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愛情でここまで進んだ日本の動物保護。あと一歩で、奪われる命はゼロにできる ①

愛情でここまで進んだ日本の動物保護。あと一歩で、奪われる命はゼロにできる ①

 
太田 快作
      

「すべての動物たちに幸せな毎日を ~つなぎ手たちのメッセージ~」企画は、「動物たちが健やかに幸せに暮らしていける社会をつくりたい」と奮闘している方々の活動や思いを紹介するシリーズです。
今回、お話を伺ったのは学生時代から動物保護に力を注ぎ、動物愛護の先駆者として、獣医師となった今もその活動に尽力しているハナ動物病院の太田快作先生。自身の活動について、「動物が好きだから、犬も猫も目が合えば拾うし、助けたいと思うし。当たり前のことをやってるだけなんですけどね」とはにかむ先生に、日本の動物保護活動についての考えや「すべての動物たちが幸せを掴むために、私たちにできること」についてじっくり伺いました。

プロフィール

太田 快作 先生

東京都杉並区出身。2006年北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業。東京都、神奈川県、埼玉県の動物病院勤務を経て、生まれ育った杉並に戻り、2011年12月に開業。地域に根ざした動物医療の提供に励む傍ら、学生時代から取り組み続けている動物保護活動にも尽力。活動の意義を伝える講演会などの実績も多数。2021年には、大学時代に自ら創設した動物保護サークル「犬部」がモチーフとなった映画「犬部!」が公開。太田先生が当時から力を注いでいた、大学における動物実験の廃止、動物実験代替法の導入、保護活動の様子などが描かれた。

■関連書籍
犬は愛情を食べて生きている』(山田あかね著:光文社)※太田快作先生の評伝
映画小説版 犬部!』(山田あかね著:朝日文庫)
北里大学獣医学部 犬部!』:(片野ゆか著・ポプラ社)

■映画『犬部!』公式HP
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目次

学生時代から力を注いだ動物保護活動。その原動力は「動物が好きだから」

ハナ動物病院太田快作先生

太田先生が動物保護活動に力を注ぐようになったのには、何かきっかけがあったのですか?

正直に言うと、大学時代からずっと「保護活動をしている」という意識はないんです(笑)。僕自身、単に動物が好きで、だからこそ拾う回数が多いだけで。犬も猫も目が合えば連れて帰るし、みんな助けたい。当たり前のことをしているだけだと思っています。大学時代、青森で一人暮らしを始めてすぐに、犬を譲ってもらいに保健所に行ったんですが、その時も「ここにいる子を全員ください」と言いました。その時は4匹の子犬がいて、驚いた職員さんに「他にも貰い手がいるから」と断られましたけど。最終的に最後まで残っていた白い子犬を連れて帰って、花子と名づけて飼いました。当時は、花子との生活が本当に楽しみだったし、犬を飼うことは獣医師として必要なことだとも思っていましたね。それ以降も近所で犬を拾ったら、自宅に連れて帰って花子と一緒に育てました。何匹も飼っていることが周囲に知られるようになると、友達からも「犬がいるんだけど」といった連絡が入るようになって、どんどん数が増えていったんです。

そんなに頻繁に、迷い犬や猫に出会うものですか?

犬も猫もしょっちゅう見かけて、連れ帰っていましたよ(笑)。青森は自然豊かな場所で、今よりずっと昔なので、野良犬、野良猫も多かったんです。自転車で学校に行く途中で、ガサガサッと茂みの奥で何かが動けば、「あ、犬がいる」とすぐに捕まえに行っていました。好きだからよく気がつくし、だからこそ拾う回数が多いだけだと思います。

保護猫を抱っこしている男性獣医師保護猫のサビ(仮)ちゃん。爪を立てがちな子もするりと抱き上げる先生

先生の犬猫レーダーが発達しているんですね。当時は最高で何匹くらいの犬や猫を保護していたんですか?

アパートは1Kで、4畳のキッチンと9畳くらいの部屋だったので、20匹を超えると「多いな……」と感じていましたね。寝る場所だけは確保したかったので、ロフトベッドにして床は犬たちのスペースにしていました。ご想像の通り勉強する場所はありません(笑)。

なるほど(笑)。犬や猫がたくさんいたその自宅をベースに、動物保護サークル『犬部(いぬぶ)』の活動が始まったんですか?

『犬部』には紆余曲折あるのですが、最初は「大学の実験動物舎で飼われている犬の散歩をするサークル」としてスタートしています。その後、周辺地域の飼育崩壊現場から動物を保護して、避妊去勢手術をして、里親を探すなどの活動をみんなでやってきました。活動には当然お金もかかりますが、現地の動物愛護団体やボランティアの方々、活動を支持して手術を請け負ってくださる獣医師の先生のおかげでなんとか続けることができていました。

それらの活動と並行して、生体を使った外科実習を拒み、命を奪わない「動物実験代替法」を大学に導入してもらうための活動にも力を注いでいたと伺いました。

もともと、動物実験の反対活動や動物愛護には興味があって、青森に行く前から自分なりに調べたりもしていました。そんな中で大学1年次に北海道の牧場を手伝う機会があって。そこで仲良くなった牧場主の息子さんから、「海外には動物実験代替法という、動物を使わなかったり、苦痛を抑えたりする方法があるんだよ」と教わったんです。その時までは、「獣医学科に行くんだから、動物実験は当たり前」と思っていたのですが、命を奪わない方法があるなら、その方がいい。そこから、この問題に真剣に向き合うようになりました。
もちろん、動物実験から得られるものがたくさんあることは理解しています。僕自身も高校時代は生物部で活動していて、生物標本なども作っていましたし、当時はそう抵抗なくできたんです。でも、勝手な話ではあるんですが、どうしても「犬だけは」という思いがあって……。幼い頃からずっと犬を飼っていて、その頃も花子やその他の子たちとも一緒に生活していましたし、やはり自分の中で「犬」は特別な存在だったんです。だからこそ、動物の命を奪って知識を得ることや、そこに充実感を覚えてしまうだろう自分への嫌悪もあって、「動物実験代替法を全国の獣医学科に広める」という活動に力を注いでいました。

保護犬のシニアトイプードルを抱っこしている男性獣医師病院で保護中の高齢犬チョコくん。おむつをしつつ、病院内を散歩していたところを先生に抱きかかえられた

様々な葛藤があっての活動だったのですね。卒業してからは、どのような獣医師になりたいと思っていましたか?

