきなのか。悔いのない治療のために、相談を重ねることも必要だと思います。
東京動物皮膚科センター 大隈 尊史先生へのバトン
Q1.今年中に仕事に関係ない物で何か高価なものを買うなら、何を買いますか?
Q2.今年中に仕事に関係ない趣味を一つ始めるとしたら、何を始めますか?
Q3.今年中に何か仕事に関係ない資格やライセンスを一つ取るとしたら、何を取りますか?

ファミリー動物病院(千葉県)院長。獣医腫瘍科Ⅰ種認定医。日本獣医がん学会副会長、同認定委員会副委員長。麻布大学を卒業後、なるかわ動物病院(現・三重動物医療センター)に勤務。麻布大学附属動物病院腫瘍科主任研修医、同学特任教員(一般外科、腫瘍科等)を歴任。現在は父(杉山芳樹先生)が開設したファミリー動物病院の院長に就任。獣医療関係者による勉強会「六青会」や「犬猫しこり委員会」を主催し、専門診療科の獣医師をつなぐネットワークを構築している。