動物愛護の先頭を切る、じゃないですけど、当時から民間に任せっきりだった動物愛護活動に、専門家としてきちんと関わっていける存在になりたいと思っていました。そうなるために、「もっと都会に出て勉強をした方がいい」とアドバイスを受けて、青森で就職するのではなく関東に戻ってきたんです。その後、様々な病院で経験を積み、2011年に地元の杉並区でこのハナ動物病院を開きました。

あと2、3万匹を保護できれば、「殺処分ゼロ」は達成できる。獣医師として動物保護の問題に目を背けず立ち向かいたい

ハナ動物病院太田快作先生

今では、動物保護団体の皆さんからも「困ったら杉並のハナに!」と頼りにされる存在となりましたが、これまで獣医師として、どのような取り組みをされてきましたか?

開業当時から、依頼があればどこにでも行って、保護動物の避妊去勢手術をしてきました。開業する少し前に東日本大震災があったのですが、「やれることがあれば、いつでも声をかけて」と現地のボランティア団体に連絡し、被災地に残された犬や猫の保護や、避妊去勢手術をしに福島に通ったりもしました。今も動物を保護したなど、困っている方たちからの相談は断らないようにしています。ここには設備もあるし、獣医師の僕もいるし、スタッフもいるので。「とりあえず、連れてきて」と。ただ、ここ最近は日常業務に忙殺されていて、思うように保護活動ができていないんです(苦笑)。もっとちゃんと両立したいんですが、現状は、やれる範囲でできることをやっている、という感じですね。

保護猫を抱っこしている男性獣医師保護猫のキジ(仮)ちゃんは大人しい性格で人にも慣れてきている

獣医師として、「保護活動でできること」とは?

動物保護においては、犬、猫それぞれの課題があります。例えば犬は、何らかの事情で飼えなくなってしまったオーナーからの引き取りや、放棄の問題が多い。一方で猫はいわゆる「野良猫」と呼ばれる、外にいる猫が繁殖して増えてしまうなどの問題がメインです。犬猫ともに保護活動のステップは、保護できる子を保護して、避妊去勢手術をして、飼い主を見つけること。現在はありがたいことに、「保護」「飼い主探し」をボランティア団体の方が担ってくださっているので、その間に必要な医療を提供することが僕たちの仕事になっています。

手術などの医療行為は我々獣医師にしかできないし、「やらない」という選択肢はないと、僕自身は思っています。人間の医療も同じだと思うのですが、依頼があれば医師には医療を提供する義務がある。獣医師としてやれることをやらなければならないはずです。
また、医療という面から、ある意味で動物業界を下支えしている我々が動物保護の問題に背を向けるのは、やはり間違いだと思うんです。例えば獣医師同士でタッグを組んで活動をしていけば、啓蒙も、保護活動ももっと力強く推し進められるはず。今後は、同じ想いを持つ獣医師が連携して、そういった体制を整えていけるといいなとは思っています。

ハナ動物病院太田快作先生

現在の日本の動物保護に関する課題を、先生はどう感じていますか?

日本の動物保護を取り巻く事情は、ここ数年で大きく変化してきました。僕が大学を卒業した2006年度当時、年間341,063匹(単純計算すると1日934匹が殺処分となっていた)だった犬猫の殺処分数も、2020年度には23,764匹まで減っています。この数字は、民間の団体、ボランティアの皆さんが、泥臭く地道にシェルターワーク(保護施設で動物を保護して、必要な医療を施し、引き取り手を探すこと)や、野良猫のTNR※などを続けてきてくれた結果であることは間違いありません。
これまで、「動物愛護が進んでいるのは欧米だ」と言われてきました。しかし、動物愛護および飼育環境における法規制が未熟で、諸外国に比べて助成金も少ない中、民間の「動物への愛情」だけでここまでの結果を出した日本は、すごいんですよ。まずは、そのことを知ってほしいですね。確かに、人々の「1匹でも多く」という気持ちに依存し過ぎている部分はありますが、「殺処分ゼロ」はもう手の届かない目標ではなくなっている。今後は、ここまで減少させてきた数字を「ゼロ」にするために何ができるかを考えることが大事になってきます。

殺処分ゼロを実現するために、今後はどのような行動が必要ですか?

本気になれば、「殺処分ゼロ」は実現できるところまで来ています。例えば、全国で約16,000あると言われる動物病院で1から2匹ずつ犬や猫を保護すれば、簡単にゼロにできますから。「そんな方法で殺処分ゼロにしたからと言って、根本的な問題は解決しない」という意見ももちろんあると思います。でも、まずは明日、処分される子を救うことから始めたいと僕は思うんです。泥臭くてもいいから、とりあえず、「殺処分ゼロ」にする。そこから、法規制や体制を整えたり、根本的な問題の解決策を進めていったりすることで、将来的に、「動物たちもみんな一緒に幸せになれる社会」を実現できればと思います。

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